43:全体魔法
今日も私は図書室で、魔法語についての勉強会をアーヴァインと行っていた。
初めからすでに、教えやすい隣に座らせてもらいながら。
「エクセブルの順位上がってたね! おめでとう」
勉強がひと段落ついた時に、私はそう言って祝福した。
「ありがとう。ラズベリーのおかげだね」
アーヴァインが穏やかに笑った。
「私、アーヴァインの魔法って見たことないけど、どうやって使うの?」
私は首をかしげながら聞いた。
「僕の国では魔石ではなく、魔法薬を作るんだ。それを飲むことで体内に魔法の源が宿る。だから、習得した魔法は唱えるだけで発動するんだよ」
アーヴァインも私の真似をしてか、首をかしげながら答えてくれた。
へー! 持ち歩くものが少なくていいなぁ。
「ラズベリーがトルハの森で使った聖魔法、とても美しかったね。あの魔石はどうやって作ったの?」
アーヴァインが優しく微笑んだ。
「あれは……私の涙から作ったの。そして魔石作りで行う強化呪文で強化したものなの」
「……ラズベリーの涙かぁ。魔法薬を同じように作れないか考えてたんだけど、涙を採取するのは難しいね」
アーヴァインがそう言って苦笑する。
「フフッ。そうだね」
私も笑いながら答えた。
そうして、今日も勉強会は穏やかに過ぎていった。
ーーーーーー
「ラズベリーも一緒にエクセブル集め行く? 良かったら僕の魔法をお見せするよ?」
勉強会も終わり、解散しよっかって時にアーヴァインがお誘いしてくれた。
「…………」
私は迷い過ぎて返事がすぐ出来なかった。
行きたいけど、ノアがいないのにトルハの森に入ったら、過保護なノアに絶対怒られる!
怪我を絶対しないって言い切れないし……
「エクセブル集めを見学するのはヘルプリクエストじゃないよ。……僕で良かったらノアの代わりに護衛をさせてくれない? お姫様?」
アーヴァインはイタズラっぽく笑った。
「……僕、全体魔法が使えるんだよ」
そして決め手となるセリフを囁くように言った。
「行く!!」
全体魔法!?
見たい!!
「あはは。本当だ。ノアに聞いた通り、新しい魔法が大好きなんだね」
アーヴァインが楽しそうに笑った。
ノアとアーヴァインはどんな話をしているんだろう?
私はちょっと恥ずかしくなって頬を染めた。
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私とアーヴァインはトルハの森に入った。
人が歩かない部分は雪が降り積もっているので、雪がない所を選んで歩く。
アーヴァインの護衛の人も一緒だから心強い。
今回集めたいのは魔動物の一種だ。
幸いすぐに群れが見つかった。
穏やかな気質の魔動物で、のほほんとみんなで固まってじっとしていた。
逃げない内に、アーヴァインが魔動物に手をかざす。
「〝storm〟」
彼が呪文を唱えると、魔動物たちのいる場所全てに小さな竜巻のような、渦を巻いた風の柱が発生した。
「すごい!」
私たちの方にまで突風が吹き荒れてきたので、思わず感嘆の声をあげた。
しばらくすると、渦を巻いた風が空へと駆け上がっていった。
辺りに一緒に舞い上がった細かい雪が降る。
「カッコいいね!!」
初めてみた全体魔法に私は大興奮だった。
「ありがとう。でもそれは僕にではなく『魔法』に言ってるんだろうね」
アーヴァインがクスクス笑っていた。
そして彼は、魔動物の近くに落ちた鋭い爪をエクセブルに挟んで本を閉じた。
本が一瞬光り、登録完了となった。
それから何個か、エクセブル集めを行った。
私が集めたことのあるものをアドバイスしたり、魔法語を説明したりして順調に進めた。
そのたびに魔法を見せてもらって、私はとても楽しい思いをした。
ジュカル学園への帰り道、私はアーヴァインに聞いた。
「全体魔法も魔法薬があるの?」
「うん。そうだよ」
「ちなみにどんな薬材で作るの?」
「……僕の国でしか手に入らない特殊なものなんだ。ラズベリーも全体魔法の魔石が作ってみたくなったんだね」
アーヴァインは人が優しいからか、まるで自分が悪いかのように、申し訳なさそうにした。
「そっか。残念」
私は気にしないでって気持ちもこめて、ニッコリ笑った。
トルハの森からジュカル学園の敷地内に入ると、まが悪いことに、ノアとライオネル王子とディアナの3人にバッタリ会ってしまった。
ノアは、ライオネル王子とディアナからのヘルプリクエストに付き合ってたようだ。
「……見つかっちゃったね」
私の隣に立つアーヴァインが、呟くように言った。
ノアが明らかに不機嫌な顔をして私たちに近付いてきた。
「僕が全体魔法を見てもらいたくて、誘っちゃたんだ!」
アーヴァインが先手を打って、大きな声でまだ遠くにいるノアに弁明してくれた。
「……あれは相当怒ってる……一旦ここは逃げるね!! またね!」
アーヴァインに別れの挨拶をすると、私はノアに背中を向けて走り出した。
こんな人が多いところでの恋人たちのケンカほど、恥ずかしいものはない。
せめて部屋まで逃げ切れるかな?
「〝fly〟」
私は魔法を発動させて空を飛んだ。
ノアの呪文を唱える声が聞こえた。
「〝capture〟」
捕縛の魔法だ。
途端に何かがまとわりついたように私は動きが止められ、地面に落ちる。
「〝blake!〟」
私は捕縛の魔法を解除して、なんとか地面に着地する。
そしてノアに手を向けて呪文を唱えた。
「〝paralyze〟」
麻痺の魔法が発動し、ノアの体がガクッと下がり、地面に片膝をついてしゃがみ込んだ。
「…………〝blake!〟」
ノアがパラライズを解除する。
そして次の呪文を唱えようと口を開けた。
「〝silence〟」
「〝reflect〟」
ノアが沈黙の呪文を唱えたのと同時に、私は魔法を跳ね返す呪文を唱えた。
ノアに沈黙の魔法がかかる。
けれど沈黙の魔法は、賢者相手にはすぐに効果が切れてしまう。
「〝fly〟」
私は再び空に舞い上がって、学園の屋根の上に降り立った。
雪が降り積もっているので、靴が少しだけ埋まる。
そして寮がある方へ向かって転ばないように気をつけながら走った。
雪の上に点々と足跡が残っていった。
だいぶ距離が取れると背後からノアの声が聞こえた。
「〝fly!〟」
沈黙の魔法が切れたノアも、空を飛んで、屋根の上を走って私を追いかけてきた。
「フフッ。あはははは!」
もうこうなると、なんだか楽しかった。
いつの間にか私たちは笑っていた。
「捕まえた!」
もうちょっとで寮の建物という屋根の上で、ノアに捕まった。
後ろから抱きすくめられる。
「あはは! やっぱりノアの方が速いね」
私は笑いながら観念して逃げるのを辞めた。
そして後ろを振り向き、ノアと目線を合わせた。
「…………帰ろっか?」
私たちは手を繋いで帰路についた。
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私とノアは、無事に寮の部屋に帰ってきた。
私が先に入ってローブを玄関近くのクローゼットにかけようとしていると、後ろのノアから声が聞こえた。
「〝silence〟〝capture〟」
たちまち私は動けなくなった。
……仕返しされてしまった……
私は心の中で呆れながら、楽しそうに笑っているノアに目線をむけた。




