16:告白
ダライアス様の屋敷からの帰り道、私とノアは隣あって馬車に座っていた。
向かい側にも席はあるのだけど、ノアが馬車に慣れてなくてそちらに乗ると酔いやすかった。
それで、進行方向と同じ側に座りたいよねってことで押し問答のすえ、隣り合うことで結局落ち着いたからだ。
ノアは窓際で頬杖をついて外の景色を眺めていた。
「ノア……あのね」
私は意を決して口を開いた。
呼びかけに反応してくれたノアが私の方に振り向く。
「人攫いに襲われた時に、私がヘマをして怪我しちゃってごめんね。そのせいでノアが責任とることになっちゃって……ずっと謝りたかったの」
私は目を伏せながら言った。
「護衛してくれてありがとう、なんだけど……その、嫌だったらきちんと言ってね」
伝えたかったことを言い終わると、恐る恐るノアを見上げた。
ノアは眉をひそめ、少しだけ切なそうな表情をしていた。
「ラズは、俺が護衛するの迷惑?」
「違う!……ノアが必死で、無理をしてそうで……魔法を使うのも楽しくなさそうだし」
私は再び目を伏せてノアから目を逸らした。
すると、ノアの方にある私の手をそっとすくい取られ、優しく握られた。
「ラズが怪我して倒れてるのを、助けた起こしたの俺なんだ。その時、頭から血を流して意識が無いぐったりしたラズを見て、死んだかと思った」
私はそう言われてノアをまた見上げた。
ノアの表情が、あの日の馬車の中で見た泣き顔と重なる。
「すごく心が冷えたんだ。それでその時、分かったんだ……俺、ラズが好きだ!」
ノアが顔を真っ赤にさせながら叫んだ。
「!!」
突然の告白に、私もノアに負けないくらい顔を赤くした。
「守りたいんだ。守らせて欲しい……ラズのお母さんに『弱いあなたが何を守るっていうの?』って言われて本当だなって思った。ラズが怪我した時に、魔法が使えないと何も出来ないって分かった。……だから護衛魔導師として今度こそ強くなって魔法でラズを守りたい」
ノアは赤くなりながらも、真っ直ぐ想いを伝えてくれた。
繋いでいる手もギュッと力強く握られる。
「…………ひゃい」
いきなりなことすぎて、思わず噛みながら私は返事をした。
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ブランジェ家の一室で、私は専属メイドのミリーにお風呂上がりのお手入れをしてもらっていた。
「ラズベリーお嬢様?」
心配そうに眉を下げているミリーが私の顔をのぞきこんだ。
「……あ、何かしら?」
ぼんやりしていた私は慌てて返事をする。
ノアからの衝撃的な告白をされたあと、ブランジェ家に帰ってくるまでどうやって過ごしたか記憶があやふやだ。
「なんだかお加減がよろしくないようですが、大丈夫でしょうか?」
ミリーが眉を下げたまま、私をうかがうように見つめている。
私の様子がいつもと違うので、とても心配をかけているようだ。
「大丈夫ですわ。少しビックリすることがあって、そのことについて、つい考えてしまうの」
私は頬を染めて目を伏せた。
「あらあら」
ミリーが私の様子を見てフフフッと笑っている。
私より7歳年上のミリーには、何関係でぼんやりしているのか丸わかりのようだ。
ミリーの反応にさらに赤くなりながらも、笑っている彼女を見た。
「……ハッキリ好意を伝えられたのだけれど、どうしたらいいのかしら?」
もう、悩んでいることを素直に吐き出してみた。
「お嬢様は相手の方をどう思っているのでしょうか?」
「……親愛の感情は抱いているわ」
「じゃぁ私がお嬢様の立場でしたら、素直に守られておくと思います」
ミリーが優しく笑った。
発言的に相手までバレバレのようだ。
「ラズベリーお嬢様。いいですか、あなたは一歩間違えれば乱暴されて傷物のご令嬢になる所でした。見えにくい髪の中ですが、怪我の傷跡も残っております。将来、良縁を求められているご令嬢としては痛手となりえます」
ミリーが少し怖い顔をして言う。
「原因となった彼が、一般市民であれば処刑されてもおかしくございません。お嬢様がそれをお救いになった。普通の人なら命を捧げても、与えられた役目を全うしようと思うことでしょう」
「…………」
私は呆然としながらミリーの話を聞いていた。
そうか。
そうゆう考え方になるのか……
普段、令嬢らしくない暮らしをしているからか、この世界の人の感覚を忘れていた。
「まぁ彼は命を捧げて守るどころか、これから地位を確立して大聖者に絶対なってみせるから、お嬢様と添い遂げさせて下さい。とまでエドワード様とアイリーン様に交渉していたようですが……」
ミリーがクスクス笑う。
え、まって。
その話、ブランジェ家の従者たちには有名なの?
知れ渡っているの?
めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。
私は顔を真っ赤にして眉を下げ、困った表情をミリーに向けた。
「あら、知らなかったんですか? それは失礼しました。……だから、お嬢様は待っておけばいいんじゃないでしょうか?」
ミリーが、私の髪を優しくブラシでときだした。
お手入れのお世話を再開してくれたようだ。
「…………」
私は大人しくミリーのお世話を受けるしかなかった。
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その日の夜は、いろいろモンモンと考えてしまい、なかなか寝付けなかった。
思ってもみなかった愛情を向けられている喜びと戸惑い、自分はどうしたらいいかの不安。
うんうん唸りながらも寝て、翌朝目が覚めると違う考え方が出来た。
「いやいや、13歳にして決め過ぎじゃない?」
私は起き上がったベットの上で、思わず独り言を呟いた。
13歳なんてまだまだ子供。
そのうち心変わりするかもしれない。
それこそゲームのように聖女があらわれたら、その子を好きになるかもしれない。
…………
よし、ミリーが言うように現状維持だね。
魂の契約魔法も16歳までだし。
「夜に考え事しすぎるのはダメだってよく言うけど、本当だねー」
私はまた独り言をいってから、いそいそと起きた。
将来有望なノアなんだから、私が枷になるのではなく、彼らしく成長して欲しい。
私の中でノアはまだ可愛い弟的な存在だった。




