21:王宮への招待
私とノアは、今日も元気にダライアス様のお屋敷で、賢者になるための魔導書の魔法を習得するのに励んでいた。
私は、魔法を試せる庭園の近くのベンチに座っていた。
「やっぱり光魔法を使うと疲れる……」
魔導書をペラペラめくると、さっき習得した光魔法の名称と、その魔法についての説明が、薄い灰色の文字に変化していた。
なんとか強化した聖魔法の魔石のおかげで、光魔法の項目はこなせそう……
私はホッとしながら魔導書を見ていた。
隣にはノアも座っていて、私と同じように自身の魔導書を確認していた。
「今日はもう光魔法使うなよ。ラズは光魔法を使った日は、絶対帰りの馬車で寝るから」
魔導書に視線を落としたままのノアに、苦笑されながら言われた。
「屋敷に着いた時に起きてるじゃん」
「……光魔法を2回以上使った日は起きないぞ。俺が部屋まで運んでやってるんだ」
「!! ……じゃぁ癒しの魔法かけてよー!」
衝撃の事実だった。
馬車で寝ちゃって、起きた時には自室のベッドにいたとしても、従者の誰かがお世話してくれたんだな〜って感じで気にしてなかった!
だって、侯爵家の暮らしって、そんな感じでお世話されてるんだもん。
ノアが運んでくれてたなんて……
私は、自分の腕輪にセットしている聖魔法の魔石を外そうとした。
聖魔法はまだ使えないから、癒しの魔法はノアにかけてもらうしかない。
「今日はまだ光魔法1回だから、大丈夫だろ?」
ノアはそう言いながら立ち上がって、私に背中を向けた。
「それに俺は別に迷惑じゃないし」
ノアの表情は見えないけど、照れながら言ってそうだった。
……寝落ちした私を運ぶのは、別にいいよって意味だよね。
……うぅ、なんか照れる。
私が人知れずテレテレしていると、ノアが歩き出した。
「どこ行くの?」
「師匠に呼ばれた。行くぞ」
ノアが、近くを舞っている小鳥型の光を指差した。
その光が、私の回りをぐるっと一周してどこかへ飛んでいった。
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「よく来たのぉ」
いつもの優しい笑顔を浮かべたダライアス様は、大きな机とセットの椅子に座り、私たちを迎えてくれた。
机には数枚の書類が広げられていた。
私とノアは机の向かい側まで歩み寄った。
ノアがおもむろに口を開く。
「話って?」
「実はレナルド王子から、魔法の剣を扱ってみたいから教えて欲しい……という要望がきておるのじゃ」
ダライアス様が並べている書類を指差した。
確かに王家の紋章が入った書類だ。
レナルド王子はこの王国の第二王子であり、確か私の1つ下のハズだ。
そしてばっちり、乙女ゲーム「君のひとみに恋してる★」の攻略対象者だ。
「なんで俺が!?」
ノアは明らかに嫌な顔をした。
「ふむ。ノアが炎の剣を扱えるようになった報告書でも読んだんじゃろう。それに王子と年も近いしのぉ」
ダライアス様が言うには、ここでの目立つ出来事や、珍しい魔法については、王宮にある魔法省に報告書を提出する決まりがあるらしい。
「そんな! 俺、王子に対して礼儀ある態度とか取れないぞ」
「ノアは一応貴族になっとるしのぉ。王宮に魔法の先生として伺うのには適任じゃ。レナルド王子はヤンチャな王子らしいから、まぁ大丈夫じゃろ」
ダライアス様が豊かな髭を揺らして笑った。
「じゃが、ノアが行かないとなると、誰にしようかのぉ……」
ダライアス様がそう言いながらチラッと私を見た。
「!? 私!?」
ビックリしすぎて、思わず私は自分で自分を指差した。
「年も近いし、ラズも立派な貴族だからのぉ」
ダライアス様がニッコリ笑った。
私の先生にノアを任命している時みたいに、ノアを焚き付けるために言っているのだろうか?
私はノアの方を向いて首を横に振った。
「王宮に行きたくない……!」
「……俺が行くことになっても、契約魔法の距離の制限に引っかかると思うぜ」
ノアが珍しく眉を下げて、困り顔をした。
「!! ほんとだ!」
私はあんぐりと開けた口を隠すために、両手で口元を覆った。
結局は私も、王宮に出向かなくてはいけなくなる。
「王族と縁を結べていいと思うんじゃがのぉ」
ダライアス様が穏やかに笑いながら、私たちに諭すように喋った。
……そうだね。
ゲームのノアは王宮お抱えの魔導師だったし、王族の誰かのコネがあって、優遇されていたのかも知れない。
大聖者になるには必要なイベントなのかも……
「……ノア、教えに行ってみたら? 私は王宮の庭園で待ってるよ。ある程度の貴族なら入っていい、公開されてる場所があるから」
「…………」
「ダライアス様が言うように、レナルド王子と仲良くなっておくことは、将来役立つと思うよ」
「んー……分かった」
ノアはしぶしぶ頷いた。
「フォッフォッフォッ。ノアにとっても、いい経験になるじゃろう」
ダライアス様はそう言いながら、書類にサインをしていた。
「ブランジェ家にも書類が届いていると思うから、よろしくのぉ」
ノアの身柄がブランジェ家にうつされているためだろう。
必要書類が我が家にも届くらしい。
「はい。分かりました」
私は頷いた。
「それにしても、2人ともがそんなに王宮を毛嫌いするとは思わなかったのぉ。普通は誉れ高いことなんじゃが……」
ダライアス様がアゴの髭を撫でながら首をかしげる。
「ノアは分かるが、ラズはどうしたんじゃ?」
「……もし王族に魅了魔法をかけてしまったら……処罰されてしまいます」
「……うーむ、そうだったのぉ」
ダライアス様が目を細めて、悩ましい表情をした。
「まぁ、王族は退魔のアイテムを身に付けているはずじゃろうから、ちょっとぐらいなら弾くじゃろう」
ダライアス様のセリフを聞いて、私は少しだけ安心した。
「……おそらくじゃがの……」
いや、これは安心していいのだろうか?
…………
「本当に弾くか試そうとするなよ」
隣のノアが、私を怪訝な目付きで見ながらボソッと言った。
「しないよ!」
ほんのちょっとだけ考えてしまったことを、ノアに言い当てられて、私は動揺した。
だって、魔導師なら魔法の効力について、つい気になっちゃうよね!
「いいか、絶対試すなよ!」
そんな私の気持ちを知ってか、ノアは更に念押ししてきた。




