28:魅了魔法を解きに
王家からの婚約者の申し込みの手紙の返事を、お父様がすぐに出してくれた。
すると、1度当人同士で話し合いたい、といった内容の返事が来た。
それで今日は、私とノアが連れ立って登城していた。
馬車の中で、いつものように隣り合って座っている。
正式な王族への訪問なので、2人ともパーティに行くの?というような正装をしていた。
私はドレスを着て、髪も編み込まれてアップにされていた。
ノアはブランジェ家の騎士服の上に、護衛魔導師のローブを羽織っている。
「今日は作戦があるの」
私は前を向いたままノアに喋った。
「作戦?」
ノアがそんな私を、見つめる目線を感じた。
「フェリックス王子との話し合いの時に、魅了魔法にかかっているようなフリをして私に応えて欲しいの。合図を出すから」
私は相変わらず、前を向いたまま伝えた。
「どんな?」
「目を見て頷く……」
「……分かった」
恥ずかしいけど、やってみるしかないよね。
私の目を守るためだ。
ノアには事前には言わない。
お互いが照れて、固まってしまいそうだから……
さぁ、決戦の時だ!!
私はまるで戦場に向かうかのように、気合を入れた。
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「愛しいラズベリー。会えなくて寂しかったよ」
目の前のフェリックス王子が、切なげな表情を浮かべて私を見る。
虚ろな瞳のまま。
……絶賛、魅了魔法かかり中だ。
ここは王宮の一室。
大きめのソファが2脚用意されており、1つに私とノアが隣り合って座り、対面にフェリックス王子が座った。
王子の背後には近衛と思われる男性が、壁にくっついて立っていた。
「2人きりで、会いたかったんだけどな」
フェリックス王子が、ノアを睨むようにチラリと見た。
私は真っ直ぐ、フェリックス王子を見つめた。
「フェリックス王子。婚約の件についてですが、申し訳ございません、お受けすることは出来ませんわ」
「……それは、ブランジェ侯爵の手紙にあったように、ラズベリーが護衛魔導師を好きで、結婚したいから?」
「ええ。そうですわ。わたくしはノアを愛していますの…………」
私は頬を染めながら、目を伏せた。
それからゆっくりと視線を、フェリックス王子に戻す。
「ノアとはもう愛を確かめ合っております……わたくし純潔ではございません」
私が言い切ると、フェリックス王子が息を呑んだ。
おまけに隣の護衛魔導師も、慌てている気配を感じた。
私の大嘘に驚いたのだろう。
「……本当に?」
フェリックス王子は、驚いた表情のまま、少し掠れた声を出した。
「本当ですわ」
私は隣のノアの方を向いて、グイッとローブの胸元を引っ張り、私の方に無理矢理向かせた。
そしてノアの首の後ろに手を回し、ノアを見つめて小さく頷いた。
私からの合図だ。
それが終わると、私はノアを引き寄せてキスをした。
初めはビックリしていたノアも、合図をしたからか、私の背中に腕を回して抱きしめ返してくれた。
しばらくして、ノアからそっと顔を離すと、彼の胸元にフェリックス王子の方を向いて、顔をうずめた。
「身も心もノアの物ですの。お分かりになって?」
私は上目遣いでフェリックス王子を見つめ、口元にはニッコリと笑みを浮かべた。
サキュバスお母様のような、妖艶さを醸し出す。
ショックを与えなきゃいけないから、本当のように堂々としなきゃ。
ここで照れちゃいけない。
「そ、そうか……」
若干、引き気味な様子のフェリックス王子の瞳には、光が戻っていた。
……やった!
魅了魔法が解けてそう!!
私はノアから離れて佇まいを直し、フェリックス王子に向き直った。
「じゃぁ婚約の話は、無かったことにしていただけます?」
「……分かった。……??」
話もまとまったことだし「……僕はどうしたんだろう?」と独り言と共に、不思議そうに辺りを見回しているフェリックス王子に、私はすばやく別れの挨拶をした。
そしてノアの腕を引っ張って、足早に王宮の一室を出た。
ーーーーーー
「ラズ、待てって! どうゆうことだよ!?」
顔を真っ赤にしたままのノアが、しばらくすると喚きだした。
「帰りの馬車で説明するから!」
私は少し睨みながらノアを見て、叫ぶように言った。
やさぐれモードだ。
辺りはもう暗くなってきていた。
ブランジェ家の馬車に乗り込むと、いつものように隣り合って座り、私はことの成り行きを説明した。
「〜〜〜〜っ!! そうゆうことは事前に言えよ」
ノアが顔を赤くして、私を睨む。
「事前に言ったら、こんな恥ずかしいこと、お互い演技で出来ないでしょ。おかげでフェリックス王子の魅了魔法が、無事に解けたよ。ありがとう。……巻き込んで悪かったけど、ほら『責任とる』って言ってくれたじゃん。減るもんじゃないし」
私はジト目でノアを見た。
「減るもんじゃないしって……まぁそれは置いといて……どこまで演技だったんだよ?」
「へ?」
「……俺のこと……その結婚したいだとか、愛してるとか……」
ノアが、私から目線をそらしてゴニョゴニョ喋った。
「え? なんて言ったの??」
ノアのセリフの最後の方が聞こえなかったので、私はもう一度聞いた。
「俺のこと、どう思ってるんだよ!」
ノアが目線をそらしたまま、叫ぶように言った。
「…………好き!」
私も釣られて叫んだ。
「一生懸命守ってくれるし、フェリックス王子に魅了魔法をかけちゃって引きこもった時に『一緒に逃げよう』って言ってくれたでしょ? そんなの好きになっちゃうよ!!」
私は恥ずかしさのあまり、言い終わったあとに両手で顔を隠した。
素直な私の気持ちだった。
いつの間にかノアは、可愛い弟ではなくなっていた。
「俺も好きだ!」
「知ってる!」
「結婚しよう!」
私は思わず顔を上げた。
頬を赤くした真剣な眼差しのノアが、私を見ていた。
「嬉しいけど、まだ13歳だしなぁ……」
私が呟くように言うと、ノアに突然抱きしめられた。
「けど今回みたいに、他のやつにラズを取られそうになるのは、もう嫌だ。ラズが王太子妃になれるならって、最初は我慢してたけど……」
ぎゅうっと抱きしめている腕に、力を込められた。
「……そうだね。私もノアじゃなきゃ嫌かも」
私もノアを抱きしめ返した。




