36:人物紹介
「じゃぁ、ゲームの主要人物を説明するわよ」
キャロルがペンを振り上げて、私に向けてきた。
私たちは今、講義のグループワーク中だった。
大きい机を前に3人で並んで座っている。
その講義内での休憩時間になったので、キャロルがクラスメートの中にいる、ゲームの登場人物を説明してくれることになった。
「……お願いします!」
私は緊張した顔でゆっくり頭を下げた。
「別の所でやってくれない?」
私たちの間に挟まれて、頬杖をついたノアがため息混じりに言った。
「ノアも聞いて覚えてよ」
私は自分の両手を握り合わせて、祈るようなポーズをとり懇願した。
「…………」
ノアが、いつもの呆れた目線を私に向ける。
そんな私たちを横目で見ながら、キャロルが説明を続けた。
「まずディアナ。乙女ゲーム『甘い魔法と魅惑の王子』のヒロインよ」
そう言ってキャロルが、淡い茶髪に青緑色の瞳をした清楚な少女をペンで指し示した。
「聖女の力が目覚めてね、特別枠でジュカル学園に入学しているの。今は貴族だけど元々は一般市民よ」
「ふむふむ」
「それで、あっちの女子3人が、ゲームのキャロルの取り巻き達ね。いきなり現れたディアナが、この国の王太子であるライオネル王子に見初められているから、嫉妬してこの世界でもディアナのことを嫌ってるわ。けど悪役令嬢の私がいないから勢いが無いわね。難癖つけてるぐらいよ」
「わー、王道パターンっぽい!」
はしゃぐ私をよそに、キャロルがモブっぽい女子3人の方にペンを向けて、グルグルまわした。
「で、あれがライオネル王子。ジュカル学園では『身分に関係なく等しく接しましょう』ということで、普通の生徒のように振る舞うけど、みんな王子だって知っているから、ある程度敬っているわよ」
キャロルが今度は、金髪で紫の瞳をしている、よく見てみると高貴なオーラがだだ漏れしている少年をペンで指し示した。
ライオネル王子は、ディアナと隣り合って座っていた。
「……自己紹介とか無かったから、王子だって知らなかったよ……」
私は驚いた表情をキャロルに向けた。
「他にも出席番号2番のアーヴァイン。他国からの留学生だけど、実はその国の王子よ」
「……」
「そして私たちの担任の先生レックス。実は王弟だけど身分を明かさずに教師をしているわ。国王様とだいぶ歳が離れた弟だから20代よ」
「……」
「来年の話になるけど、1学年下に第二王子も入学してくるし……」
「待って、待って。キャロルの推しも竜王様だし。攻略対象者が全て王族系とか王系なの?」
私はキャロルの方に身を乗り出して、コソッと聞いた。
「そうよ。タイトルが『甘い魔法と魅惑の王子』っていうぐらいだからね」
キャロルも私の方に身を乗り出した。
「……ルミネージュ国でも王族に魅了魔法をかけるのはまずそうだから、近付かないようにしよう……」
私は心に誓った。
「……話終わった?」
真ん中で狭そうにしていたノアが、身を乗り出した私たちの肩をグイグイ押しのけた。
ーーーーーー
「とは言っても、同じクラスメートだから接点あるよね〜」
キャロルが先ほど振り回していたペンを、指先でクルクル回す。
目線は、グループワークの結果を提出しに行ったノアに向けられていた。
彼はライオネル王子や留学生アーヴァインに捕まって、何か話し込んでいた。
「そうだね〜。ノアは王族に好かれやすいし……」
私もノアの方を見ながら、レナルド王子のことを思い出していた。
キャロルが目線を私にうつした。
「この国は強い魔導師好きだからね。ライオネル王子はスカウトしたいんじゃない?」
「え? 私は!? 出席番号3番!」
「……ラズに話しかけるの、男子にしたらハードル高いからなぁ。隣にいなくてもノアが殺気放つから」
キャロルが苦笑した。
「いいなぁ。私もスカウトされたい……」
私はガックリ肩を落とした。
「それにしても、まばゆいメンツね……」
キャロルが、ノアたちを目を細めて睨むように見た。
「攻略対象者たちが勢揃いだもんね……」
私も煌びやかな3人の方を見た。
すると、ふと目線があったノアがニッと笑いかけてくれた。
「……でもうちの護衛魔導師が1番かっこいい……」
私はフニャっと笑った。
「…………ランドールはラズの推しだったの?」
呆れた表情のキャロルが聞いてくる。
「ううん。フェリックス王子だったよ。けどラズベリーの目を取る人でしょ? 今世では怖くて近付きたくない……」
「まぁ確かにね。……私はジュカル学園の卒業式に断罪されるストーリーだから、それまでに竜王様を手に入れて逃げ出すつもりだけどね」
キャロルがニシシと笑った。
「でも、何でランドールが護衛魔導師をしてるの?」
「話せば長くなるんだけど……」
私は人攫いに襲われて私が怪我をしたこと、私のお母様が怒って魂の契約魔法をかけたことなどを説明した。
「魂の契約魔法!? そんなのがあるんだ! ラズたち案外重い設定背負ってるんだね」
キャロルが目を見開いて驚いている。
「そうなの。だから私も容易に怪我とか出来ないから、危ないこと禁止されるんだよねぇ」
「……でもそれってラズが痛いことされると、ランドールにうつるってことだよね!?」
目をキラキラさせたキャロルが、私の頭を数回チョップした。
「あわわ……」
痛くは無いが、衝撃で頭が揺れる。
「いてっ!」
遠くでノアの声がした。
「ほんとだ!」
キャロルがとっても楽しそうに笑っている。
「アイスラー!」
ノアが怒りながら帰ってきた。
「あはは! めっちゃ怒ってる! じゃぁ講義も終わってることだし、またね。ラズ」
キャロルは大笑いしながら逃げるように帰っていった。




