22:レナルド王子
ノアが王宮へ行くことを承諾してから、スケジュールが順調に決まり、週に1度王宮へ出向くことになった。
「いってらっしゃい」
私だけ王宮の庭園に残ってノアを見送る。
「ここから動くなよ」
ノアは王宮の従者に連れられて、レナルド王子のもとへ向かった。
私は庭園の中にあるガゼボに座って、持ってきた魔導の指南書を読む。
フードのある白いローブを着ているので、目立たないようにフードを深めに被った。
ドレスも落ち着いたものなので、パッと見はどこかの魔導師に見えるだろう。
熱心に本を読みふけることで、誰にも話しかけられないことが目的だ。
………………
そうやっていろいろ対策していたのに、2回目の訪問にして異変が起きた。
ガゼボで本を読んでいた私に話しかけてきた人がいるのだ。
「お前か? ラズっていうやつは?」
アイスシルバーの髪に青い瞳。
乙女ゲームの攻略対象者の1人、レナルド王子だった。
「ごきげんよう。レナルド王子様」
私は椅子から立ち上がってカテーシーをした。
「ラズベリー・ブランジェです」
内心舌打ちしながら自己紹介をする。
そこに、少し息を切らしたノアがやってきた。
「王子! 何してるんですか?」
敬語のノアだ!
……なんか慣れないな……
「何って、ノアがラズの話をするから、見てみたくなって」
レナルド王子が屈託なく笑った。
ノアが私の方を向いて焦りながら喋る。
「王子がいろいろ聞いてきたからだぞ! この魔石を作ったのは誰だ? とか、護衛魔導師の話とか。それでつい『近くにいる』って言ったら飛び出して……」
「…………」
私はジト目のままノアを見つめた。
そしてそのまま「魔法を教えてるんじゃないの?」と呆れた表情で聞く。
ノアの代わりに、レナルド王子が答えてくれた。
「オレがなかなか魔法を使えなくてな。行き詰まっているんだ」
それを聞いた私は、思わず目を見開いてノアを見つめた。
「それで俺じゃなくって、ラズに魔石を作って欲しいって」
ノアが少し肩をすくめた。
よく話を聞くと、レナルド王子は魔石生成も上手くいかず、ノアが生成した魔石を使っての魔法発動も上手くいかないらしい。
それで、レナルド王子は、ノアが持っている魔石を使ってみたいと言い出したそうだ。
ノアは今日持っていた魔石は、全て私が強化した魔石だったため、威力が強すぎて素人には扱えないことを説明したらしい。
するとレナルド王子は、近くにいるのなら私に王子用の魔石を作って欲しいと言い出したのだ。
ノアの魔石で上手くいかないなら、私の魔石で試してみようということだった。
「ラズベリー、オレに魔石を作ってくれないか?」
レナルド王子がニコッと笑いかけながらそう言った。
「……かしこまりました」
私は恭しく礼をした。
お願いという程の命令だ。
私は冷めた表情のまま顔を上げる。
……まぁ、素直に自分は上手く出来ないって言うのは、感心なことだけどね。
私は心の中でため息をついた。
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場所をうつして、私も王宮内の一室に案内された。
どうやらここで、ノアが魔法を教えていたらしい。
広いホールのような場所で、室内での魔法の使用が許可されている。
この広さなら、ちょっとした魔法なら発動させても大丈夫そうだ。
室内には王宮お抱えの魔導師になった、ダライアス様の4番目のお弟子さんのルイスさんがいた。
ダライアス様のお屋敷で何度か会ったことがある人だった。
ルイスさんは30代後半ぐらいのカッコいいおじ様だ。
王宮魔導師の黒い服とローブがよく似合う。
「お久しぶりです。ルイスさん」
「やぁラズ。やっぱり連れてこられたか」
ルイスさんは眉を下げて笑った。
……てかレナルド王子、ルイスさんに教わればよくない?
私が変だなと不審に思っていると、それがルイスさんに伝わったのか「レナルド様は、同じ年頃の子に教わりたいそうなんだ」と、コッソリ教えてくれた。
そしてルイスさんは、私たちの監督役だということも教えてくれた。
魔法がうまくいかなくて、危なくなった時とかに、助けてくれるらしい。
ルイスさんは、私たちから離れたところにあるソファに座って見守ってくれた。
机の上には赤い魔石が数個転がっている。
「火の魔石?」
私は隣にいるノアを見上げた。
「あぁ。レナルド王子が火の魔法を使いたいって言って、他のじゃ嫌らしい」
そう言いながらノアは腕組みした。
ノアも困っているみたいだ。
私の時みたいに、水とか状態が安定したものからまずは魔石の生成をしたいのだろう。
いきなり火は少し難しい。
赤い魔石もただの石の形に近い。
……けどこれはもしかしたら。
「レナルド王子、四角い魔石が作りたいのでしょうか?」
私は、レナルド王子が作った魔石の1つを手に取った。
「あぁ。その通りだ」
王子は何故か自信満々に頷きながら、返事をした。
……初めてなのにこだわりは強いのね。
これは教えるのも苦労するかも。
内心はそう思ったが、私は自分なりに教えてみようと決心した。
「四角い火の魔石、もう一度作ってみましょう」
私はレナルド王子に、ニッと笑みを向けた。
「ラズベリーが作ってくれるんじゃないのか?」
「自分が作った魔石の方が、相性がいいのです。お手本をお見せしますので、王子が作ってみたほうが、火の魔法が出しやすくなると思いますわ」
私は近くにあった蝋燭に火を灯しながら答えた。
おそらくこの蝋燭で火の魔石を作っていたのだろう。
私はその蝋燭の火に両手をかざす。
「…………レナルド王子。わたくしは王宮での魔法の許可がおりていません。ですので命令してもらえないでしょうか?」
私は念のために、レナルド王子の言質をとっておくことにした。
「分かった。ラズベリー。火の魔石を生成して」
「かしこまりました……〝examine〟」
私は魔石生成を開始した。
蝋燭の火から光の粒子が渦を巻いて発生し、手のひらの下に赤い光の粒子が集まっていく。
ほんのりあったかい。
「〝generate〟」
球状になった光の下に手を添える。
そして光が収束して、私の手のひらにシザースカットの美しい四角い魔石がころがった。
キラキラ光輝く綺麗な赤い魔石だ。
その魔石をレナルド王子に手渡す。
「王子が作りたい魔石は、こんな形じゃありませんの?」
レナルド王子がその魔石を持ち上げて、まじまじと見た。
「そうだ。美しい魔石だな」
レナルド王子が嬉しそうに笑った。
「じゃぁわたくしが補助しますので、やってみましょう」
私はそう言って、蝋燭の前の場所をゆずるために、少し離れた。
レナルド王子にその場所に立ってもらい、後ろに私が立った。
「あれ? 補助しようとしたら前が見えない……」
私はノアがしてくれたみたいに、後ろから手を添えて補助しようと思い、レナルド王子の背後でワタワタした。
それまで見ていたノアが、呆れながら私に喋りかける。
「何やってんだよ。王子の正面に立ってやればいいだろ?」
「え? ノアは私の時、後ろからやったじゃん! 後ろからの方が補助しやすいんじゃないの?」
「あれは、ラズの背が低いから……いいからこっち!」
なぜか少し怒っているノアに腕を引っ張られて、王子の正面に立たされた。
……まぁこっちからも出来るし、いっか。
「2人は仲が良いんだな。オレにもそんな喋り方してよ」
レナルド王子が、私に向かってニッと笑った。
「王子に対して、おそれ多いです!」
「けどノアとラズベリーも、護衛魔導師とその雇い主なのに、敬ってないだろ?」
王子が少し意地悪な笑みを浮かべて、首をかしげる。
「…………」
私は思わず、隣にいるノアを見た。
「もちろんノアもだよ」
レナルド王子がノアに向かって言った。
「……分かった。その方が喋りやすいしな」
ノアが観念して敬語を辞めた。
そしてレナルド王子が期待した目をして、私の方を見た。
「じゃぁ私も」
私は苦笑しながら答えた。
レナルド王子は私たちより1つ年下だ。
ノアと私が仲が良いのを見て、羨ましくなったのかな?
「ありがとう。じゃぁラズベリー、魔石生成の補助を頼む」
「うん。ちょっと手を添えさせてもらうね」
私はレナルド王子が差し出した両手に、そっと自分の手を重ねる。
「火の力を借りて、魔石にして閉じ込める感じだよ。まずは火の形、色を分析するイメージ。『examine』は観察する、調べるって意味の魔法語なんだ」
私が蝋燭の火を見つめながら説明した。
そうして、レナルド王子の魔石生成が始まった。
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「……出来た!」
王子が喜びの声をあげる。
レナルド王子の手のひらの上に、シザースカットの美しい四角の赤い魔石が出来ていた。
「綺麗な魔石ができたね。じゃぁ次は魔法を使ってみよう。ノア先生よろしくね」
私は先生役をノアと変わった。
私の役目は魔石生成までだし、これ以上は巻き込まれたくない。
王族から出来るだけ距離を取りたいからね。
私はルイスさんが座っているソファに近づいた。
そしてルイスさんの隣に置かれている1人用のソファにそっと腰掛けた。
すると、ルイスさんが優しく微笑みかけてくれて、労ってくれた。
「お疲れ様。噂には聞いてたけど、ラズの魔法生成は美しいね」
「ありがとうございます」
私も穏やかに笑って感謝を述べる。
「レナルド様も、あの魔石なら魔法が出せるんじゃないかな?」
ルイスさんがそう言いながら、レナルド王子とノアがいる方を見つめた。
そして次の瞬間には嬉しそうに目を細めた。
「ほら、出来た」
レナルド王子を見ると、自分の手のひらの上にバスケットボールぐらいの火が出せていた。
王子は手のひらの上にとどまらせた火を、嬉しそうに眺めている。
「良かったぁ」
私は安心してソファの背もたれに、深くもたれた。
「ラズは教え方も上手だね」
ルイスさんが私の様子を微笑ましく見ながら言った。
「でも先生役はもうこりごりです。教わる方が好きなんで」
「ハハッ。いい機会だから何か困ってることがあったら教えようか? ラズはここで魔法が使えないから、実践は出来ないけど」
「本当ですか!?」
私は途端に目をキラキラさせて、背筋を伸ばしてソファに座った。
それからルイスさんとの話が盛り上がった。
レナルド王子とお近付きになりたくないが、ルイスさんにはこれからも教えを請いたいなと思ってしまった。




