45:analyze
今日も図書室でアーヴァインと落ち合っていた。
ライオネル王子は、あれから参加したり、しなかったり……
そんな感じで、気が向いた時だけ顔を出していた。
アーヴァインに魔法語を教えながらも、手が空いた時間に、私は図書室の魔導書に目を通していた。
「今日はラズベリーも勉強?」
アーヴァインが優しい笑顔を浮かべた。
「うん。ちょっと作ってみたい魔石があって……」
私は彼を見てニコッと笑うと、また魔導書に目を落とした。
「〝分析〟みたいな魔法を探してて……」
賢者に合格した時に、ダライアス様から聞いた『ステータスを見れるような魔法』があるハズだ。
私は乙女ゲーム『甘い魔法と魅惑の王子』の主要人物に、何故か組み込まれそうになっていた。
けれど、そのことを自分ではどうにか出来ないので、魔法に没頭することにした。
ーー現実逃避だ。
「〝分析〟かぁ」
アーヴァインが少し遠くを見ながら首を捻る。
「うん。何か知らない?」
「うーん、僕の国では聞かない魔法だね」
「私の国でも無いの。でもどこかにはあるらしくって…………あ!」
私はそう言いながら閃いた。
ルミネージュ国ではレベルの概念がある。
エクセブルの順位の一覧の名前の横には、レベルが載っているのだ。
どうにかして調べる方法があるはずだ。
「何か思い付いたの?」
ウズウズしだした私を見て、アーヴァインが楽しそうに笑いながら聞いてきた。
「うん! 先生たちって私たちのレベル知ってるよね? 何かそのことについて、分析する方法があるんじゃないかなって」
「そうだね。じゃぁ今からレックス先生に聞きに行く?」
アーヴァインが首をかしげた。
「……でも、まだアーヴァインとの勉強会の終了時刻になってないよ?」
私も首をかしげてアーヴァインを見た。
「フフッ。いいよ。僕も聞きに行きたい」
彼は優しく微笑んでくれた。
**===========**
アーヴァインのお言葉に甘えて、私たちは早速レックス先生の研究室を訪れた。
運よくレックス先生がいたので、事の成り行きを私は説明した。
「確かにそういった魔法はあるよ。ただ君たちのレベルを把握してるのは、個々のエクセブルにレベルを感知する魔法がかかっているからなんだ」
「…………」
「でも、自分のステータスを見る方法は他にあるぞ」
レックス先生がニコッと笑って、部屋の奥から一冊の本を取り出した。
「この本を両手に持って開くと、開いたページにその人のステータスが文字で浮かび上がる」
レックス先生がその本を私に差し出してくれた。
「……借りていいですか?」
私は本を受け取りながら聞いた。
「いいよ。今日中には返すんだぞ」
レックス先生が爽やかに笑った。
**===========**
私とアーヴァインは、レックス先生の研究室から退出し、廊下を連れ立って歩いていた。
「アーヴァイン、ありがとう! お目当ての物が借りれたよ!」
「良かったね。それで今からどうするの?」
「この本から魔石生成してみるの」
私はちょうどよく使われていない講義室を見つけて入った。
アーヴァインも続けて入って来てくれた。
「まずはこの本がどんな感じなのか、見てみよっか?」
私とアーヴァインは向かい合って立ち、私が持っている先程借りた本を見下ろしていた。
私はさっそく本を開けようと構えた。
……ちょっと待って。
私は、ステータスに見られたら困る文字が浮かぶことを思い出した。
「…………恥ずかしいから、1人で見させてね」
「あ、うん」
私が頬を染めて照れながらアーヴァインを見上げると、アーヴァインも釣られて照れてしまい、目を伏せた。
私はクルリと彼に背中を向けて、本を開いた。
本が一瞬だけ光り輝き、開いたページに私のステータスが浮かび上がった。
……やっぱり、魅力魔法のことが書かれてる。
気付いて良かった!!
アーヴァインに見られなくて良かったぁ。
私は冷や汗をかいた。
「……うん。先生が言ってた通り、ステータスが見れたよ」
私はアーヴァインに向き直り、もう閉じた本を「してみる?」と彼に差し出した。
「うん。やってみるよ」
アーヴァインも私に背中を向けて、本を開いていた。
あー、隠してる設定の『他国の王子』ってところを、私に見られたくないのかな?
私はぼんやりとそんなことを思っていた。
「……ほ、本当だね。僕もステータスが見れたよ」
アーヴァインが何故か真っ赤な顔をして、慌てながら私に本を返してくれた。
??
何を見たんだろう……
まぁでも、私も聞かれたくないことあるし、そっとしておこう。
「じゃぁさっそく魔石にしよう!」
私は本を机の上に置いた。
そしてそっと両手をかざす。
「魔石生成初めて見るよ。見てていい?」
アーヴァインがまだ頬を赤くしていたが、気を取り直したのか私に聞いてきた。
「いいよ」
私は笑って頷いた。
「〝examine〟」
私が呪文を唱えると、本が発光しだした。
そして本から離れた光が細かい粒子に変わり、その粒子を吸い取っていってるかのようにサラサラと流れができ、私の手の先に集まってくる。
「〝generate〟」
集まってきた光を大事に抱えるように、両手を光の球の下に添える。
そして強化呪文を唱える。
「〝Can't Take My ーーーーーー〟」
ーーーーーーーー
光が収まると、桜色のような淡いピンクの魔石が出来ていた。
強化した魔石はブリリアントカットになるらしく、今回の魔石もキラキラまばゆく輝いている。
「出来た!」
分析魔法の魔石だ!!
「魔石生成ってすごく綺麗なんだね……」
アーヴァインが感嘆のため息をついた。
「フフッ。魔石生成は得意なの」
「強化呪文をかけるのも、初めて見たよ」
「……あの呪文は私だけのオリジナルだから、秘密にしてね」
私は自分の口の前に人差し指を立てた。
「うん。秘密にするね」
アーヴァインが柔らかく微笑んでくれた。
**===========**
それから本をレックス先生に返し、アーヴァインとは別れた。
早く新しい魔法を、ノアとキャロルに見せたいな。
そう思い、2人が帰ってきそうな時間になると、外のベンチに向かった。
トルハの森から学園へ帰ってくる道が見える場所だった。
「まだかな〜」
私はベンチで座って待っていた。
夕方に近づいてくると、気温が一気に冷えてチラチラ雪が舞う。
……もう寮のコタツで待っていようかな?
そう考えだした時に、遠くにキャロルが見えた。
「おかえりー!」
私が立ち上がって手を振ると、キャロルがこっちに気付いて駆けてきてくれた。
「ラズ! ランドールのお出迎え?」
「キャロルも待ってたんだよ。新しい魔石を作ったから見て欲しくって」
それからキャロルもベンチに座り、私たちはノアを待ちながら喋った。
「ーーそれがゲームで言う、ステータスオープンから作った魔石?」
「そうそう!」
私は桜色の魔石をキャロルに渡した。
「キャロル、使ってみる?」
「ラズが私にかけたら見れないの?」
「見れるけど、私にしか見れないと思うよ。通りすがりの人で試したから」
私がそう言うと、キャロルは大剣に魔石をセットした。
「……戦いじゃ無い時って大剣って手間ね」
「まぁね。でも戦いじゃない時って、私にしたら滅多にないわよ」
キャロルがそう言って苦笑した。
「〝analyze〟」
大剣を地面に突き刺すようにして両手で握ったキャロルが、分析魔法の呪文を唱えた。
……やっぱり大剣って不便そう……
「すごい! いろいろ見える!」
キャロルが自分の目の前の空間を眺めて、はしゃぎだした。
私からは何も見えないが、術者の目の前には魔法をかけた相手のステータスが、宙に浮かんで見えている。
「えー! 乙女ゲームの要素を残してるからか、好感度まであるじゃん!」
キャロルがアハハ!と笑い出した。
「そんな所まで見てなかった……なんて書いてあるの?」
「自分が1番好感度が高い人になってるけど……好きな人ってことだね。私は竜王様がまだ現れてないからか、ハテナになってる!」
「私がキャロルに分析魔法をかけると、私への好感度が見えるのかな?」
「!! そうかも!」
私たちはキャアキャア言いながら、試してみようと魔石の受け渡しをした。
私がキャロルに分析魔法をかける。
「見えたよ! 87%だって! 高いよね? 高い数値だよね? 照れるー」
「私もラズの見たい!!」
そうやって2人で騒いでる時に、ノアの目立つ赤い髪が遠くに見えた。
腕には何故か、ディアナがくっ付いていた。
「あー……修羅場?」
キャロルがコソッと私に言った。
「うーん、どうだろ?」
私は困った表情をキャロルに向けた。
「じゃぁ私はディアナのステータス見て、聖女レベルを比べておこうかしら……」
キャロルがこっそり、ディアナに分析魔法をかけていた。
しばらくすると、ノアとディアナが私たちに気が付いたようだった。
するとディアナがノアに喋りかけた。
「ノア、ここまででいいよ。ありがとう」
「……足、大丈夫か?」
「うん。ノアに治療魔法かけてもらったし、もう平気」
ディアナがノアからソッと手を離しながら、可憐な笑顔を浮かべた。
「またヘルプリクエストよろしくね」
ディアナが首をかしげながらノアを見て言った。
そうしてチラリと私たちを見て、視線を逸らすと去って行った。
「ノア、おかえり」
ノアがベンチの近くまで来てくれたので、私は彼に笑いかけた。
「ディアナは何なの! 婚約者がいるランドールにベタベタして!」
何故かキャロルが怒ってくれていた。
「足を怪我してたんでしょ? 仕方ないんじゃない? ……寒いから帰ろっか?」
私はそう言って、ベンチから立ち上がった。
「…………」
ノアは何故か不機嫌な顔をして私を見ていた。
「?? そう言えば、新しい魔石を作ったんだよー! みてみて!」
私はキャロルにしたように、桜色の魔石を見せながら説明した。
「レックス先生の所に本を借りに行ってね、その本から魔石生成したんだ」
「……レックスと?」
ノアが眉をひそめて聞いてきた。
「ううん。アーヴァインと」
「…………」
ノアが眉をひそめたまま、顔をフイッとそむけた。
「あー、これはランドール、複雑だね! 自分もやましいから、ラズのこと責められないね! あっ」
隣にいるキャロルが思わず喋ってしまったらしく、慌てて両手で口を塞いでいた。




