33:蒸気機関車
今日は、私とノアがルミネージュ国へ旅立つ日だった。
ルミネージュ国は、蒸気機関車に乗って3日かかる場所にあった。
駅のホームで、お父様とお母様が私たちを見送ってくれた。
「気を付けて行っておいで」
お父様が優しく微笑んでくれた。
「戻ってきたくなったら、いつでも帰ってらっしゃい」
お母様が、少し目を潤ませて言葉をかけてくれた。
「行ってきます!!」
しんみりした両親とは裏腹に、ワクワクしすぎている私は元気よく挨拶した。
「……行ってきます」
ノアは呆れながらも、私の両親としっかり目を合わせて何やら頷き合っていた。
お父様の「頼んだよ……」という呟きが、聞こえた気もした。
私とノアが車両に乗り込むと、蒸気機関車がゆっくり動き出した。
私は見えなくなるまで両親に手を振ると、ノアと一緒に早速客室へ向かった。
「すごい! 一両まるまる私たちの客室だね」
さすが侯爵家。
豪華な客室を手配してくれたらしい。
荷物を置いて、私とノアは蒸気機関車内の探検に出かけた。
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私たちは展望デッキに並んで立っていた。
ここは周囲が柵になっており、外の風景を見渡すことが出来た。
流れて行く目の前の景色に、少しずつ白い色が増えていく。
風も肌寒いものになってきた。
「だいぶ遠くまで来た感じだね」
私は隣に立っているノアを見上げた。
「そうだな」
ノアは私と目線を合わせて、軽く微笑んだ。
ルミネージュ国は山の奥深く、冬には雪が降り積もる極寒の地域と聞いている。
そこは魔法が盛んで、ジュカル学園は質の高い魔法教育が受けられることで有名らしい。
私たちは自国であるリーネル王国からの推薦で、特待生として入学することが出来た。
これから2年間、学園生活を送る。
感慨深く景色を眺めていると、突然女の人の柔らかな声が聞こえ出した。
『ルミネージュ国へ入りました』
「え? 何??」
私は辺りを見渡した。
私たち以外には誰もいない……
感覚的には、空から声が降り注いでいる感じがする。
『ラズベリー・ブランジェ レベル52』
『ノア・ランドール レベル57』
『承諾』
……天からのアナウンス??
私は訳が分からず、ノアに困惑の表情を向けた。
「他国に入国する際に、国によっては空からいろいろ言われたりするらしいぞ」
ノアが何てことないような態度で、私に説明してくれた。
……レベルの概念……
乙女ゲーム「君のひとみに恋してる★」には無かった。
他のゲームの世界に入った感が、半端ないんですけど!
もしかしたらだけど、他の国は違うゲームの舞台だったりするのかな?
…………
まさかね……
考えごとをしていると、あることに気づいた。
「でもルミネージュ国に入ったってことは、今から魔法使い放題?」
私は笑みを浮かべながら、つけている腕輪をそっと触った。
「あぁ」
ノアもニッと笑って嬉しそうにした。
「石炭! 私石炭から魔石を作りたい!」
私はノアの腕を引っ張って、車両内に入ろうとした。
「なんで?」
ノアは呆れながらも付いてきてくれた。
「ちょっと考えてる、あったかアイテムが作りたくって!」
そのあと、私たちは車掌さんにお願いして、先頭の機関室から石炭が燃えている火室を見せてもらった。
そこで無事に、石炭から火の魔石を数個作ることが出来た。
……魔法が自由に使えるって楽しい!
私は出来立ての魔石を眺めながら、嬉しさを噛み締めていた。
夜には、私たちの客室の窓から見える外に向かって『stardust』の魔法をかけて、流星群を楽しんだ。
「あー楽しい! ルミネージュ国についたら氷の魔石とか作りたいなぁ」
立って魔法を使っていた私は、客室にあるソファにぴょんと座った。
隣にノアも座って、さりげなく私の肩を抱き寄せる。
私も彼にもたれかかるように、くっ付いた。
「魔法が使えるから、もし魅了魔法が発動しても『fly』で逃げればいいのかな?」
「んー、相手を拘束する『capture』をかけてもいいかもな。『sleep』みたいな状態異常系は、魅了魔法が強力すぎて重ねがけ出来ないけど、物理的な魔法なら大丈夫なんじゃないか?」
「そっか。魅了魔法が発動しても、これでちょっと楽になったね」
私はノアを見上げて笑った。
「けど危ないことはするなよ」
「そうだね。私が怪我したら、ノアが怪我するもんね」
「そう言う話じゃ無くって……」
ノアが呆れた表情で眉をひそめる。
そして私の頭の後ろをそっと撫でた。
頭を怪我した時の場所だ。
髪で普段は隠れているが、小さな傷跡がある。
「ルミネージュ国にいる間にラズは16歳になって、魂の契約魔法が終了する。頼むから怪我するなよ」
ノアが少しだけ切なそうな表情をした。
「……うん。ありがとう」
私は照れながらお礼を言った。
「ラズは氷で滑って頭打ちそうだし……」
「!! そんなドジじゃないよ!」
「どうだか」
ノアが意地悪な笑みを浮かべた。
「ーーーーっ! ノアだって……!!」
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私たちの客室には、遅くまで楽しそうなしゃべり声が響いていた。




