27:秘密を打ち明けて
ブランジェ家に帰ったあと、私は自分の部屋に引きこもった。
フェリックス王子に、魅了魔法をかけてしまったこと。
あれからすぐに、婚約者としての申し込みの手紙が、王家から届いたこと。
それらが怖くて、泣いてしまったからだ。
魅了魔法が発動してしまっているから、誰も部屋に入れることは出来ない。
魅了魔法が効かないノアとも、気分的に喋りたくなかった。
両親やミリー、そしてノアが、扉の向こうまで来てくれていたが、私は無視をした。
食事は、ミリーが廊下に置いてくれてたサンドイッチとかを、気が向いたら食べていた。
そしてたっぷり2日は泣いて暮らした。
3日目になって、流石に涙は枯れた。
その頃になって、ようやく『そろそろ外に出ようかな』と思えてきた。
「……」
私は自分の部屋の扉を、そっと押しあけた。
「……ラズ!」
扉の前の廊下で、持ってきた椅子に座って、本を読んでたノアがいた。
私の出待ちをしていたのかな?
申し訳なさそうな顔をして、ノアが私に近付いてきた。
「待って!!」
私は怒り気味に言った。
「……お風呂入ってくる」
そして不貞腐れた顔をプイッとそむけて言った。
それからミリーに、お風呂上がりのお手入れなどお世話をしてもらい、部屋に戻ってきた。
侍女が部屋を綺麗にしてくれており、私はソファに座ってハーブティーを飲んでいた。
すると扉がノックされて、ノアが入ってきた。
「…………」
来たか。
と思いながら、なかば睨んでノアを見る。
「……ごめん」
ノアは珍しく、シュンとして俯いた。
「……まぁ座りなよ」
私は自分の隣にあたるソファを、ポンポン叩いた。
ノアは素直に座った。
そして「本当にごめん!」と頭を下げてきた。
「…………いいよ。けど、フェリックス王子の婚約者になんてなりたく無い……どうしよっか??」
私は揺れる瞳でノアを見た。
涙が枯れたはずなのに、気を抜いたら泣いてしまいそうだ。
そして弱々しく笑いながら続けて喋りかけた。
「どこか遠くへ逃げよっか? 連れてってくれる?」
「……王太子妃になれるんだぞ? 魅了魔法のこと抜きにしても、なりたくないのか?」
「……このままだと将来断罪されて、目を失うの……」
「??」
ノアは訳がわからず、ただ困惑していた。
「……ノア、あのね……実は私には、前世の記憶があるの」
「前世?」
ノアが眉をひそめて私を見た。
「この世界に生まれる前の記憶。私はこことは別の世界で生きてたの」
私は、しっかりとノアを見つめて説明した。
「その時したゲームの世界が、今いるこの世界なの。そのゲームの中の登場人物の1人がラズベリー・ブランジェ」
「……ゲーム?」
「うーん、なんて言ったらいいんだろう。本の中の物語を、自分で操作して体験する……みたいな? ノアも出てくるよ。ゲームの中では大きくなったら大聖者になってて、ラズベリーの魅了魔法が効かないの。だから最後に、ラズベリーを捕まえるんだ」
「……ここでは絶対そんなことしないぞ?」
「ゲームの中では、私たちはまだ出会ってなくて、捕まる時も、まったく仲良くないからなぁ」
私はノアを見つめたまま笑った。
そしてゲームのあらすじを伝えた。
私がフェリックス王子の婚約者になり、そのうち聖女セシリアがあらわれ、セシリアをいじめた罪で断罪される。
その時に目を取られるのだ。
「……ゲームの中では語られていないけど、多分私が、王族に魅了魔法を使ってるのが、聖女の力でバレてしまうの……それで、魅了魔法の原因になってる、このピンクの瞳が取られてしまうんだと思う」
私は涙が溢れそうになったので、両手で目を覆った。
「……そんなことはさせない」
ノアが、私を優しく抱きしめてくれた。
「……だから王宮には行きたくなかったし、結局フェリックス王子に魅了魔法をかけちゃったし……」
「ごめん……ラズに何かあったら責任とる。それこそ、一緒に逃げよう」
「……本当?」
私は目を覆っていた手を離して、顔を上げた。
「あぁ」
ノアが力強く頷いてくれた。
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3日も引きこもっていた私を迎えての、家族で団欒しながらの夕食。
私はやさぐれ気味だった。
フェリックス王子の、婚約者になることについての話題だったためだ。
「ラズベリー……そんなにフェリックス王子の婚約者になることが、嫌なのかい?」
お父様が、たじたじになりながらも尋ねてくる。
「何度も申し上げている通り、嫌ですわ!」
私はジト目でそんなお父様を見る。
「でもなぁ、王命なんだよなぁ……理由はやっぱりノア君かい?」
「??」
私は一瞬きょとんとした。
ノア?
何のことだろう?
「ノア君と、ラズベリーも結婚したいのかい?」
「!! ……そう、そうですわ! わたくしはノアと結婚したいのです。フェリックス王子とは嫌ですわ」
私は、お父様が言い出した設定に乗っかった。
さっきノアも『責任とる』って言ってたし!
「絶対にノアと結婚します!!」
もうこうなりゃヤケだ!!
私は両親にワガママをぶつけた。
「……一時より落ち着いたと思ってたのに、こうなったら、ラズベリーは聞かないからなぁ」
お父様がお母様に言った。
おそらく、前世の記憶を思い出す前の、ラズベリーのことだろう。
「そうねぇ。でも王家からの手紙はどうしましょう」
お母様がため息をつきながら、お父様を見つめた。
「1回素直に返事を書いてみようかな……」
お父様がそう言って苦笑した。
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夕食のあと、私はお母様に呼び出されていた。
私は大人しく、お母様が待っている部屋へ向かった。
部屋に入ると、前のお茶会の時みたいに人払いがされており、机には紅茶が用意されていた。
お母様のお腹はだいぶ大きくなっており、ソファに座って待っていた。
「ラズベリー、どうしたの?」
お母様が向かいのソファに座った私を、心配そうにのぞきこんだ。
「……フェリックス王子に、魅了魔法をかけてしまったの」
私はシュンとして答えた。
「そんなことだろうと思ったわ」
お母様が、夕食時のワガママな私を思い出しているのか、呆れたまなざしを向けてきた。
「3日も経ってるから、もう解けてるとは思うけど……退魔のアイテムも身につけているらしいし」
「!! 退魔のアイテムは人間がそう信じているだけで、弱い闇の魔法しか退けないわよ。ラズベリーの魅了魔法とは、相性が良すぎるわ」
お母様が驚いて目を丸くしている。
「え? どうゆう意味?」
私はこわごわと聞いた。
「……おそらく、今も魅了魔法にかかっていると思うわ。退魔のアイテムは、強い闇の魔法を増幅させる力もあるの」
「!? ……詰んだ……」
私は絶望した。
もしかしたら、もう魅了魔法が解けてて、お父様の返事の手紙で無かったことにならないかな?って楽観視していたのに。
魅了魔法を解かなきゃ!
ダライアス様に解いてもらう??
フェリックス王子を屋敷に連れてく??
うーん……
「お母様、魅了魔法を解く方法は本当に無いの?」
「……前にも言ったように、解く必要が無かったから……でも待って、何か思い出しそう」
お母様が、うーんと目を閉じて思案している。
「……確か、複数の人に魅了魔法をかけてしまった時に、初めの1人に構いすぎると、他の人が正気に戻ることがあったわね」
お母様が目をそっと開いて、喋り出した。
「!! 正気に戻った?」
「そう。魅了魔法をかけても、他の人と愛し合っているのを見せつけると、魔法が解けるの。……男性が、目の前の女性を『自分のものに出来ない』と悟ったら、目が覚める感じの本能かしら? それとも、あまりにも悲しくて、そのショックが魔法に打ち勝つのかしら?」
お母様は、美しく笑いながら首をかしげた。
「それって……フェリックス王子の目の前で、他の人とイチャイチャするってこと?」
「ちょうど良いじゃない。断りたいんでしょ? ノアでも連れてってサキュバスの本領発揮してきなさいよ」
お母様が楽しそうに笑った。
「!!」
なんてことだ!!
非常に恥ずかしい。
恥ずかしすぎる!
私は真っ赤になって、眉を下げて困惑した。
そんな私を見つめながら、お母様が妖艶に笑った。
「……まぁでも、このままフェリックス王子と結婚して、護衛魔導師としてノアを侍らせとけば、やりたい放題できていいかもね」
とってもサキュバス的思考だ。
……私もそんな考え方が、ある意味出来るようになりたいかも……
私はがっくりと肩を下げた。




