26:フェリックス王子
ウォルターさんに、魔石をセット出来る剣の作成をお願いしてしばらくすると、きちんと要望通りの物が仕上がってきた。
さすがウォルターさんだ。
仕事が早い。
レナルド王子も、火の魔法をまとった剣を振り回せて、ご満悦だったらしい。
今日は最後になるであろう、王宮へ出向く日だった。
私はいつものように、庭園のガゼボのベンチでノアを待っていた。
最近は誰にも話しかけられることなく、穏やかな時間を過ごせていた。
私は本を読みながら、レナルド王子からの紅茶とお菓子をいただく。
今日で終わりだー!!
良かったぁ。
私は心の中で、ほくそ笑みながら本に目を通していた。
そろそろノアが帰ってくるし、何事もなく速やかに帰ろう!!
けれど私の思いとは裏腹に、最終日にして1番会いたく無い人物に会ってしまうのだった……
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「本当だ。小さな魔法使いがいる」
王宮の庭園に、クスクス笑う声が響いた。
私は嫌な予感がしながらも、本から目線を離し、顔を上げた。
「!!」
私の目の前には、金髪碧眼の麗しいフェリックス王子が立っていた。
少し距離をあけて、彼の護衛や従者の姿もあった。
私は慌ててベンチから立ち上がり、礼をとる。
「いいよ。顔を上げて」
王太子様の優しい声が聞こえた。
私は失礼かと思い、ローブのフードを脱ぎながら顔を上げた。
そしてポーッとしながら、王太子様の青い瞳を見つめてしまっていた。
フェリックス王子は、実は私のゲーム内での推しキャラだったのだ。
めちゃくちゃカッコいい!!
ゲームのスチルよりは幼いけど、推しが目の前にいる!!
実物を目の前にすると、やっぱりテンションが上がってしまう。
「ラズベリー・ブランジェです……」
私は少し照れながら、自己紹介をした。
「弟のレナルドがお世話になってるね。君の話もよく聞いてたから、ちょっと喋ってみたくなって」
フェリックス王子が優しく微笑んだ。
カッコいい!!
……落ち着かなきゃ。
相手は王族。
私は魅了魔法持ち。
危ない。処罰。
目を取られる。
あ、この人に目を取られるんだった。
私は心の中で必死に自分を律した。
「君がレナルドの魔石を、生成してくれたらしいね。いろいろな魔法を開発しているのも、知っているよ。僕と同い年なのに、すごいなって思って」
「そんなっ。誉めていただけて、ありがたいですわ」
私は照れながら俯く。
「あれ? 葉っぱが頭についてる」
フェリックス王子が、私の頭を指さした。
「??」
私は慌てて自分の頭を触って、葉っぱがどこか探す。
「違うよ。そこじゃなくって……ちょっと髪に触っていい?」
フェリックス王子が、クスクス笑っている。
「……」
私はコクリとゆっくり頷いた。
フェリックス王子がそっと近付いて、髪に付いている葉っぱを取ってくれた。
「……ありがとうございます」
私は頬を染めたまま、フェリックス王子を見上げた。
「……何やってるの?」
いつの間にかノアが近くまで来ており、不機嫌な顔で私を見ていた。
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「…………」
あれからフェリックス王子と少し話をすると、彼は去っていき、残された私とノアは、ガゼボのベンチに座っていた。
「結局、王太子様が好きなのかよ」
ノアが足を組んで、腕も組んで、怒りのオーラを発している。
「へ? そんなことないよ」
「だってあんな表情、オレにはしないだろ。だいたい大人しくベンチにいるって言うのに、初対面の男とよく喋ってるじゃないか」
ノアがそう言って、私をジロリと睨む。
「それは、あっちが喋りかけてくるんだもん!」
「本当は王太子様と喋れる機会を狙ってたんだろ!」
言い合いの喧嘩になってしまった。
「…………ひどいよ」
私は揺れる瞳でノアを見つめた。
目の前がぼやけてくる。
耐えきれなくて、その場を離れるために、私はベンチから立ち上がって走って逃げた。
「ラズ!!」
背後でノアの叫び声が聞こえたけれど、気にはしていられなかった。
私は走って人気のない場所を探した。
がむしゃらに進むと、庭園の外れにある池のほとりに着いた。
幸い誰もいないので、池を見つめながら立ち止まる。
「……私だって困ってたのに……」
今まで我慢していた涙が溢れ出た。
1番の理解者だと思っていたノアに、あんなことを言われて悲しかった。
嫉妬してるんだって分かっていたけど、傷付いた。
「うぅ……」
泣き止まなきゃ。
ここは王宮だから。
泣いてちゃダメだ。
私は必死で心を落ち着かせた。
「ラズベリー?」
背後から誰かの声がした。
『ラズ』と呼ばれないから、ノアじゃないのは分かったけれど、咄嗟に振り向いてしまった。
「騒いでいる声がして、君が走っていくのが見えたから……」
そこには心配した表情の、フェリックス王子がいた。
「……フェリックス王子……」
私は急いで涙を拭った。
「…………」
フェリックス王子は、優しげな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
泣いてる時に会ってしまった!!
どうか退魔のアイテムで弾いていて!!
私は緊張しながら、フェリックス王子の挙動を見守った。
「ラズベリー……」
フェリックス王子がフッと笑って、私の頬を両手で包み込んだ。
フェリックス王子の瞳が虚ろになっていた。
そしてそっと顔を近づけてくる。
「!!」
「ラズ!」
フェリックス王子にキスされそうな間一髪の所で、後ろからノアが私をひょいっと抱きかかえ、自分の腕の中に閉じ込めた。
「……君はラズの護衛魔導師? ……ラズベリーを返して。君の護衛はもういらない。これからは僕が守るから」
フェリックス王子がニッコリ笑った。
しっかり魅了魔法がかかってる!!
どうしよう……
「ラズは渡さない!」
ノアが、私を抱きしめる力を強めながら叫んだ。
「フフッ。護衛魔導師ごときに何が出来るの? 王命だよ。ラズベリーを僕の妃にする」
フェリックス王子がニヤリと笑った。
……乙女ゲームのシナリオ通り、フェリックス王子の婚約者になってしまいそうだ。
私は青ざめた。
その時、フェリックス王子の護衛や従者たちが、駆けつけてきた。
いきなり姿を消した王太子を探して、追ってきたようだ。
たくさんの人が、私たちの間に入ってきたから、幸いにも場が白けた。
「行こう」
ノアが私の手を握って歩き出す。
「ラズベリー。またね」
フェリックス王子が、目を細めて妖艶に笑いかけてきた。
さすが王子と言っていいのか、魅了魔法にかかっても、理性が他の人よりは残っている感じだ。
でもそれだからこそ、背筋が冷えるような怖さをはらんでいた。




