25:彫金師ウォルター
王宮からの帰りの馬車の中、いつものように私たちは隣り合って座っていた。
「レナルド王子は順調?」
私はノアを見上げた。
「……魔法を使えるようにはなってきたけど、王子は魔法で剣を作りたいらしい。ちょっとそれは難しすぎて無理なんだけど、分かってはもらえなくって」
ノアが肩をすくめた。
「うーん……憧れる気持ちは分かるけどね」
私は腕を組んで前を向いて考えた。
魔法の剣ねぇ……
ようは火が出る剣だったらいいのかな?
「……ノアが私に、複雑な守護魔法がかかった部屋の鍵を作ってくれたでしょ? あれみたいに、例えば剣に魔石をセットして、火の魔法が発動したら火の剣になる〜とか出来ないかな?」
私は思いついたことを言ってみた。
「!! それいいな! 今度彫金師のウォルターさんに相談してみようか」
「……彫金師?」
私は首をかしげた。
「魔石用の腕輪を作ってる人だ」
ノアがワクワクしている顔を私に向けた。
「ラズも行くか? ウォルターさんは大きなアトリエを構えてて、いろんな作品も見れるぞ」
「行く!!」
私は大きく頷いた。
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ウォルターさんにあらかじめ会う約束をとり、訪問する日時を決めた。
出かける時に、ミリーにやっぱりデートだと思われた私は、令嬢らしく可愛く仕上げられた。
まぁ大きなアトリエらしいから、失礼のないように綺麗めの格好がいいかも?
けれど、あくまでダライアス様のもとで学ぶ『ラズ』としての訪問なので、ウォルターさんには畏まらなくていいことを伝えてあった。
そんな感じで私とノアは、ウォルターさんのアトリエに訪問した。
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「いらっしゃい」
アトリエの扉を開けて出てきたのは、長めの髪を後ろで縛り、メガネをかけているちょっと体格のいい男性だった。
優しい笑顔を浮かべており、私たちを歓迎してくれているのが分かった。
ノアが挨拶をする。
「ウォルターさん。久しぶり」
「ノア、大きくなったなぁ! 護衛魔導師になった噂は本当だったんだな」
ウォルターさんが、ブランジェ家の上質な服を着たノアを、上から下まで眺めて言った。
「それで、護衛してるのが、こちらのお嬢さん?」
ウォルターさんが私を見て微笑む。
「初めまして。ラズベリーです」
私は軽くカテーシーをした。
「なんでこんな可愛らしいお嬢さんの、護衛をしているんだ? 気に入られたのか?」
ウォルターさんが、ノアに詰め寄った。
「ラズは、師匠の所で魔法を習ってる魔導師仲間だ」
ノアが少し面倒くさそうに答えた。
「……でも、何故それで護衛に?」
「……」
ノアは相変わらず不機嫌な顔をしていたが、困っているようにも見えた。
「私がお願いしました。一緒に大聖者を目指しているので。危ないことも多くなるし」
私はノアを助けるために、少し嘘の混ざった理由を伝えた。
恐らくノアは、私を怪我させてしまった話がしたくないのだろう。
その気持ちを汲んで、嘘をついてノアをかばった。
「お願いしたのはオレのほうだし」
「そこ!? ゆずれないのそこ!?」
私はビックリして目を見開く。
今つっこむ所かなぁ!?
「なるほど。何となく君たちの関係性は分かった」
ウォルターさんは私たちのやり取りを見て、何か理解したらしい。
クスクス笑いながら言われた。
「じゃぁ早速アトリエを案内するよ」
笑ったままのウォルターさんが室内に一歩下がり、奥の方へ腕を伸ばして、私たちが入ることを促してくれた。
「うわぁ!! とっても綺麗ですね!」
私は、建物に使う金細工が並べられた一角を見ていた。
繊細な模様が彫られたフレームを、まじまじと見る。
彫金師なので、腕輪といったアクセサリーだけでなく、金細工ならいろいろな物を作っているらしい。
もちろん、魔石をセットする腕輪もたくさん飾ってあった。
そちらのコーナーに行くと、ウォルターさんが説明し出してくれた。
「魔石用の腕輪は、魔石に形が自在に変化するように、特殊な魔法をかけてあるんだ」
「威力が増すような腕輪は無いんですか?」
私は目をキラキラさせた。
「……作れるかもしれないけど、需要が無いからなぁ」
ウォルターさんが苦笑する。
「ラズは、魔石生成だけで高威力なものを作れるから、必要ないだろ」
ノアが呆れた顔を私に向けた。
「……だって……」
『ゲームなら、高威力の装備を求めちゃうよね』という言葉を、私は飲み込んだ。
「もしかして、高威力の魔石というのは、ノアがつけてるそれかい?」
ウォルターさんが、ノアの腕輪についている、ピジョンブラッドルビーのような真紅の魔石を指差した。
「あぁ、そうだ」
「ちょっと見せて」
「いいぜ」
ノアが魔石を腕輪から外し、ウォルターさんに手渡した。
「美しい……!! ラズが作ったのかい?」
「はい!」
私は褒められたのが嬉しくて、ニッコリ笑った。
「将来は大聖者じゃなくって、魔石生成師とかにならないかい?」
ウォルターさんが笑いながら言った。
「人々を守るための魔石なら需要があるんだ。こんなに美しければ、ますます需要が見込めるぞ」
「……魔石作るの好きなんで、ちょっと良いですねぇ」
私は空を見上げて、少し想像した。
「おい、大聖者になりたいんだろ? せめて賢者には俺と一緒になってくれよ」
ノアが私にジト目を向ける。
「?? 何で?」
「賢者の次の大賢者になるには、他国へ留学しなきゃいけないんだ。その資格を得るためには、賢者になっとかないと……」
「留学かぁ……ノアが先に行っちゃいそうだね」
私はアハハと笑いながら言った。
「……ラズが一緒じゃないと他国へ行けないだろ」
ノアが心底呆れた表情で私を見た。
「あ、そうだった!」
魂の契約魔法の距離の制限があるんだった!
「16歳になってから留学じゃぁ、遅くなるしな」
ノアがボソッと呟いた。
それまで聞いていたウォルターさんが、口を開く。
「何が?」
私とノアは、ウォルターさんの方を向いて同時に答えた。
「もちろん、大聖者になることです」
「けっこ……」
私の声で、ノアのセリフはかき消されたけれど、私には確かに聞こえた。
〝結婚〟って言おうとした?
ノアは頬を赤くして、フイッと顔を逸らしてしまっている。
「ハハハッ! そんなに早く大聖者になりたいんだ」
ウォルターさんは高らかに笑った。
私も平然なフリをして頷く。
ミリーが言ってたことは、本当だったんだ!!
大聖者になって私と結婚するって話。
しかも早くなりたいって言ってたし!!
それからも、ウォルターさんの説明を冷静に聞いているフリをしたが、私の心の中は大荒れだった。
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アトリエを一通り見させてもらったあと、奥にあった応接間で、ウォルターさんが紅茶とお菓子を振る舞ってくれた。
「剣に魔石をねえ」
ウォルターさんが、紅茶を飲みながら呟いた。
「出来るとは思うよ。僕は剣を作ることは出来ないから、作れる知り合いに声をかけてみるよ。その剣に僕の彫金加工で、魔石をセット出来る場所を作ろうかな」
ウォルターさんが穏やかに言葉を続ける。
「けど、レナルド王子用に1本だけだぞ。僕は武器を作るのは好きじゃないから」
「分かった」
ノアがウォルターさんをしっかり見据えながら頷いた。
良かった!
もし上手くいったら、レナルド王子への魔法のレクチャーもおそらく終了出来る。
早く王宮通いが無くなって欲しいもんなぁ。
私は目処がつきそうなことにホッとしながら、紅茶を飲んだ。




