18:宝石
「ラズベリーお嬢様、今日はお出掛けですか?」
メイドのミリーが、私の着替えを手伝ってくれながらそう言った。
「そうなの。ブランジェ家に懇意にしてくれてる宝石店に、ノアと行きますわ」
私は鏡越しにミリーに笑いかけた。
「……もう結婚の準備ですか?」
「!! いやいや、鉱物の勉強に行くだけですから!」
私はビックリしすぎて、思わず素の喋り方をしてしまった。
ミリーは楽しそうに笑っている。
「でも折角ですから、可愛くしましょう」
そう言って、ミリーは気合いを入れて支度をしてくれた。
「ごめん! お待たせ」
支度に少し時間がかかった私は、慌てて玄関ホールへ行った。
そこにはもう準備が出来ていたノアが、私を待ってくれていた。
私はノアの前に立つと、彼を見上げた。
「行こっか」
「……あぁ」
護衛魔導師のノアが私をエスコートして歩きだし、門の外に手配している馬車へ向かった。
「今日はすごく令嬢っぽいな」
ノアが少し不機嫌な顔でそっぽをむいた。
「フフッ。ありがとう。これでカッコいいノアと並んでも、貴族に見えるかな?」
私は笑いながら言った。
馬車の前についたので、従者が扉を開けてくれた。
私が先に乗り込むのでノアが手を差し出してくれる。
そうして私とノアが馬車に乗り込むと、目的の宝石店へ向かって馬車がゆっくり動き出した。
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「これはこれは、ラズベリーお嬢様。よく来て下さいました」
宝石店に着くと、物腰柔らかな初老の男性が出迎えてくれた。
宝石店のオーナーだ。
「頼んでいたものを見せてくださる?」
私がそう言うと、店の奥の工房まで案内してくれた。
そこでは職人さんたちが、宝石を研磨していたり、銀細工を作っていたりして、店頭に並ぶアクセサリーを製作していた。
「こちらでございます」
その中の一角に、バイカラーの宝石の原石が数個置かれているのが目に入った。
オーナーがあらかじめ用意して、並べてくれていたのだ。
「綺麗! わたくしが求めていたものですわね。ありがとう」
私はオーナーにお礼を言った。
「これが私が言ってたバイカラーの宝石。色があまり混じらずに分かれてるでしょ?」
私は緑と赤のバイカラートルマリンの原石を手に取ってノアに渡した。
「なるほど。ラズが言ってたように実際見た方がイメージしやすいな」
ノアはそう言いながら、まじまじと眺めている。
すでにカッティングされたバイカラーの宝石も数点並べられており、どれも美しかった。
私はオーナーの方を向いた。
「ここにあるバイカラーの宝石、全部くださる?」
「かしこまりました」
オーナーが深々と礼をした。
「さすが、ブランジェ家の令嬢だな」
私の横でギョッと驚いているノアが、思わずといった感じでそう言った。
「普段はこんなに散財しないわよ」
私はクスクス笑いながら言葉を続けた。
「ダライアス様のお屋敷に持っていって、魔石生成のための参考にしてもらおうよ」
私はシェリーさんとの約束を思い出しながら笑った。
「そうだ、折角だから宝石のカットについて教えてもらおっか」
私はオーナーさんにお願いして、宝石のカットの種類を教えてもらい、職人さんが実際に加工している姿を見せてもらったりした。
それから、場所を店内にうつし、カットについて引き続き教えてもらっていた。
「こちらが実際のトリリアントカットになります」
オーナーが、三角形のような形にカットされた美しいアクアマリンの商品を示しながら説明してくれた。
その時、工房から出てきた店員さんが、オーナーに何やら耳打ちをしていた。
「……ラズベリーお嬢様。本日ご購入された商品の準備が出来たようなので、取ってまいります。こちらでお待ち下さい」
オーナーがそう言って礼をし、奥の工房へと去っていった。
「ラズは宝石好きなのか?」
待ってる間、ノアが何気なく聞いてきた。
「そうだね。いちじきハマってた時があって」
私は前世の時の自分を思い出しながら喋った。
前世では宝石を身につけるのではなく、見るのが好きだった。
なんとなくだけど覚えている。
「どの宝石が好きなんだ?」
「うーん、しいて言うならガーネットかなぁ?」
私は1月の誕生石であるガーネットを思い浮かべていた。
前世の私の誕生石だ。
「赤い宝石でね。ちょうどノアの瞳みたいな色かな」
私が笑いながらそう言うと、ノアが真っ赤になって何故か腕で口元を隠した。
「!!」
私も気付いて真っ赤になる。
ノアの瞳と似ているから、ガーネットが好きだみたいな説明になってしまった。
誕生石とかこの世界では概念がないし、そもそもラズベリーは1月生まれでもない。
「俺もラズの瞳は、宝石みたいに綺麗だなって思ってるぞ」
真っ赤になって、そっぽを向いたままノアがそう言ってくれた。
「フフフッ」
「ーーーーっ。そこで笑う? ラズみたいに上手く言えない」
「え? 私も上手く言おうとしている訳じゃないよ。あははっ」
なんか、一生懸命に自分の想いを伝えてきてくれるノアが可愛く感じて、微笑ましくて笑ってしまった。
しばらく、ジト目の照れたノアに見つめられて、私はクスクス笑っていた。
帰りの馬車の中、隣に座るノアが自分の手のひらを見つめていた。
私はその様子が気になって声をかけた。
「どうしたの?」
「次の魔石合成は上手く出来そうな気がする!」
バイカラーの宝石を見てイメージを掴んだノアは、魔石を掛け合わせてみたくてウズウズしていそうだった。
「じゃぁ今からダライアス様の屋敷行く? ちょうどバイカラーの宝石も届けられるし」
「行きたい」
私たちはニッと笑いあった。
2人とも魔法に関しては目がなかった。
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その日のダライアス様の屋敷での『hybrid』は大成功し、ノアは綺麗な色が分かれた魔石を作り出すことが出来た。
私とノアが、イエーイ!と喜んでいると、ダライアス様に呼び出されてしまった。
「魔法を上達させたい気持ちは分かるんじゃがの。デート中に来るんじゃなく、もう少し落ち着いた普段の格好で来てくれんかのぉ?」
ダライアス様はそう言って苦笑した。
私たちは宝石店に行った帰りにそのまま来たので、令嬢と護衛魔導師の煌びやかな格好のままだったのだ。
「……すみません。魔法に夢中で忘れてました」
私は赤面しながらダライアス様に謝った。




