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やっぱり、君の瞳に恋してる!〜ピンクの瞳に魅了魔法の力が宿る悪役令嬢が、最強の魔導師を目指します〜  作者: 雪月花
ラズベリーとノア

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23/79

23:ocean


 レナルド王子が、無事に火の魔法を出せた日の王宮からの帰り道。

 ブランジェ家の馬車の中で、私とノアはいつものように隣り合って座っていた。


 ノアはいつに増しても不機嫌だった。

 足を組んで頬杖を付き、いつものように窓から流れる景色を眺めているが、不機嫌オーラがダダ漏れだ。


「……怒ってる?」

 私はそっとノアに聞いた。

「……別に」


 いや、怒ってるよね。

 あれかな?

 レナルド王子に、自分が教えても上手くいかなかったのに、私が教えたら上手くいったから拗ねてるのかな?


「年上が好きなのか?」

 ノアがボソッと呟いた。

「へ?」

「ルイスさんと、デレデレしながらずっと喋ってただろ」

 ノアが頬を赤くして、私を睨んできた。


 !!

 ……嫉妬だ!!


 ノアからの好意を向けられるのはむず痒いけど、なんか可愛いな。


「ニヤニヤすんなよ」

 ノアがプイっと顔をそむけた。

「フフフッ。ごめんごめん」

 私は思わず笑ってしまった。


「なかなか習得出来ない魔法について、教えてもらってただけだよ。今からダライアス様の所に行って試そうかな」

 私はそう言いながら、自分の両手を握って小さくガッツポーズをした。

 今日、ルイスさんにいろいろ教えてもらったので、やる気満々だ。


「それとさぁ、今日レナルド王子に魔石生成の補助してて、思いついたことがあるんだよね」

「?」

 ノアが興味を持ったのか、私の方を向いた。

「私も魔法が上達したことだし、今ノアに補助してもらって魔石生成したら、大きな対象物から作れるんじゃないかって……」

「例えば?」

「海とか……」

 ノアはじっと私を見つめた。そして「師匠の屋敷の外だから、許可を取らないとな」と言ってニッと笑った。

 好奇心が赤い瞳の奥に宿っている。


 私は御者に頼んで、ダライアス様の屋敷に行き先を変更した。




**===========**


 あれからダライアス様に許可を取り、私とノアは、日をあらためて海に向かうことにした。

 

 ダライアス様と事前に行き先を話し合い、後で結果をノアが報告することになった。




「今日は海へデートですか?」

 支度を手伝ってくれているミリーが、笑いながら尋ねてきた。

 私はドレッサーの前に座って、鏡越しにミリーをジト目で見つめた。

「んー、どちらかと言うと、魔法の課外授業というか……あ、街に行くような、カジュアルな装いにしてもらえるかしら?」

 私はミリーに指示を出すついでに、ノアにも合わせるようにという言伝を、ミリーとは違う侍女に頼んだ。


 魔法がもし上手くいったら、ダライアス様の所へ直行してしまいそうだ。

 前みたいに、令嬢の格好ではダライアス様の所へ行っちゃダメなことを思い出した。


 フフフッ。

 もし成功したらダライアス様驚くだろうなぁ。

 ……すっごくワクワクする!!

 海に行くのが楽しみ!


 ミリーはニコニコ顔の私を見て勘違いし、カジュアルだけど、やっぱり可愛く仕上げてくれるのだった。




**===========**


 私とノアは馬車から降りて、白い砂浜の上に立った。

「わぁー!! きれいな海!」

 

 透明からエメラルドブルーのグラデーションになっている美しい澄んだ海が、水平線へと広がっている。

 白い細やかな砂は、太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。


 よせては返す波は穏やかで、砂浜に優しい砂紋を描いている。

 辺りに人はおらず、心地の良い波音だけが響いていた。


「さっそく試してみようよ!」

 私はノアの腕を引っ張って、波打ち際まで近づいた。


 そして私は海に向かって立ち、両手をかざした。

「補助よろしく」

「ん」

 ノアが私の後ろから抱きかかえるようにして、私の両手に手を添える。

「!! なんで後ろから!? 正面は?」

 私は狼狽(うろた)えて叫んだ。

「対象物がでかすぎて、俺がラズの前に立つと邪魔だろ?」

 頭の上から呆れた声が聞こえた。


 ……初めてノアの補助で魔石を作った時より、ノアの背が伸びてる。

 

 ノアは私の頭一個分ぐらい大きくなっていた。

 

「……じゃぁやってみるね。……〝examine(イグザミン)〟」

 私は気持ちを落ち着けて、海に目を向けた。


 イメージしなきゃ。

 大きくて広い。

 美しくて豊かな海。

 生命の源……


 目の前の穏やかな海から、水面の煌めきをそのまま取り出したような光の粒子が、私たちの目の前に集まる。

 

 対象物が大きいからか、いつもより光の球が大きくなる。

 そして薄っすら青く色付いていた。


 両手をそっと、光をかかえるように下へ動かす。


 私は落ち着いて息を大きく吸った。


「〝generate(ジェネレイト)〟」

 

 私の呪文に反応して、光が収束していく。

 それと共に輝きも増したので、目が開いていられなくなった。

 ギュッと目を閉じても、辺りが白く包まれたのを感じた。


「…………」

 次に目を開けると、私の手のひらの上に、エメラルドブルーとゴールドやシルバーの色彩で出来た、オーシャンジャスパーのような魔石が出来ていた。

 いつもの透明な宝石ではなく、不透明な球状でツルツルしている。

 小さな地球みたいだ。


「出来た!」

 私は魔石を両手で握りしめながら、後ろにいるノアを顔だけ振り返って見上げた。

「やったな!」

 ノアも嬉しそうな笑顔を浮かべて、私をギュッと抱きしめてきた。

「ひゃっ!! ……ねぇねぇ、使ってみようよ」

 私は突然抱きしめられてビックリしたが、それ以上に新しい魔石のことが気になっていた。

「私は魔石生成までしか屋敷の外では許されてないから、ノアが使ってみてよ」

 私はノアにさっきの魔石を差し出した。


「……じゃぁ何か言われたら、ラズが溺れそうになったからって口裏合わせてくれよ」

 ノアがそう笑いながら、魔石を受け取った。

 彼が魔法を使用するためにも、一応私を守るためという名目が必要だからだ。

「アハハ! 分かったよ」

 私は笑いながら、ノアから少し離れた所に立った。


 ノアが魔石を腕輪にセットして海に向かって手をかざす。

「あ、呪文は『ocean(オーシャン)』でお願い」

 私が慌てて声をかけた。

 魔石生成時に頭に浮かんだ呪文だ。


「分かった」

 ノアがチラリと私を見て頷いた。

 そしてまた海に視線を戻す。


「〝ocean(オーシャン)〟」


 ーーーーーー




「……すっごいね」

 私は思わず呟いた。


 オーシャンの魔法は、その名の通り海が発生した。

 目の前の穏やかな海とは違い、荒々しい海が発生し、本物の海の水を押しのけて水平線の彼方へ進んでいってしまった。


 目の前には、いきなり引き潮になったような、海の水が一切無くなった濡れた砂浜が広がる。


「すごいけど、いつ使うんだ?」

 ノアも驚いて、魔法を発動させた時のままの、手をかざした姿で固まっている。


「……魔王が攻めて来た時とか?」

 私はそんなノアを見ながら半笑いで答えた。




「…………海が……」

 ノアが呆然としたまま呟いた。

 私も海の方に視線を向ける。


「!! ノア! 逃げよう!! 大きな波がくるよ!」

 私はノアの腕を掴んで、海とは反対方向に走り出した。

 

 本物の海を魔法で押し返したから、その分だけ波が戻ってきたのだ。

 

「わー!!!!」

 必死に走ったが、結局波をザバーンと被ってしまった。

 遠くに逃げた分、波の威力は小さくなっていたけれど。


 波が引くと、ずぶ濡れになって砂浜に倒れ込んでいる私とノアが残されていた。

 幸い、遠くに停めている馬車には波は届かなかったようだ。


 私とノアは砂浜に手をつき、上半身だけ起き上がらせて見つめ合った。

「「あはははははは!!」」

 2人して思わず笑った。


「あービックリしたね」

 濡れて顔にまとわりついている髪をかきあげながら、私はノアに言った。

「波をかぶる前に、プロテクトの魔法を使えば良かったな」

 ノアがそういいながら呪文を唱えだした。


 すると、私とノアのまわりに光の粒子と共に暖かい風が巻き起こり、濡れている状態を少しずつ乾かしてくれた。

 

 水の魔法を初めて使って、水をかけ合いした時にも使ってくれた魔法だ。


「……こんなにずぶ濡れだと全部は乾かないね……」

「何度もかけるしかないだろ。このままじゃ帰れないぞ」

「…………」


 このあとノアが何度も魔法をかけてくれて、どうにか乾いた私たちは、急いでダライアス様のもとに向かった。




**===========**


 ブランジェ家に2人を乗せた馬車が帰って来たのは、日が暮れてからだった。

 ダライアス様の所で報告し、帰る頃には2人ともクタクタで眠ってしまっていた。


 御者から困っているという報告を受けたミリーが、馬車まで出向いていた。

 なかなか起きない2人を引き取るためだった。


「あらあら」

 御者が馬車の扉を開けてくれて、中をのぞいたミリーが思わず声を出す。

 

 2人は仲良くお互いにもたれ掛かって、ぐっすり眠っていた。

 手を固く繋いだまま。


「フフフッ。よっぽど海ではしゃいだのでしょうか」

 ミリーが微笑ましく思い笑いながら、ラズベリーに手を伸ばした。


「?? ここから手が伸ばせない。何か壁があるのかしら? 魔法??」

 優秀な護衛魔導師は、眠っていてもラズベリーを守ることに気は抜かなかったらしい。


「……可哀想だけど、ノアを起こすしかないわね。……ノア、屋敷に到着したわよ。起きて下さい」

 ミリーが何度か呼びかけると、ノアがゆっくりと目を開けた。


「ごめん。寝てしまってた」

 ノアが目をこすりながら言った。

 そして隣のラズベリーが、ぐっすり眠っているのに気がつくと、起こさないように優しく抱き上げた。


「今日は私が運びましょうか?」

 ミリーが先に馬車を降りて、ノアの方に振り返り声をかけた。

「……大丈夫」

 まだ少し眠そうな表情のノアが、ラズベリーを抱えたまま続いて降りてきた。


 そして、大丈夫さをアピールするようにスタスタと歩きだし、ミリーとすれ違った。

 ミリーもあとに続いた。


 ミリーはそのすれ違う時に見ていた。

 ノアが本当に大切そうに、優しげな笑みを浮かべてラズベリーを見つめていたことを。


 ブランジェ家の従者たちは、ノアのラズベリーに対する気持ちも知っていたし、ノアがラズベリーの見えない所で頑張っている姿も見ていた。

 だからこの初々しい2人を、みんな好意的に見ていた。


「……無事にその想いが実るといいですね」

 ミリーはエールもこめて、前を進むノアの背中にそっと呟いた。

 


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