46:ケンカ
今日は休日なので、街にノアと遊びに来ていた。
私たちは手を繋いで歩きながら、いろいろ見てまわっていた。
今は雪が降ってはいないけど、街には雪が積もっており、辺り一面銀世界だった。
私は隣を歩くノアを見上げた。
「雪用のブーツとか買っとく?」
「そうだな。トルハの森はたくさん雪が降り積もって危ないしな」
「もうちょっとでエクセブル集め禁止期間も終わるし、気合い入れて準備しよっか」
「あぁ」
私たちはお互いを見つめて笑い合った。
「あ、ちょっと売ってる魔石見ていい?」
私は魔石のお店の前で立ち止まった。
そして繋いでる手をグイッと引っ張って、ノアも止める。
「……いいよ」
ノアが私をジトっと見つめた。
……ちょっと引っ張りすぎたかもしれない。
「何を探してるんだ?」
「うーん、こう狙いを定める……みたいな魔石と、同じ物体を認識する……みたいな? なんかそんなの」
「??」
「あー、これいいね! 『狙う』の魔石だ! ルミネージュ国は、武器タイプと相性がいい魔石が多くあるんだねー」
私は1つの魔石を手に取ってはしゃいだ。
それから目ぼしい魔石を数個購入し、店を出た。
「それをどうするんだ?」
また手を繋いで歩き出すと、ノアが聞いてきた。
「上手くいくか分からないけど、全体魔法の魔石を作ってみようと思って」
私はフフンと笑いながら続けた。
「アーヴァインは魔石を使うんじゃなくて、魔法薬を飲むらしいね。だから全体魔法の魔石って存在しないんだけど、ちょっと作ってみたくて……」
「…………」
「桜色の分析魔法の魔石も、そのために作ったんだ。強化もしたし、上手くいくといいけど」
私はニコニコしながら喋った。
するとノアが急に立ち止まった。
「??」
私も立ち止まってノアの顔をのぞきこむ。
「アーヴァインの話や、あいつとしたことの話ばっかりだな」
ノアが私と目を合わせずに、静かに語り出した。
「え? そーゆーつもりじゃ……」
「……ラズが、エクセブルのアーヴァインの順位が上がってるのを確認して、喜んでるのも知ってる……」
ノアが目を逸らしたまま少し悲しそうな表情をした。
「それは……!」
私が喋ろうとするとノアの言葉が遮った。
「俺ばっかり心配になって苦しい。心配し過ぎなのは分かってるけど……俺はこんなに好きなのに!!」
ノアがそう悲痛に叫んで、背中を向けて走り去って行った。
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薄暗くなってきたころ、私は1人、寮に帰ってきた。
そしてキャロルの部屋を訪ねてノックした。
「はーい。ってラズ、どーしたの?」
「……ちょっと話聞いてくれる?」
私はそう言って、街で買ってきたワインを袋から取り出した。
「じゃぁぜひコタツで!!」
キャロルがニシシと笑ってくれた。
私たちは、コタツのある私の部屋に移動した。
ノアは帰ってきていなかった。
ジュカル学園の従者に、ワインのあてになるような軽食を作るようにお願いし、部屋に持ってきてもらった。
「コタツってやっぱいいわぁ……で、どーしたの?」
キャロルがチーズを食べながら私に聞いてきた。
「なんか、ノアとケンカした……」
私は今日あった出来事をキャロルに説明した。
「なるほどねー。けど、ちょっとランドールの気持ちも分かるかも。ラズはあんまり嫉妬しないよね。すごく嫉妬しちゃうランドールからしたら、逆に不安になるんじゃない?」
「……ノアは若いし可能性がたくさんあるんだから、私が制限したくないの……ただでさえ魂の契約魔法とかで縛ってるのに……」
私は目を潤ませながら喋った。
「あー、濃い空気が来たー……じゃぁランドールが、ラズじゃない人を好きになってしまってもいいってこと?」
「…………うん」
私がコクンと頷くと、その振動で涙がポロポロっと落ちた。
「?? ラズってランドールのこと、そこまで好きじゃないの?」
キャロルが怪訝な目で私を見てきた。
「好きだよ。めちゃくちゃ好きだよ。……でもノアは、ゲームみたいに、ヒロインを好きになるかもしれない。それはノアの自由だと思うから……」
「そーお? でもそれって、今のランドールの気持ちを受け止めて無くない? 将来別れるかも……とか思って好き合うものなのかな? みんな付き合っているその瞬間は、永遠に続くと信じてるものでしょ?」
そう言い切ると、キャロルがワインを一口飲んだ。
そしてまた言葉を続けた。
「私なら、もし竜王様がディアナを好きになっても奪い取るわよ。……おかしい?」
「……ううん。キャロルらしい」
私は泣きながら笑った。
「もっと欲望に忠実に生きたら? ラズは気持ちが年上だからって遠慮し過ぎじゃない?」
キャロルが私の頭をなでなでしてくれた。
「……フフッ。キャロルみたいに?」
「そうそう!」
「アハハ!」
私とキャロルは声を出して笑い合った。
私の涙もいつのまにか止まっていた。
しばらくすると、玄関の扉が開く音がしてノアが部屋に帰ってきた。
「ランドールおかえり! じゃぁバトンタッチするわね」
そう言いながら、キャロルがコタツから立ち上がった。
そして玄関に向かい、そこにいるノアに話しかけていた。
「このお姉様に感謝してよね! ランドールの代わりにラズを慰めてたんだから。次、街に1人で置いてきたりしたら、誰かに取られちゃうわよ」
キャロルがそう言ってニシシと笑う。
「……分かってるよ」
ノアが不貞腐れながらそう言って、キャロルを追い払うかのように部屋の外に閉め出していた。
それからノアが、私の真横にくっついて座った。
ノアの体が冷えてたので、しばらくコタツで暖まるためにか静かだった。
…………
「ラズ、ごめんな」
「!!」
ノアの謝罪を聞いて、私は思わず泣き出してしまった。
「私もごめんね……!」
涙が後から後から溢れ出てくる。
「っそんなに泣くなよ」
ノアが珍しく慌てていた。
「……ラズ酔ってる? 酔ってるからこんな感じなのか?」
「うえーん!!」
私はノアの呟きを無視して、ノアに勢いよく抱きついた。
「うわっ!」
私の勢いが良すぎて、ノアが体勢を崩して後ろに倒れた。
仰向けに寝そべったノアに、私は覆い被さるように抱きついて、胸に顔を埋めた。
その状態でシクシク泣き続ける私の頭を、ノアが優しく撫でてくれていた。
それから私はムクっと顔だけ上げて、ノアと目線を合わせた。
ポロポロと涙が落ちていくのも厭わずに。
「全体魔法が使いたいのは、ノアが喜んでくれると思ったから!」
私はノアに向かって叫んだ。
「アーヴァインが順位が上がって嬉しいのは、ノアがエクセブル集めを再開した時に、いっぱい集めやすくなるからだよ! 私たちがまた、たくさん集めた時に、クラスメートの誰かと並んどけば先生に怒られないでしょ?」
ノアは少し驚いた顔をして私を見つめていた。
けれど私は構わず続ける。
「全部ノアのためだよ! 全てのことをノアとしたいの! これからもノアだけがいい!!」
私はそういうと、またノアに突っ伏してうわーんと泣いた。
年下の彼に、思わず本心を泣きながらぶつけてしまった。
ごめんね。
あまり重荷になりたくなかったのに。
でもノアが離れるのは悲しい。
本当はこれからも一緒にいたい。
泣き虫な私は、幼い子供のようにノアの胸で泣きじゃくた。
そんな私をノアはギュッと抱きしめてくれた。
「ありがとう。……俺もラズだけがいい」
ノアの優しい声が聞こえた。




