35:キャロルの秘密
私とノアは、今日もジュカル学園で授業を受けていた。
今の授業は、魔法の系統についてといった内容だった。
……前期はこんな感じで座学が多い。
最近、仲良くなったキャロルも私の隣に座っていた。
実技の授業が受けたいなぁ。
…………
隣のキャロルがコソコソっと喋りかけてきた。
「ラズ、退屈そうだね」
「うん。聞くだけの授業ってちょっと苦手で……大学の時もそうだったな〜」
「……大学?」
「あ、うん。何でもないよ」
私は慌てて笑った。
退屈すぎて思わず前世の話をしてしまった。
「…………」
キャロルが眉を下げて私を見つめたが、しばらくすると授業に意識を向けていた。
ーーーーーー
「やっと終わったー」
私は授業が終わったので両手を上げて伸びをした。
「あくびしなかったな」
ノアが意地悪く言ってきた。
「そんな毎日のようにはしないよ」
私はむくれながら返事をした。
「ねぇ、今日はもう予定ないでしょ。ラズたちの部屋に遊びに行っていい?」
キャロルがニシシと笑いながら聞いてきた。
私はチラリとノアを見た。
ノアは私の視線を受け止めて、小さく頷いてくれた。
「いいよー」
私はニッコリ笑った。
わーい!
友達が部屋に遊びに来る。
学生寮の醍醐味だね。
私はちょっとウキウキしながら、キャロルに部屋を案内した。
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「お邪魔します」
キャロルが律儀に挨拶をして、部屋の中へ入ってきた。
「何か悪いねー。2人の愛の巣に……って何これ!?」
キャロルは生活スペースの真ん中を占拠している、私お手製の『コタツ』にビックリしていた。
「私が作ったの。机の足を短くして、厚めのブランケットをかけて、内側の机の下には石炭から作った魔石がセット出来るようにしてるの。体を入れるとポカポカあったかいんだよ」
私は得意気に、こたつのブランケットをめくりながら説明した。
ルミネージュ国は年中寒い。
まだこっちの気候に慣れてない私とノアは、コタツに入って過ごすことが多かった。
彼も気に入っており、ここで勉強することも増えていた。
「キャロルも入ってみ……わわ!」
私がキャロルにも勧めようとした時に、いきなりキャロルに抱きつかれた。
勢いが良過ぎてタックルかと思った!
「やっぱり! ラズは日本人なんだね!!」
私に抱きついたまま、キャロルが顔を上げて言った。
小柄な彼女は、私より幾分か背が小さい。
「!! ってことはキャロルも!?」
「そう!」
嬉しそうに笑うキャロルは、私からそっと離れると真っ直ぐ見つめてきた。
「私もラズと同じ悪役令嬢だよ!」
ーーーーーー
それから私たちは、コタツに入って暖を取りながら喋った。
ノアはミカン……に似たルミネージュ国特産の果物『アランジュ』を食べながら、私たちの話を聞いていた。
あとで私も食べたいな。
私はキャロルの方を向いて喋りかけた。
「ノアは全部知ってるよ」
「それなら話が早いわね。ここジュカル学園は乙女ゲーム『甘い魔法と魅惑の王子』の舞台よ」
「……やっぱり……」
私は、この国に入国してから、抱いていた違和感の正体が分かって納得した。
残念ながら、私は『甘い魔法と魅惑の王子』のゲームを知らない。
キャロルが説明を続けた。
「それで、私はヒロインの邪魔をする悪役令嬢のキャロルなの。けどメインストーリーなんて気にしちゃいれない……」
「何で?」
私はノアにアランジュを一房もらって、それを口に入れながら聞いた。
「私の推しが隠しキャラでね、そのキャラに会えるのが大賢者になる試験の最後の最後なの」
キャロルが目をキラキラさせて、しゃべり続ける。
「そのキャラは竜王様なんだけど、倒さないと隠しキャラとして一緒に過ごしたり出来ないんだよね〜」
彼女は一気に言い終わると、両手を後ろの方につき、脱力した感じでのけぞった。
「だから強くなりたいんだ?」
「そう!」
私が尋ねるとキャロルはいい笑顔で答えた。
「けどこっちの乙女ゲームには、ラズもランドールも出てこないんだけど……しかも私、ラズの方の『君のひとみに恋してる★』も知ってるわよ。ラズベリーのキャラってこんな感じだっけ??」
キャロルがそう言いながら、私を上から下まで見た。
「……実は、私のお母様が元サキュバスでね……」
「え?嘘! そんな設定が!? でもラズのエロい見た目に納得!」
キャロルが目をまん丸にして驚く。
そして動揺してか、失礼なこともズバズバ言ってきた。
「……だからか、泣くと魅了魔法が勝手に発動しちゃうの。多分それで、断罪された時に目が取られるんだと思う……」
私は断罪時のシナリオを思い出して、ゲンナリしながら言った。
「あー、そっちのゲームの最後そんなんだったねー」
キャロルも気の毒そうな顔をした。
「それで、魅了魔法が打ち消せる大賢者の上の役職、大聖者を目指してるんだけど……」
「だけど?」
「本当はもう1つ上の超神聖賢者を目指し……うくくッ……てるの」
やっぱりダメだ!
この役職名を言うと笑っちゃう!
「え? 何て?」
キャロルもきょとんとしている。
「超神聖賢者……」
「だっさ!!!!」
あはは!と2人して笑った。
私たち2人の盛り上がりを、怪訝そうに見ているノアが「だっさ?」と私に尋ねてきた。
私は笑いながらも「ダサいっていう前世の言葉でね、カッコ悪い。センスが無いって感じの意味かな」って説明してあげた。
そして、まだまだ笑いが収まらないまま、キャロルに尋ねた。
「なんかね、私の乙女ゲームには、ちょっとおかしな設定が所々に入ってくるんだよねー……キャロルのゲームも、もしかして総監督シンドーさん?」
「シンドー?? ああ『SHINDO』ね。確かにエンドクレジットにでっかい文字で出てきたわね」
……やっぱり。
この世界はシンドーさんが制作した乙女ゲームが混在している……
しかもキャロルの方はローマ字なんだ。
大きいフォントは変わらずか……
「そのだっさい役職になると、……フフッ……どうなるの?」
キャロルが笑いながら聞いてきた。
「周囲にいる人にも、常に状態異常無効化の魔法がかけれるんだって。それが出来たら、泣いても心安らかに日常生活が送れるから」
「……なるほど。魅了魔法が無効になるからか……あ、でも私には魅了魔法、効かないわよ」
「「えっ?」」
それまで話を聞いていただけのノアも驚いて、私と一緒に声をあげた。
「どういうことだ?」
ノアが眉をひそめてキャロルを見る。
「私、ちょっとだけ聖女属性なの。だから闇の魔法系は効かないわよ」
「ちょっとだけ聖女?」
私は首をかしげた。
「そうそう。ヒロインが本物の聖女なんだけど、私の方が本物の聖女だーって、虐げる役目が悪役令嬢のキャロルだったから、ちょっとだけ聖女属性が付加されてるんだよねー。だから私の前では好きなだけ泣いて大丈夫!」
キャロルが力強くそう言って笑ってくれた。
「!!」
こんなことってあるだろうか?
たまたま出来た友達が同じ前世の記憶持ちで、しかも魅了魔法が効かないなんて……
私は嬉しくって早速じわっと涙を浮かべてしまった。
「……って、うわっ! なんか濃い空気が来た! これ? 魅了魔法これ?」
キャロルが、顔の前の見えない何かを追い払うかのように手をパタパタさせた。
「ランドールは大丈夫なの?」
「ノアには魅了魔法が効かないの」
私は泣き笑いをした。
「……毎回これ浴びてるの? ……よく耐えれてるね……」
キャロルが珍しく、ノアに優しい目線を向けた。
「……慣れた」
ノアは頬杖をついて、ため息をつきながら遠くを見た。
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次の日の魔法語の文法の講義中、1番後ろの席にキャロル、私、ノアの順番で座っていた。
昨日は遅くまでキャロルと喋っていたなぁ……
そしていつも通り先生の喋りが単調で眠い……
「…………ふわぁ」
「!!」
「ラズ!」
私の両サイドが、魅了魔法が発動したのを察知して慌て出した。
そして2人してブツブツ言い出した。
「「〝blake〟〝blake〟ーー」」
「……ごめん」
私は思わず顔を両手で覆って俯いた。
「ランドールがたまに『ブレイク儀式』してたのって、これが原因だったんだ!」
キャロルが小声で言った。
こうして、私のブレイク要員が1人増えたのだった。




