5:water
「次はいよいよ魔法を実際に使うぞ!」
ノアが腕組みをして仁王立ちしている。
私はお屋敷の中の広い庭園に連れてこられていた。
「まずはさっき作った魔石を腕輪にセットする」
ノアがそう言ってもう手首につけている腕時計のベルトぐらいの巾をしたゴールドのバングルを私の方に少し突き出して見せてくれた。
縁の部分だけゴールドのライン状のデザインになっており、どうゆう仕組みか分からないがそのラインの間に魔石を近付けると吸い込まれるようにカチャリとはめ込まれ、腕輪の縁から浮いた状態を保っていた。
「ふわぁぁぁ!! めっちゃファンタジーっぽい!!」
私は思わず興奮して声を出してしまった。
すごい!
乙女ゲームに魔法のやり込み要素なんて無かったけど、案外作り込んでるじゃない!!
シンドーさん、見直したよ!
「…………」
ノアは変なテンションの私を睨んできた。
「そしてこうやって魔法をかけたい対象の方に手をかざして唱えるんだ。〝water〟」
ノアはそう言いながら私に向かって魔法を放った。
ノアの手のひらの先から水が出現し、渦を描きながら私に向かってきた。
「わわっ!!」
思わず腕で防御したが、ずぶ濡れになった。
「ハハッ! 魔法を習うやつの通過儀礼だ!」
ノアが楽しそうに笑う。
「ひどい!」
「ラズも俺にかけてみろよ」
水を滴らせながら怒っている私にノアはさっきの雫型の魔石を手のひらに乗せて差し出してきた。
「……」
私はそれを無言で受け取った。
そしてふと気づいて質問する。
「……腕輪は?」
「俺が初心者の時に使ってたやつをやるよ」
ノアがそう言って呪文を何やら唱えると、私の目の前に光の球が出来る。
「受け取れよ。落とすなよ」
ノアがそう言うので、慌てて光の球の下に両手を構える。
するとポトリと腕輪が落ちてきた。
転移魔法かな?
ノアのみたいに縁の部分だけライン状のゴールドで少しそのラインが細い華奢なバングルだった。
私はちょっとワクワクしながら腕輪をつけて、魔石もセットした。
「〝water!〟」
そしてノリノリで手をかざして叫ぶと、手の先からコップ一杯分ぐらいの水が出てノアにかかった。
「……魔法を使うのは普通だな」
ノアがそう呟いて、また呪文を唱えた。
すると私とノアのまわりに光の粒子と共に暖かい風が巻き起こり、濡れているのを乾かしてくれた。
「すごい!!」
私は次々に起こる魔法に感動した。
自分が出せるのも驚きだが、ノアの魔法は美しかったので一層感動した。
やっぱり将来、大聖者が確約してる人はレベルが違うのかな?
「……ちょっとその魔石貸して」
ノアが私の作った雫型の魔石を指差した。
「いいよ。どうぞ」
私は腕輪から外してノアに手渡した。
ノアは自分の腕輪にセットし、遠くの屋敷の壁に向かって手をかざす。
「……〝water〟」
ノアが呪文を唱えると、手のひらの先に光の粒子が集まりだした。
そして溜めのような時間のあと、さっきとは比べものにならないぐらいの大量の水と勢いで壁に向かって飛んでいった。
『ドゴーン!!!!』
屋敷の壁が壊れる音がした。
私とノアは思わずお互いを見つめ合う。
「……誰だー!? 屋敷の壁を壊したのは!?」
壊れた壁の方から大声で叫ばれた。
「やばい! 5番目の弟子のローランドさんだ! 逃げるぞ!!」
ノアがそう言って私の手を握り、走り出した。
「わわっ! 待って!」
引っ張られた私は慌てて付いていった。
「ハァハァ……ここまで来れば安全かな」
さっきの場所からだいぶ離れた屋敷の部屋の中に滑り込んだ。
2人ともダッシュしたので乱れた息を整えるために大きく肩で呼吸している。
「……でも、凄かったね。ノアの魔法!」
私は両膝に手をついて呼吸を整えていたので、顔を上げてそう言った。
「別に……ラズの魔石が凄かっただけだ」
ノアが褒められたことに照れたのか、頬を薄っすら赤くしてフイッと顔をそむけた。
「あはは! じゃぁ僕たち揃えば最強だね」
私は真っ直ぐ立って微笑んだ。
「……」
ノアはそっぽを向いたまま、目線だけを動かし私を見た。
「そうゆうことにしといてやるよ」
ノアがぶっきらぼうに言う。
本当に手のかかる弟みたいだ。
12歳の意地っ張りな少年らしいノアの態度がほほえましくて、私はつい笑ってしまった。
その時、部屋の扉が開いて誰かが入ってきた。
「……お前たちか!?」
「げっ。ローランドさん……」
ノアが青ざめた表情で入ってきた男性を見た。
結局、私たちは逃げたかいもなく、ローランドさんに揃って叱られるのだった。




