34:キャロル・アイスラー
私たちは無事にジュカル学園に到着した。
雪が少しだけ残っており、コートが手放せなかった。
噂に聞いてた通り、とても寒い国だった。
他国の特待生だからか、学生寮の中でも豪華そうな部屋に案内してもらい、さっそく荷解きをした。
部屋の中には個室が2部屋あり、その真ん中に広い生活スペースが設けられていた。
その個室を私用とノア用で割り振る。
食事は、ジュカル学園が雇っている従者に提供してもらうシステムで、お風呂は寮生と共同になってしまうが、広い温泉があるらしい。
温泉ちょっと楽しみ。
「あ、制服が届いてる! 学生って感じだね」
私は部屋に届けられていた学生服を、仕舞われていた箱から出した。
……見覚えがあるような無いような?
「? どうした?」
私が訝しんで制服を見つめていると、ノアが心配して声をかけてくれた。
「何でもないよ」
私は慌てて顔を上げて返事をした。
別のゲームの世界か探るのは置いといて、いよいよジュカル学園での生活が始まる。
大賢者になれるように頑張るぞ!
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「まぁ、初めはだいたいこうだよねー」
私は講義室の1番後ろの席で、思わず頬杖を付いた。
1年生の初めは、座学の授業多めだった。
しかも魔法語が前世の英語であるため、今は英語の文法の授業だ。
前世で習ったことのある内容だし、先生の喋りが単調すぎて眠くなってしまう。
「ふわぁぁぁ……」
私は思わずアクビをしてしまった。
「あ、コラ!」
隣のノアが小声で怒る。
「ごめん」
私は慌てて目を両手で覆った。
アクビで瞳が潤んでしまうからだ。
「〝blake〟〝blake〟ーーーー」
ノアが魅了魔法を打ち消すために、呪文をしばらく呟いた。
アクビぐらいの魅了魔法の発動なら、こうやって打ち消し魔法で防ぐことが出来た。
でも、こんな風にたまにうるさくなるから、魔法語の講義は必ず1番後ろを陣取っていた。
ーーーーーー
「絶対、変な2人だって思われてるよね……」
講義が終わってからの休憩時間に、外にあるベンチに座ってノアと話していた。
学園の建物内は魔法で暖かいけれど、外は寒いのでコートを羽織る。
「まぁレベルが高すぎて避けられてるから、今更変わらないだろ」
ノアが遠くを見ながらしゃべった。
私もそれに合わせるように、遠くを見た。
ジュカル学園の出席番号が、なんとレベルが高い順でありノアが1番だった。
2番も他国からの留学生の男の子で、3番が私だった。
高レベルの私とノアが一緒にいるので、他の学生は様子見のようで関わってこなかった。
まぁ基本的に他国からわざわざ来る人は、高レベルな人になると思うんだけど……
そしてルミネージュ国の人たちは、何か道具を常に持ち歩き、それに魔法を付加させるのが主なスタイルだった。
スタンダードに杖だったり、扱いやすい武器だったり……
私とノアみたいに手の先から発生させるスタイルは、悪目立ちしていた。
「まぁ勉強しに来てるから、いいんだけどね……早く大賢者の試験始まらないかな〜」
私がそう言いながら、ベンチの背もたれに深く座った時だった。
「ノア・ランドール! あなたとっても強いらしいわね! 私と勝負してくれない?」
威勢のいい声が聞こえて、私たちの目の前にクラスメートの少女が立った。
「私はキャロル・アイスラー」
そう言ってニシシと笑っている小柄な少女は、大剣を背負っていた。
「ブランジェさん。ランドールを借りるわよ」
ピンクの髪をツインテールにし、真っ青な瞳をしているキャロルが私に向かって言った。
「勝負って魔法で対決するの? いいな〜」
私はキャロルとノアを交互に見た。
「……思ってた反応と違うわね……もっとこう『私の下僕を勝手に借りることは許さないわよ』的な……」
「え? 私そんなキャラに思われているの? ノアは私の護衛魔導師だけど、婚約者だし対等よ」
私は目を、パチパチと瞬かせながらキャロルを見た。
「……まぁ私の勝手なイメージよ。そんなことより、ランドールは炎の剣が使えるって聞いたわ。ぜひ戦ってくれないかしら?」
キャロルは好奇心旺盛な目をノアに向けた。
「…………いいけど」
ノアは面倒くさそうに答えた。
私たちはグラウンドに場所を移動するために歩き出した。
その間に、魔法対決についてキャロルが説明してくれた。
「この国はレベルが重要視されているでしょ。それだけ、魔導師としての強さを競うのが好きなのよ。それで魔法対決をよく行うのが習慣よ」
「へー」
私は目を爛々とさせて聞いていた。
「ラズは受けちゃダメだぞ」
すかさずノアが私に言う。
「えー」
「危ないから」
ノアがそう言ってフイッと顔をそむけた。
「護衛っていうか、子守?」
キャロルが呆れながら突っ込んできた。
グラウンドに着くと、2人は適度に距離をあけて立った。
影の部分には溶けてない雪が残っている。
時折吹く風も凍てついており寒かった。
「ルールは?」
ノアがキャロルに聞いた。
「何でもあり! 相手が『参った』っていうか、魔力が無くなるまで!」
キャロルが楽しそうに笑いながら言うと、背中の大剣を鞘から引き抜いて構えた。
鞘は邪魔になるのか転移魔法か何かで消していた。
ノアは、私が強化したあの真紅の魔石を発動させ、炎の剣を出現させた。
……あれはやばい気がする。
ノアも賢者になった事だし、もともと高威力のものが、もっと増し増しになるんじゃ……
そんなことを知らないキャロルは、ノリノリで呪文を唱えていた。
キャロルの大剣の真ん中が青白く輝き、何かの紋様が浮かぶ。
「ランドールが炎の剣って聞いたから、私は氷の剣で行くよ!」
キャロルがそう言いながら剣を構えた。
「ラズ! 『ocean』の準備を!」
相変わらず面倒くさそうにしたノアが、炎の剣を振りかぶりながら叫んだ。
「わわっ! 待って!!」
私は慌てて海の魔石を腕輪にセットした。
常時使わない魔石だから、セットすることから必要だった。
そうこうしているうちに、キャロルとノアの魔法対決……というか魔法の剣での対決が始まった。
キャロルが一直線に突進していき、氷の大剣を振りかぶる。
ノアも炎の剣を下から上へと振り抜いて、キャロルの攻撃を受け止めた。
剣がぶつかった衝撃で辺りに風が走る。
「え? 何これ?」
キャロルの驚いた声が聞こえた。
さっき起こった風に乗って、辺り一面が炎の海になったのだ。
2人は炎に囲まれていた。
「お……〝ocean!〟」
私は2人に向かって魔法を発動させた。
途端に大量の海水が湧き出て辺りに広がっていき、炎の海が徐々に消えていった。
ーーーーーー
ノアほど威力の高い海の魔法にはならなかったが、炎を無事に鎮火出来たようだった。
私の目の前には海水でびしょ濡れになった2人と、炎と海の魔法を受けて、デコボコになり壊滅的な状況になったグラウンドがあった。
ノアの炎の剣は、あれだけの海水を浴びても轟々と燃え盛っていた。
「……まだ続ける?」
ノアが前髪から水を滴らせながらも、無表情で剣先をキャロルに突きつけた。
「……参りました」
キャロルは大剣から両手を離した。
そのあと騒ぎを聞きつけてやってきた先生たちに、グラウンドをめちゃくちゃにし過ぎた私たちは、こっぴどく叱られた。
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「何なの!? あの魔石! 強すぎじゃない!?」
寮の温泉にキャロルの声が響く。
びしょ濡れになったキャロルが温泉に行くというので、私もお供した。
「実は私が生成したものなの」
私とキャロルは湯船に浸かって暖まりながら喋っていた。
2人とも髪が長いので、簡易的にまとめ上げている。
「生成……そっちの国では魔石生成出来るのね。ルミネージュ国では、すでにある魔石を使うのが主流だから、あんなイレギュラーな魔石はそうそう手に入らないわ」
キャロルが恨めしい目で私を見た。
「……ブランジェさんは」
「ラズベリー……ラズでいいよ。私もキャロルって呼んでいい?」
私はニコニコ笑いながら言った。
「いいわよ」
キャロルも笑って答えてくれた。
そして聞きかけた言葉を続ける。
「ラズはなんでジュカル学園に来たの?」
「大賢者になりたくって。キャロルは違うの?」
「私は……会いたい人がいてね。強くならないと会えないんだ」
キャロルが少しだけ切なそうな顔をした。
「だからランドールに勝って、学年で1番になりたかったんだけどね!」
そして負けたことを、とっても悔しそうにしていた。
両手をグーにして彼女は意気込む。
「もっと強くなって、また魔法対決を挑んでやる!」
ーーーーーー
「って言ってた所なのにー! もー!!」
お風呂上がりの寮への帰り道、大きいホールの学生向けの掲示板に張り紙がされていた。
それを見たキャロルが絶叫している。
張り紙は校長先生からの緊急の通達で、赤字で大きく文字が書かれていた。
『1年生の特待生。
ノア・ランドールとラズベリー・ブランジェに魔法対決を挑むことは何人たりとも禁ずる』
と書かれていた。
そこに同じくお風呂上がりのノアが合流した。
「これ以上、学園を破壊されたくないってことだろうな」
ノアが私を見ながら、いたずらに成功した少年のようにニヤッと笑った。
「あ、魔法対決が面倒で、ワザと高威力魔法で暴れた感じ?」
私は思わず苦笑してしまった。
「そうだ」
「でも何で私まで……」
「ラズの『ocean』の方が、グラウンドを破壊してたからだろ」
ノアが意地悪そうに笑った。
そして私の手を繋いで、部屋に帰ろうと歩き出した。
「ノアのフォローをしただけなのになぁ……キャロル、バイバイ! また明日」
私はノアと歩きながら、キャロルに手を振った。
キャロルは意気消沈しながらも、手を振り返してくれた。




