4:examine、generate
「こいつ、誰?」
ノアが私の前に立ち、睨むような視線をよこした。
並んで立つと、彼は私より少しだけ背が大きいぐらいだった。
まだまだ12歳の可愛らしい少年だ。
そうか。
ノアは将来大聖者になるぐらいだから、ダライアス様の所で魔法を学んでいるんだ。
ここにいるとは考えて無かったな。
「僕はラズです。よろしく」
私は男の子のフリをして挨拶をした。
「ノア、お主はしばらくラズに魔法を教えるのじゃ」
「は? なんで俺がこんなやつに教えなきゃいけないんだよ」
ダライアス様に言われたことにノアは拒否反応を示した。
「フォッフォッ。教えることも勉強じゃよ。ラズは大聖者になりたいそうじゃ」
ダライアス様は楽しそう笑った。
「お前がなれるわけないだろ」
なぜか初対面のノアに怒られた。
ツンツンしてるなー。
私は苦笑を浮かべて成り行きを見守っていた。
初めは少し身構えたが、喋っているのを見ているとただの威張っている子供だ。
怖がる相手ではまだない。
「ふーむ。ノアがしないとなると、オスカーにでも頼もうかのぉ。ラズと年が近い者で1番有能な者を指導者にしたかったのじゃが……」
ダライアス様が自身の髭を撫でながら考え込んだ。
「!! ……しょうがないなぁ。俺が教えてやるよ!」
ノアがすぐに手の平を返した。
なるほど。
ノア少年はそうやって扱うんですね。
私はダライアス様が行った、ノアのプライドを上手く刺激するやり方を心にメモした。
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「ったくトロいやつだな。早くついてこいよ」
私とノアは、ダライアス様の部屋から魔法を教えてもらう部屋に移動していた。
ノアはぶっきらぼうだが、時折後ろを歩く私を振り返って待ってくれた。
本当は優しい子なんだろうな。
「まずここで魔法の基礎を教えるぞ」
ノアに案内されたのは、部屋の半分はひらけた場所になっており、もう半分は椅子と机が並んでいる部屋だった。
至る所にダライアス様の所にあったような薬材の瓶や袋が置かれている。
ちょっとだけその薬材の独特な匂いが鼻をつく。
その部屋の中のひと組の椅子と机に私たちは向かい合って座った。
「まず、基本要素である5つの要素は知っているか?」
ノアがムスッとした表情のまま喋りだした。
「ううん。知らない」
「……何も分かってないんだな」
ノアがめちゃくちゃ呆れた顔をした。
「教えてよ。先生」
私はそう言ってニコッと笑った。
「!! ……ふん。5つの要素ってのは地、水、火、風、光だ」
ノアは先生と呼ばれて嬉しかったのか、少しだけ頬を赤く染め、得意げに教え出した。
フフッ。ちょっと可愛いかも。
私は手のかかる弟が出来た気持ちになった。
「それで魔法を使う時に重要になるのが魔法語だ。全く違う言語だから、覚えるのが難しいんだ」
ノアはそう言いながら、1冊の分厚い書物を棚から引き抜いて私の前に置いた。
そして、さっき教えてくれた五つの要素のシンボルマークと魔法語が書かれたページを開いてくれた。
「いいか」
ノアがそう言って本を差し示した。
「5つの要素は魔法語で、地、水、火、風、光」
彼は得意気に教えてくれた。
私は思わず目を何度か瞬いた。
魔法語とは英語のことだったのだ。
そっか!
この世界ではみんな日本語を喋ってるから、普段使わない英語が難しいんだ。
案外私にとっては簡単かも。
私はワクワクしてきた。
「今の説明で覚えたか?」
ノアが意地悪な笑みを浮かべている。
「地、水、火、風、光……でしょ?」
「……」
スラスラと答えた私を少し目を見開いてノアが見る。
「……じゃぁ次に、基本要素である水の魔法を使うための手順を教える」
ノアが気を取り直して教えることを再開してくれた。
「まずは魔石を作る」
「……魔石?」
「魔法を使う時の源だな」
ノアはそう言って席を立った。
そしてそこら辺にあったコップに自信の魔法で水を入れ、私の目の前の机に置いてくれた。
「魔石を作るには対象物が必要だ。状態が定まっていて簡単な水から魔石を作ってみるぞ」
そう言って立ったままのノアがコップに両手をかざす。
「〝examine〟」
ノアが呪文を唱えると、コップの中の水が少し輝き光の粒子が発生し上へと湧き上がってきた。
そして渦巻きながらノアの両手に光の球として集まる。
「〝generate〟」
ノアが光の球の下側に両手を移動させて次の呪文を唱える。
すると光が収束し、手の平の上にはキラキラ輝く宝石のような石が転がった。
「すごい!!」
私は初めてみるファンタジーな現象に興奮した。
「これぐらい簡単だぜ。ちなみに魔石は輝きが美しいほど威力が強いと言われてるんだ」
ノアは胸を張って言った。
「じゃぁ俺の真似してやってみろよ」
ノアがそう言ってコップの前から立ちのき場所を私に譲った。
私は静かに立ち上がりコップの前に立ち、両手をかざした。
「初めは俺が補助してやる」
ノアがそう言って私の後ろから抱きかかえる形で私の両手に自分の両手を重ねた。
近っ……
ノアにとっては私は男の子だから、気さくな距離なんだろうけど……
私はちょっと恥ずかしくなって人知れず照れた。
「イメージすることが大事だからな」
私の耳元でノアの声がする。
イメージね。
……よし。
私は少し落ち着いてから、目の前のコップの水に向き合った。
「〝examine〟」
そうして、初めての魔石生成が始まった。
ーーーーーー
「…………」
「…………」
魔石生成が終わった私の手の平には、ティアドロップカットの光輝く魔石が転がった。
水と言えば雫の形だよね。
けれどこんなに綺麗に出来るとは思わず、ノアも私も驚きすぎて固まっている。
するとノアが手の平の魔石を奪い取って、部屋を走って出ていった。
「あ、ちょっと!!」
私は何が起きたのか分からず、ひとまず走って追いかけた。
「師匠!! あいつ何なの!? 魔法語もすぐ覚えるし、魔石生成も俺より上手いんだけど!?」
ノアがダイアラス様の部屋に駆け込んで叫ぶ。
「騒がしいのぉ。あいつとはラズのことかの?」
絨毯に座って何かをゴリゴリ砕いていたダライアス様が顔を上げた。
やっと追いついた私は、ノアによって開け放たれた扉の近くで呼吸を整えていた。
「ほら、あいつが作った魔石!」
ノアがさっきの雫型の魔石を親指と人差し指で持ってダイアラス様の目の前に差し出した。
「ふーむ。いきなりすごい魔石を作ったのぉ。本当に大聖者になれるかもしれんのぉ」
ダイアラス様がそう言って、豊かな髭を揺らしながら笑った。
「やった!」
私は思わず小さくガッツポーズをする。
それをノアは私の方を振り返って見た。
「……絶対なれるわけないだろ!」
ノアはプライドが傷付いたのか叫びながら怒った。
「僕の先生の教え方がいいからだよ」
私はニコニコしながら首をかしげて言った。
「ーーーー!!」
顔を真っ赤にしたノアはそれ以上何も言えなくなってしまった。
「……続き、するぞ!」
怒ったままのノアが私に近づいてきて、肩にガシッと腕が回された。
そして、そのまま引きずるようにしてダライアス様の部屋から退出した。
「案外、いいコンビじゃのぉ」
ダライアス様が優しい眼差しで遠ざかっていく2人を見つめていた。




