19:paralyze
今日はダライアス様のお屋敷で、シェリーさんに『hybrid』の魔法について最終チェックを受けていた。
以前のように、大きめな机を取り囲んで、私とノアとシェリーさんは立っていた。
「うん。2人とも、とっても上手に出来るようになったわね。私より上手になったんじゃないかしら?」
シェリーさんが、優しく笑いながら言葉を続ける。
「ラズ。ありがとう。バイカラーの宝石を寄付してくれたおかげで、みんなイメージがしやすくなったわ」
「いえいえ。お役に立てて良かったです」
私は慌てて手を上げて、横にパタパタ振る。
そして役目を終えた手を下げた。
『ガンッ!』
痛っ!!
私は地味に手の小指を机にぶつけた。
めちゃくちゃ痛い。
「……大丈夫か?」
ノアが呆れながら私に近付いて、ぶつけた手をすくいあげて具合を見てくれようとした。
ちなみに私がドジして負った怪我は、魂の契約魔法の範囲に入らないらしく、ノアが肩代わりすることは無かった。
「…………」
私とノアが無言で見つめ合う。
「!!」
「わわっ!」
ノアが目に涙を溜めている私に気付き、急いで私をかき抱いた。
私はノアの胸に顔を押し付けられた。
一瞬の静寂のあとに、シェリーさんの呪文が聞こえた。
「…………〝paralyze〟」
「うわっ!」
「きゃ!」
私とノアが立っていられなくなって、崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
『paralyze』
麻痺の魔法だ。
ノアが苦しそうにしながらも腕を上げてシェリーさんの方へ向ける。
「〝blake!〟」
そして打ち消しの魔法を唱えた。
「フフッ。〝paralyze〟」
シェリーさんはニッコリ笑いながら、すぐに麻痺の魔法をかけた。
ダライアス様の7番目のお弟子さんなだけあって、魔法の実力はノアより上だ。
このまま魔法のかけ合いをすると、シェリーさんが必ず勝つだろう。
「可愛いラズ。私の物にしてあげる」
虚ろなトロンとした目で、シェリーさんが両手を広げて近付いてくる。
絶賛魅了魔法にかかり中だ。
涙が出た時に、ノアが急いで胸の中に隠してくれたけど、無駄だったらしい。
「チッ……ラズ、俺の寮の部屋の鍵持ってるか?」
麻痺の魔法の中、なんとか座り込んでシェリーさんを見据えているノアが、私に言った。
「うん。持ってるよ」
ペタンと座り込んでしまい、両手を床についてなんとか体を支えている私は、頑張って顔を上げて答えた。
「よし。今からその鍵にかけてる魔法を発動させる。数分はもつから、寮の部屋に逃げろ。俺の寮の部屋はまだあるから」
ノアが口早に説明してくれた。
「何の話をしてるのかしら? ……〝silen……」
「〝release!〟」
シェリーさんが呪文を唱えきる前に、ノアが叫んだ。
私のポケットの中の鍵が青く光りだし、私の体を包んだ。
複雑な複合魔法だ。
プロテクト系の魔法が私にかかる。
他にも何か魔法がかかってるが、すぐには分からない。
考え事をしているよりも、今は逃げなくては!
私は麻痺の魔法が解けたので、素早く立ち上がり、部屋から逃げ出した。
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「ハァハァ……」
私はノアの部屋に駆け込んだ。
全力で走ったので疲れてしまい、思わず壁にもたれかかる。
扉が閉まると、部屋全体にもプロテクト系の魔法がかかったのを感じた。
おそらく、鍵に埋め込まれている魔石が作動したのだろう。
所持者が部屋に入ると、発動するように魔法をかけていたのだ。
……すっごい魔法だな……
私は荒い息をしながら、ズルズルとしゃがみ込んだ。
しばらくして落ち着くと、部屋を見渡した。
久しぶりに入るノアの部屋は荷物が減っており、生活感を前よりは感じなくなった。
ブランジェ家の自室にうつしているのだろう。
前の時みたいに、ひとまずベットの上に座らせてもらった。
「うぅ……指が痛くて泣いてしまった……」
私は自分の失態を思い出して、ノアに申し訳なく思った。
そして怖かった。
魔法上級者の攻撃を初めて受けたからだ。
ノアは、こうゆうことを見越して対策を立ててくれていた。
それが無かったら、今頃助かっていなかっただろう。
護衛魔導師になる前から、いろいろ考えてくれてたんだ……
私は、青い小さい魔石が埋め込まれている部屋の鍵を取り出して、見つめた。
これを貰ったのは、ノアが護衛魔導師になる前だ。
てっきり鍵を複製するのに使った魔石だと思っていたけど、私を守る魔法がかかっていたんだ。
「これ、どんな魔法で作ったんだろう?」
私は鍵を上に掲げて見上げた。
1つだけ分かったことは、私の護衛魔導師はとっても優秀なことだった。
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『カチャリ』
部屋の扉の鍵が回る音がした。
ノアが帰ってきたんだろうけど、私は念のために身構えた。
「もう大丈夫だぞ」
ちょっとお疲れ気味のノアが、部屋に入ってきた。
「あ、今日は起きてる」
そんなノアは、私を見ながら揶揄うように少し苦笑した。
「ノアは大丈夫だった?」
「なんとかね。……もっとそっちに座って」
ノアがベットの端の方を指差した。
私は素直に従って座っている位置を変えた。
すると隣にノアが座った。
とても疲れているのか瞼が少し下がっている。
「……守ってくれてありがとう」
「うん……守れて良かった……」
ノアがそう言いながら目を閉じた。
「ちょっと寝る……」
すると勝手に私の膝を枕にして横たわった。
魔法、たくさん使ったもんね。
私はすでに寝息をたて出したノアの顔を見つめた。
眠っているとまだまだあどけない少年の顔だ。
「ありがとう。本当はノアが護衛魔導師になってくれて、とっても嬉しいんだよ」
私は眠っているノアに向けて感謝の言葉を贈った。




