40:禁止命令
1年生の後期が始まった。
ついに……ついに、各自にエクセブルが配られた。
私は賢者になるための魔導書にしたように、表紙をめくった所に魔法で名前を書き込んだ。
一瞬だけ光り輝き、それが収まると嬉しさのあまりギュッとエクセブルを抱きしめた。
「いいかー、学園の裏にあるトルハの森は広大だ。そのかわりエクセブルの中に載ってる植物や魔動物は全てトルハの森に生息している。迷子にならないように」
エクセブルを配り終えたレックス先生が、みんなに念を押すように声をかけた。
私は、ノアとキャロルに笑いかけた。
「早速集めようよ!」
こうして大賢者になるためのエクセブル集めが始まった。
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エクセブル集めが始まって1ヶ月後、ルミネージュ国もだいぶ寒くなってきた。
私は新調したフワフワのファーがついたローブを、制服の上に着込む。
後期からは、半分座学で半分エクセブル集めの実習のようなものなので、毎日のようにトルハの森に行く。
だからスカートの下にジャージをはいた。
防寒&機動力バッチリだ。
他のジュカル学園の女生徒も、だいたいこのスタイルだった。
今日はカフェテラスでまったりキャロルとお茶していた。
「前世ではこんな着こなし、しない地域だったから新鮮だよ」
私はそう言いながら、スカートをちょんとつまんだ。
「そう? 私はがっつり履いてたわよ」
キャロルがカップに口をつけながら言った。
「でも、乙女ゲームにしては絵面が残念だね……」
「だから、主要メンバーは制服派よ。ほら」
キャロルが丁度、遠くの道を通り過ぎているライオネル王子とディアナに目線を向けた。
「……寒そう」
「ねぇ」
私とキャロルは身震いした。
「それはそうと、だいぶ集まったねぇ」
私はホクホクしながら、自分のエクセブルをめくった。
「私たちがぶっちぎりでトップを走ってるものね」
キャロルがそう言いながら自分のエクセブルをめくる。
裏表紙をめくった所に、クラスメートたちの名前が並んでいた。
エクセブル集めの順位だった。
もちろん上位3名は私たちの名前だ。
なんともファンタジーな設定なのだが、魔法がかかっており、順位は日々、エクセブル集めの数によって入れ替わるようになっている。
「レベルもめっちゃ上がったわね」
キャロルがニシシと笑った。
トルハの森にいる魔動物を倒すとレベルが上がるのだ。
キャロルに教えてもらってから、エクセブル集めが終わった魔動物も容赦なく倒した。
まぁ、ゲームの設定的に倒したと言っても気絶するだけで、時間が経つと回復してどこかへ逃げていく。
トルハの森にいる魔動物を、根絶やしにしてるわけでは無い。
「キャロルは大剣が扱えるだけあって、身体能力が高いねー。よくあれだけ俊敏に動けるよね」
「ふふん。まあね。竜王様との勝負に勝たなきゃいけないからねー」
キャロルが褒められたことが嬉しくて胸を張る。
「ラズはステータス上昇系が得意だよね。後方支援的な?」
今度はキャロルが褒めてくれた。
「攻撃魔法も好きなんだけど、前に出ると怪我するかもしれないから……」
私は眉を下げながら言葉を続けた。
「そして本当は、状態異常系が得意なの」
「あー、ぽいぽいぽい!」
キャロルが何度も頷いた。
……絶対失礼な想像してる。
私は怪訝な目でキャロルを見た。
「でもいいバランスのパーティじゃない!? これならもう竜王様に挑めるかも?」
キャロルが目を輝かせる。
「……でも、必須ページを全部集めなきゃダメなんじゃなかったっけ?」
「そうだけど、ほら『シンドーさん的なバグ』が起きないかな?」
キャロルがそう言って笑った。
キャロルには、私の方の乙女ゲームで起きた、バグのようなチート技についていろいろ教えていた。
だから含みのある言い方をしたのだ。
「……」
私が何か言おうと口を開いた時だった。
「ラズ! ちょっと来いよ」
慌てているノアが私たちのもとへ来て、私の手を掴んで強引に立たせた。
「アイスラーも!」
もう進みだしているノアが、振り返りつつキャロルにも声をかけた。
「え? どこいくの?」
私は転ばないように足を動かして、ノアについていった。
ーーーーーー
ジュカル学園のエントランスにある学生向けの掲示板に、張り紙がされていた。
遠くからでも既視感のある赤い大きめな文字が見え、嫌な予感がひしひしとした。
『1年生の
ノア・ランドール
ラズベリー・ブランジェ
キャロル・アイスラー
以上の3名は下記の期間エクセブル集めを行うことを禁ずる
他の学生のヘルプリクエストに答えることのみ許可する』
と書かれており、下にはほぼ1ヶ月ぐらいの期間がかかれていた。
「「!!」」
私とキャロルは目を見開いてお互いを見た。
「え? どうゆうこと?」
私はビックリしすぎてオロオロとノアとキャロルを見た。
「……レックスに聞きにいくぞ」
ノアがそう言ってきびすをかえした。
**===========**
「聞きに来ると思ったよ」
レックス先生の研究室に私たち3人で向かうと、すでに先生は待ち構えていた。
「君たちの集める速さが速すぎるから、ちょっと休憩してくれないか?」
レックス先生が眉を下げて苦笑する。
攻略対象者の1人なだけあって、苦笑する姿もカッコいい。
けど……!!
「だからって横暴です!!」
私は両手をグッと握りしめながら叫ぶように言った。
「速いからって何か不都合があるのでしょうか!?」
「……他の生徒のね、士気が下がるんだよブランジェ。君たちが簡単に集めているように見える物を、自分は集められないってね」
「ジュカル学園は質の高い教育が受けれるとお聞きしておりましたが、個々の生徒の才能を自由に伸ばすことは、視野に入れてないようですね」
私は腕を組んで目を伏せながら横目でレックス先生を見た。
「……そう言われると手厳しいなぁ。けれど君たちが他の生徒も手伝って、みんながエクセブル集めが早く進めれば、君たちもその分早く進めるぞ」
レックス先生が相変わらず苦笑しながら言った。
……結局、言ってることは変わらないじゃない。
私は思わず眉をひそめて睨んだ。
すると、今度はノアが喋り出した。
「レックス先生。俺、婚約者兼護衛ですよ」
ノアが少し目を細めてレックス先生を見る。
「別行動して婚約者が怪我なんかしてしまうと、ブランジェ侯爵家から仰せつかっている役目が果たせません」
そして最後まで言い終わると、不服そうに視線を横に逸らした。
「うーん、それもそうだな。よし、じゃぁこうしよう! ブランジェはエクセブルのヘルプリクエストに答えなくていいから、単純なお休みだな。その分ランドールが頑張るように」
レックス先生が爽やかに笑った。
「〜〜〜〜っ!!」
はい!?
私は目を見開きながら、何か言おうとした。
けれど「じゃぁそれでお願いします」と先に言い切ったノアに、抱えられるようにして研究室を後にした。
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「ラズが珍しくメチャクチャ怒ってたから、私ビックリして何も言えなかったよ……」
私の前に座っているキャロルが、ちょっとシュンとしながら言った。
私たち3人は、ジュカル学園内のフリースペースのソファに座って喋っていた。
「……ノアの成長を妨げてくる奴は無性に腹立つ」
私はまだ怒っていたので、ソファの肘掛けに頬杖をついて不貞腐れていた。
「おぉ、こわっ! てかそっちなのね。ランドールと一緒にいたいから怒ってるのかと思ってた」
「私たちを育ててくれたダライアス様と大違いだよ! 『心ゆくままに魔法を極めてごらんなさい』って言ってくれるんだよ! 私もノアも、心ゆくままに魔法を極めたい〜!」
私は両手を振り上げて叫んだ。
隣に座っているノアが私を落ち着かせるためか、頭をヨシヨシ撫でてくれていた。
「まぁ、気持ちは分かるけど……ランドールはその分上手く交渉してたわね。ラズを貸し出したく無かったんでしょ?」
キャロルが苦笑しながらノアを見た。
「まぁな」
ノアがフイっと顔をそむけながら言った。
叫んでちょっとスッキリした私はキャロルの方を向いた。
「でもヘルプリクエストってどうやって依頼がくるの?」
「確か掲示板の近くに表示される所があるわよ」
彼女がそう教えてくれたので、私たちは早速見にいくことにした。
「エクセブルの集めたいアイテムの下の方に、ヘルプリクエスト出来る欄があるの。そこに魔法で書き込むと申請が出来るのよね」
歩いて移動しながらもキャロルが説明してくれた。
「ゲームだとポップアップ画面だけど、現実世界だとファンタジーな設定的な?」
私は人差し指を立てながらキャロルに聞いた。
「そうそう!」
キャロルも人差し指を立てて答えてくれた。
ヘルプリクエストの一覧を見にいくと、早速掲示板を見たクラスメートから、ノアとキャロルに数件入っていた。
みんなヘルプリクエストの仕組みをこの一件で理解したのだろう。
今まではヘルプリクエストを依頼されることは無かった。
そして2人とは違う書体で私にも一件。
「チッ……やられた」
ノアが舌打ちして悪態ついた。
私には、レックス先生からヘルプリクエストが入っていた。
エクセブル経由での申請ではないから書体が違うのだろうか?
内容は、留学生のアーヴァインの魔法語のサポートについてだった。
私の魔法語の成績がいいので、任命したのだろう。
確かに学園内で事足りるし、怪我する心配は無さそうだ。
けど、そうゆうことはお給料貰ってる先生方がやりなさいよー!!
「エクセブル集めをしに来たのにー!!」
心の叫びの一部が思わず外に漏れた。




