32:お祝いパーティ
無事に賢者の称号を貰いブランジェ家に帰ると、お祝いのパーティが開かれた。
私の弟であるフランが生まれたお祝いと、私たちが婚約したお祝いと、私とノアが賢者になったお祝いの3つを兼ねてだった。
ブランジェ家のみのお祝いなので、使用人たちが主な参加者だ。
フランクな立食パーティスタイルを巨大ホールで開催してくれた。
そこに、弟のフランとお母様がチラリと顔を出した。
私はお母様に駆け寄った。
「お母様、動き回って大丈夫ですの?」
「ちょっとだけ参加したら、自室に戻るわ」
お母様は優しく微笑んだ。
私はお母様に抱かれている、フニャフニャのフランの顔を覗き込んだ。
弟は黒髪に赤い瞳をしていた。
今は眠っているから、目を閉じているけど。
そう、弟。
侯爵家を継ぐ者である。
私は幼い弟にブランジェ家の未来を託し、心置きなく魔導師の道に進める。
「どうか健やかに成長してね」
眠っているフランに語りかけた。
「アイリーン様、おめでとうございます」
お母様は使用人たちに囲まれて、それぞれから祝福の言葉をかけてもらっていた。
私はその輪からそっと離れた。
しばらく使用人たちと談笑してひと段落つくと、ノアを探した。
主役の1人であるのに見かけない。
パーティが始まった時は居たんだけどね。
探し回ると、ホールから外へと続く庭園のベンチにお父様と座って、何やら喋っていた。
どんな会話をしてるんだろう?
気になった私は、近くの壁に隠れながら2人の様子をうかがった。
「エドワードさんは、ラズの瞳のことを知ってたんですね」
ノアの声が聞こえた。
え!?
初っ端からビックリする内容を話していた。
私は思わず声が出そうになった。
「あぁ。何と無くなんだけどね。ラズベリーがもっと幼いころは、僕にしがみついてよく泣いてたんだ。その時の従者の様子からね」
お父様の穏やかな声が聞こえる。
「ノア君が、いろいろフォローしてくれているんだろう?」
「……そうですね。俺には効かないので」
ノアの苦笑が聞こえた。
「君が大聖者を目指しているのも、ラズベリーの瞳のことが関係しているのかい?」
「……多少は。でも自分がなりたいからです」
すっごいしっかり受け答えしているノアだ。
別人みたい……
本人はいたって真面目なのに、私はノアに対して失礼な感想を抱いていた。
「ラズベリーもある日、大聖者になりたいって言い出してね。初めはいつものワガママみたいな思い付きだと思ったんだ。けれど、どうやら違ってね」
「…………」
「あの子は自分の瞳を克服しようと頑張り出したんだ。僕とアイリーンは、そんなラズベリーに自由に生きて欲しくって、何もかも応援することにしたんだ。特殊な瞳を持って生まれてしまったからね。僕としても罪悪感があって……」
いやいや、お父様。
特殊な瞳持ちはお母様の遺伝であって、お父様が罪悪感を抱く理由なんて、これっぽっちも無いですよ!!
私は心の中でつっこんだ。
どうやらお父様はお母様の正体を知らないから、私の瞳は突然変異か何かと思ってるらしい。
「僕は体が弱いから、普通の人みたいに長く生きられないだろう。僕が居なくなってしまった時に、あの子が何日も1人で部屋に閉じこもってしまうのが心配だったんだ。でもノア君がそばに居てくれるって分かって安心した……これからもラズベリーをよろしくね」
…………
私はそこまで聞いて、その場を静かに離れた。
泣いてしまいそうだったからだ。
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パーティもだんだんと使用人達の宴会みたいな雰囲気になってきて、子供の私とノアは追い出された。
パーティの主役なのに……
「ラズ、渡したいものがあるんだ」
ノアがそう言って、私の手を握って歩き出した。
……何だろう?
私は素直についていくと、ノアの部屋に案内された。
婚約者になっても私たちは部屋が別々だった。
婚約してすぐに留学してしまうからだった。
そんな短期間に部屋を移動するのは、面倒だよね。
ノアの部屋の中に入ると「待ってろ」と私をソファに座らせた。
しばらくすると何やら手に持って戻ってきたノアが、隣に座った。
そして、手の中の物を私に渡した。
「これやるよ」
それは青い魔石が付いた指輪だった。
シンプルな細身のシルバーのリングに、小さい綺麗な青い魔石が一粒埋め込まれていた。
「……ノアの寮の鍵の魔石?」
「そうだ」
「あの複雑な守護魔法の? すごい。婚約指輪みたいだね。ありがとう」
私は嬉しくて笑った。
「婚約指輪?」
「前世の風習でね、婚約した証に女性が薬指につけたりする指輪のこと」
私がそう言うとノアが私から指輪を取り返し、薬指にはめてくれた。
「ちょっと大きいね」
「これはウォルターが作ったんだぞ」
ノアが得意げに笑った。
そして呪文を唱えた。
「わぁ! ピッタリになった!」
私は指輪のついた手を掲げて感動した。
魔石をセットする腕輪みたいに、指輪自体に魔法がかかっており、金属が自在に変形するのだ。
「……けどこれって外で使用出来ないよね?」
「何言ってるんだ。ルミネージュ国では、魔法をどこでも使っていいんだぞ」
「え!? 何それ!? 早く行こうよ!」
「ハハッ! 言うと思った」
ノアは楽しそうに笑った。




