24:ジュード
今日は王宮に出向いて、レナルド王子に魔法を教える日だった。
ノアと別れた私は、王宮の庭園の中にあるガゼボで、優雅に紅茶を飲んでいた。
この紅茶は、レナルド王子からの粋な計らいだった。
私が毎回ここで待っているのを知ってからか、従者たちが『王子からです』と言って、紅茶セットを出してくれるようになったのだ。
さすが王宮の紅茶。
美味しい。
私は魔法の指南書を読みながら、そんなことを考えていた。
「貴方がラズベリー様でしょうか?」
そんな私に声をかけてくる人がいた。
私はげんなりしながら指南書から目を離して、顔をあげる。
どうしてこんなに人が絡んでくるんだろう?
有名なの?
私がここにいるって、すでに有名なの??
私は、そう思いながら声をかけてきた人を見た。
ーーーーーー
攻略対象者の1人、ジュードが立っていた。
「ジュード・ダンクラーと申します」
「……ラズベリー・ブランジェですわ」
礼儀正しく挨拶をしてくれるジュードを、ないがしろにすることは出来ず、私はしぶしぶ立ち上がってカテーシーをした。
「少しお話しても、よろしいでしょうか?」
ジュードは穏やかな笑みを浮かべていた。
「……ここでよろしければ……」
私は、よそ行きの笑顔を貼り付けて答えた。
攻略対象者のジュードは、薄い黄緑のサラサラな髪に、蜂蜜色の瞳をした幼い顔立ちの男の子だ。
あどけなさの残る今の年齢なら、女の子って言われても信じてしまうだろう。
けれど、見た目に関わらず頭脳明晰で、将来フェリックス王子の側近になる。
確か同い年だけど、成長しても童顔で可愛いキャラなんだよな。
でも中身は腹黒だったような……
私としては、あまり近付きたくない人物の1人だ。
そんなジュードが、少し距離をとって私の隣に座った。
「僕は今、魔法省の管轄をしている父の手伝いをしております。それで、ダライアス様からの報告書で、よく名前を聞くラズベリー様と話がしてみたくて……」
そう言ってジュードは、大きな瞳を潤ませて私を見た。
なんてことだ……
まさかのファンだ。
私は少し嬉しくって、思わず口元が緩む。
「最近では海から魔石を作ったとかで……凄いですね。僕には魔法の才能が無いので、羨ましいです」
ジュードが切なげに目を伏せる。
なんだろう。
可愛い男の子だからか、ちょっとキュンとする。
ほのかに感じるあざとさに、まんまと引っかかってる気もするけど。
「ぜひ、何か魔法を見せてくれませんか?」
ジュードが、はにかみながら首をかしげた。
「……う、、」
危ない!
うんって頷くとこだった!!
私は咄嗟に正気に戻った。
「わたくしは、ダライアス様の屋敷以外では、魔法を使えないのです」
私は眉を下げながらジュードに伝えた。
「……そうですか。残念ですが…………ラズベリー様はどうしてここに?」
「わたくしの護衛魔導師が、レナルド王子に魔法を教えておりますので、ついてきてここで待っておりますの」
「?? 何故ご自身の屋敷でお待ちにならないのですか?」
ジュードが、もっともなことを聞いてきた。
私はこんな時のために考えていた返答をするために、覚悟を決めた。
恥ずかしすぎて、喋る前に赤くなってしまう。
「……護衛魔導師のノアをお慕いしているので……かっ、片時も離れたくないのですわ!」
「……」
ジュードが目を見開いてキョトンとした。
「アッハッハッハッ! なるほどね。よく分かりました」
ジュードがそれまでの様子と打って変わって、豪快に笑った。
「今まで表に出なかったブランジェ侯爵家の令嬢が、いきなり王宮に現れ出したから、怪しいと思ったんです。もしかして、レナルド王子やフェリックス王子を狙ってるのかなって」
ジュードがニヤリと笑った。
やっぱり、さっきまでは猫を被っていたんだ。
私は自分を取り繕うのを少しやめて、げんなりした顔を向けた。
「狙っておりませんし、極力関わりたくないと思っていますわ」
『ジュードともね』と心の中で付け足した。
「うん。ラズベリー様の様子でよく分かりました」
ジュードは何がおかしいのか、ケラケラ笑っている。
揶揄わないでほしいなぁ。
それとも、わざとらしい言い訳に聞こえて、疑われてるのかな?
私は不貞腐れた表情をジュードに向けた。
「……わたくしが王宮に出入りしているのは、有名なのかしら?」
「レナルド王子がよく喋っているから、有名なんじゃないでしょうか?」
ジュードは意地悪な笑みを浮かべる。
……あの王子!!
私は心の中で悪態をついた。
「あ、ほら。愛しの護衛魔導師様が来られましたよ」
ジュードが、遠くから私の方に向かって歩いてくるノアを見つけてそう言った。
私は頬を赤く染めて、ジュードを思わずジト目で見た。
ジュードは私の視線なんか気にもせず、ニヤニヤ笑っていた。
面白がっているだけなのか、言い訳が嘘なのがバレているのか……
「?? ラズどうしたんだ?」
近くまで来たノアが、私たちの変な雰囲気に眉をひそめた。
そしてチラリとジュードの方を見た。
「何でもありませんわ」
私はそう言いながらベンチから立った。
「……この方はジュード・ダンクラー様で、お父様が魔法省を管轄なさっているそうよ」
私がジュードを紹介すると、彼も立ち上がりノアと挨拶を交わしていた。
ーーーーーー
「じゃぁ失礼しますわ」
私はきりのいい所でジュードに別れの挨拶をすると、ノアの腕に自分の腕を絡め、なかば腕に抱きつくようにピッタリ横にくっ付いた。
「!!」
ノアがビックリして少し固まるのを感じたが、無理矢理引っ張って歩き出す。
ジュードからだいぶ遠ざかると、ノアの腕を抱きしめていた力を弱めて歩いた。
「どうしたんだよ??」
ノアがちょっと慌てながら聞いてきた。
「……ジュードに、私が王族を狙ってるから王宮に来てるんじゃないかって疑われてて、ノアと片時も離れたくないから来てるって言っちゃったんだよねぇ……」
私はげんなりとして前を向いたまま喋った。
2人とも帰るために、馬車へ向かって歩き続けていた。
そして私はノアを見上げた。
「ジュードに見せつけるために〝片時も離れたくない〜!〟って態度のつもり……だったん、だ、け、ど……」
私は冗談っぽく笑いながら言ったけど、真っ赤になって照れているノアが目に入ると、恥ずかしさが私にまでうつってきた。
「あ、うん。いきなりごめん」
思わずノアから目を逸らして、腕もパッと離した。
「……可愛いから、別にいいよ」
ノアがぶっきらぼうに言って、私の手をとり繋いで歩き出した。
照れ隠しのように私をグイグイ引っ張り前を歩く。
私は赤くなりながらも嬉しくて、ノアの手を握り返した。




