37:エクセブル 植物編
1年生の前期も後半に近付いてきた。
一年中寒いルミネージュ国でも、夏に近付くと暖かくなり、薄手の長袖で過ごせるようになった。
そんな季節であることと、先生に指示されたため、私とノアはジュカル学園指定の体操服を着ていた。
というかシンプルな黒色のジャージだよね?
これ。
他の生徒も同じようにジャージを着ていた。
そして学園の裏側にあるトルハの森に集められていた。
「いいかー! 今日は『エクセブル』の使い方の練習をする!」
担任のレックス先生が、A4サイズぐらいの革張りの黒い本を掲げながら、生徒たちに説明しだした。
「やっと始まったね! 実技の授業」
私は、隣のノアを見上げながら微笑んだ。
「楽しみにしてたからな。ラズが」
ノアもニッと笑い返してくれた。
レックス先生が説明をする声が飛んできた。
「この図鑑は『エクセブル』というもので、ここに書いてある物を集めることが、ジュカル学園卒業の条件の一つだ。……このページまでは集めないと卒業できない必修項目だな。これ以上先のページを全部集めると、大賢者の称号が与えられるぞ。まぁ、全部集める奴は稀なんだがな」
先生は爽やかに笑った。
攻略対象者なだけあって、大人の色気があって妙にカッコいい。
持っているエクセブルをペラペラめくって見せてくれている姿までも、絵になっていた。
けれど、私はエクセブルの方が断然気になっていた。
ちらりと見えただけだけど『これ以上先のページ』と教えられた部分は、フチが黒くなっていた。
その稀な奴に成りたくて、留学してきたんです!
私はワクワクしすぎて、心の中で返事をした。
「今日は、簡単な植物系の登録の仕方を教えるぞ」
レックス先生がそう言いながら、初めの方のページを開いた。
「例えば、ここに書いてある〝モタコロロ〟という、魔石を作る薬材の植物だが、実物はこれだ」
先生が、ピンク色のススキみたいな植物をみんなに見えるように掲げた。
「これをこのページに挟む」
そして、モタコロロを栞のように本に挟んで、勢いよくパタンと閉じた。
すると一瞬だけ本が光り輝いた。
「そうすると、こうやってエクセブルの中に保存される」
先生が本のモタコロロのページを再び開けると、空白だった四角の枠の中にモタコロロの絵が浮かび上がっていた。
めっちゃファンタジー!!
私は楽しそうなそのシステムに、目をキラキラさせた。
「モタコロロは、あっちのハルモント山のふもとに自生しているから、各自探して練習用のエクセブルの中に保存してみてくれ」
レックス先生の説明が終わると、みんなに練習用の薄いエクセブルが配られた。
モタコロロを探して、私とノアとキャロルは森の中の道を歩き出した。
すぐにハルモント山の入り口につき、私たちは山道を登っていった。
「こうゆうの、めちゃくちゃ好き!」
私は弾んだ声でキャロルに喋りかけた。
「いいなー。私は苦手。でも、このエクセブルの最後のページに載ってるのが竜王様なのよね。必修ページを集めないと黒いページの部分を登録出来ないから、頑張らないとだけど……」
「それって、大賢者を目指している私たちも、最後は竜王様が相手?」
私は首をかしげた。
「そうなんじゃない?」
キャロルがさも当たり前のように言った。
「……だってさ」
私は驚きながらノアを見る。
「『僕たち揃えば最強だね』って言ってたやつが、怖気付くなよ」
ノアが小バカにしたようにフッと笑った。
「……頼もしい婚約者だね」
私はジト目で彼を見つめた。
ーーーーーー
「みんな登録出来たから、先生の場所に戻ろっか」
私たち3人は、モタコロロを無事に練習用エクセブルに登録し、集合場所に向けて山道を下りだした。
前を見ると、ヒロインのディアナとライオネル王子、そして留学生のアーヴァインが見えた。
それを見たキャロルが目を見開く。
「あ! そうだった。今からイベントが始まると思うわよ」
「イベント?」
私はキャロルに聞き返した。
「前をディアナたちが歩いてるでしょ。それで、ライオネル王子とアーヴァインのどちらか好感度の高い方が、山道が少し崩れて落ちるの。その時に足を捻っちゃうんだけど、聖女であるディアナが魔法で治して愛が深まるってやつよ」
「ふーん。……どっちが落ちるんだろうね?」
「やっぱりライオネル王子じゃない?」
私とキャロルはキャッキャと盛り上がっていた。
「きゃっ!!」
そのとき突然、私が歩いていた道が崩れ落ちた。
「ラズ!」
ノアが慌てて手を伸ばしてくれたけど、間に合わなかった。
何で私なの!?
遠くなっていくノアとキャロルを見ながら、私は意識を手放した。
ーーーーーー
「……うーん……」
山道の下の地面で目を覚ました私は、ゆっくり上半身を起こした。
「あれ? どこも痛くない……」
体のあちこちを点検するように見たけれど、汚れてるだけで怪我は無かった。
「あ! ノアにうつってるんだ!」
私は事実に気がつくと、青い顔をして立ち上がった。
ノアが私の代わりに怪我してる!!
「〝fly!〟」
私は慌てて、もといた山道に戻るために魔法で飛び上がった。
「ノア!!」
私が山道に降り立つと、足を怪我して座り込んでいるノアと、治療をしようとしているディアナ、その周りをキャロルたちが取り囲んでいるのが見えた。
ノアは右足のズボンを捲り上げており、そこにはざっくり切れて血が流れている酷い状態の怪我が見えた。
ディアナの治療魔法では、なかなか治っていなかった。
「どいて!」
私はノアに駆け寄って座り込み、腕輪をしてる方の手をかざす。
腕輪には私の涙から強化して作った聖魔法の魔石がセットされていた。
「〝heal!〟」
「〝cure!〟」
「〝recovery!!〟」
思い付く限りの治療魔法を叫んだ。
細かく役割は違うのだけれど、今は思い出している余裕が無かった。
私はやっぱり聖魔法は苦手で、威力が弱い。
だから、たくさん発動させたかった。
私の魔力がごっそり取られても。
そんな私の気持ちに呼応するように、魔石が眩く光った。
辺りを優しく包み込んでいきながら、光が広がっていく。
どんどん満ちていくまばゆい光に目を開けていられなくて、私は瞼をギュッと閉じた。
………………
一瞬だけ、音の無い世界が訪れた気がした。
ーーーーーー
「……ラズ、ラズ!!」
目を開けるとノアの腕の中にいた。
また意識を失ってしまってたようだ。
「!! ケガは?」
私はガバッと起き上がって、ノアの状態を確かめる。
「ラズの大量にかけた治療魔法のお陰で治ったよ」
ノアが苦笑しながら答えてくれた。
地面に座り込んだまま、私を抱きかかえていたノアだったけど、足の怪我が綺麗に無くなっていた。
「良かった〜!!」
私は勢いよくノアに抱きついた。
「……ありがとな」
そんな私を抱きしめ返しながら、ノアは頭を撫でてくれた。
「てか、周りに私たち居るんだけど……」
キャロルの呆れた声が聞こえた気がした。
その時にはもう、私は魔力切れによる眠りに半分落ちていた。
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「え? そのあとノアが抱っこして運んでくれたの?」
寮の自分の部屋で目覚めた私は、そのベッドの上に座っていた。
隣には呆れた表情のノアが座っている。
「……運ぶ前に、レックスに何が起こったのか取り調べされた。集合場所で」
「!! クラスメートの前で、私、ノアに抱っこされてグーグー寝てたの!? 保健室とかに直行じゃないの!?」
私は恥ずかしすぎて、顔を真っ赤にして叫んだ。
「アハハ! 寝てたよ」
ノアがめちゃくちゃいい笑顔を浮かべた。
「恥ずかしすぎる!! 明日から講義にどんな顔で参加すればいいの……!」
私は両手で顔を覆った。
そんな私を横からノアがギュッと抱きしめた。
覆っていた手をそっと離してノアの方を見ると、それを待っていたかのように軽く唇にキスをされた。
「……明日の講義休む?」
ノアの声色は意地悪さを含んでいた。
「??」
私はノアの赤い瞳を見つめながら続きを待った。
「エクセブルの説明の続きで、明日は動物とからしいけど……」
「!! 絶対参加する!」
「……言うと思った」
私たちは思わず笑い合った。
ひと通り笑うとしばらく見つめ合い、2人の影が重なった。




