14:魂の契約魔法
次に目が覚めると、ブランジェ家の自室だった。
頭がズキズキ痛い。
外は暗くなっており、月明かりが室内を照らす。
私はゆるゆると起き上がって、手鏡を取り出し覗き込んだ。
頭には包帯が巻かれていた。
他の場所も確認するが、少し打ち身があるくらいで体を無事に動かせそうだった。
ほっと安心している時、突然禍々しい魔力の気配を感じた。
「!? ……何?」
私はベッドを降りてルームシューズをはき、魔力の出所を探しに部屋を出た。
「この部屋からだ……」
私はお母様の部屋の前に立っていた。
中は何やら騒がしかった。
「…………」
少し戸惑ったが、意を決して私は扉を開けて中に入った。
「!?」
部屋の中には床に倒れて意識を失ってるノアと、いつもと様子が違うお母様がいた。
「あら、ラズベリー。起きたのね。痛々しい姿で可哀想に」
お母様が近付いてきて、私をギュッと抱きしめた。
「……お母様、その姿は……」
私はビックリしすぎて固まったままお母様を見る。
お母様は若返っており、黒髪ストレートの髪にピンクの瞳になっていた。
けれど白目の部分は黒い。
頭には小さいツノも見えるし、口を開くとキバのような歯も見えた。
これって……
「ラズベリー、ごめんなさいね。私はサキュバスなの。昔は魔王様の四天王の1人だったわ」
禍々しい魔力に妖艶なオーラを振りまく、いつものお母様のドレスを着た美しいサキュバスがニヤリと笑った。
!!!!
シンドーさん!
出すゲーム間違えてません!?
私の頭の中がツッコミで騒がしくなった。
「ってことは、私はサキュバス?」
私は目を見開いてお母様を見た。
「……昔ね、サキュバスだった私はエドワード1人を愛してしまった。それで魔物だった私は、エドワードと一緒に生きていくために魂の契約魔法を自分にかけたの。だから普段は人間として生きてるの。……人とサキュバスのハーフっていうよりラズベリーはクォーターかしら?? エドワードは何も知らないから秘密にしてね」
サキュバスお母様が可愛らしく小首をかしげる。
いちいち妖艶だ。
私はちょっぴり魔物だったのね。
……なんかショック。
けど魅了魔法が使えることにすごく納得しました……
「魂の契約魔法って何??」
私は次に気になることを聞いてみた。
「上級魔物の一部が使える魔法。ようは対価を払えば何でもありよ。私はエドワードと共に、人間として老いながら一生を終える代わりに、エドワードの近くから離れられないわ」
サキュバスお母様が、嬉しそうにニコニコ笑いながら言った。
……お父様をそんなに深く愛しているんだ。
私はサキュバスお母様の笑顔から、一種の女の覚悟みたいなものを感じ取った。
うーん、お父様のそばを離れられないなら、万が一私が断罪されるって時に助けに来てもらえないんだね……
せっかく国を滅ぼしそうなくらい強そうなのに……
私は怖いことを考えていた。
自分の瞳がかかってるんだもん。
「……うぅ……」
その時、倒れていたノアが目を覚まし、両手を床について上半身だけ起き上がった。
「!! ノア、大丈夫??」
私は駆け寄ってしゃがみ込み、ノアの肩をそっと触る。
「お母様、何をしたの?」
「何って、大事なラズベリーを危険な目に合わせたその子とお話してただけよ。そしたら責任とってラズベリーのそばで、護衛魔導師になって一生守るとかふざけたこと言うから、つい吹き飛ばしちゃった」
そう言いながら、サキュバスお母様は自分の頬に手を添えてアハッと笑った。
いちいち妖艶だ。
「ラズベリーに守られたくせに。おかげで可愛いラズベリーはケガをしたじゃない。弱いあなたが何を守るっていうの? いっそこの魂と一緒に魔王様に献上しようかしら?」
笑顔で怒りの黒いオーラをまき散らかしだしたお母様は、手の平に3つの薄青い光の玉を浮かべた。
3つ……魂……
私の頭の中に、私を襲ってきた3人の男が浮かんだが、その人たちの魂なのかは怖くて聞けなかった。
「ノアは殺さないで……」
私は弱々しく呟きながら、ノアに手出しされないように横からギュッと抱きしめる。
ノアはまだ意識がハッキリしないのか、片手で頭を押さえてぼんやりしていた。
どうしよう?
このままじゃノアが殺される!
私は怖すぎて、目に涙を浮かべた。
「ラズ……ケガは?」
その時、ノアが私に向かって喋りかけてきた。
私はハッとしてノアの方を見る。
「大丈夫だよ」
私は思わず笑って答えた。
目に溜まっていた涙がポロポロこぼれる。
「痛むの?」
ノアが優しく涙を指で拭ってくれた。
「ちょっとね。けど今まで忘れてた」
お母様の正体が衝撃すぎて、痛みなんか忘れてた。
心の中でそう付け足しながら、サキュバスお母様の様子を見た。
「……魅了魔法が効いてない……」
サキュバスお母様は腕を組むようにして自分を抱きしめ、何か考えこんでいた。
3つの魂はその間、フワフワとそこら辺を漂っている。
そしてしばらくすると、お母様は顔をあげて口を開いた。
「分かったわ。その子をラズベリーの護衛にしましょう。その代わり魂の契約魔法をかけさせてもらうわ」
サキュバスお母様は、そう言って3つの魂をまた自分の手の平の上に集めた。
すると、手の中に魂が吸い込まれるようにして消えていった。
自分の中に取り込んだようだった。
ひぃぃ!
禍々しい魔力がパワーアップした!
そして何やら呪文を唱え出した。
サキュバスお母様のピンクの瞳が怪しく光りだす。
「魂の契約魔法!? そばを離れなくなるの!?」
私は叫ぶように聞いた。
「そうね。ラズベリーが16歳になるまでの期限付きだけどね。デビュタントの時期になると、素敵な人が見つかってその人に守ってもらうようになるかもしれないから」
サキュバスお母様がニッコリ笑った。
その時、契約魔法がかかりだしたのか、私とノアの体が黒い光に包まれる。
そして心臓部分に熱いチクっとした痛みを感じた。
魂に楔を刺してるかのようだった。
けれどそんな中、私の心の中は荒れていた。
何だって!?
本当にそばを離れなくなるの?
どのくらいの距離、猶予があるんだろう……
部屋とかお風呂とかどーなるの?
ノアが友達と遊びたい時とかどーするの!?
そんな思春期真っ只中の時期を、四六時中同じ人と過ごすなんて、健全な心が育たないじゃないか!!
私は姉心が炸裂した。
自分のピンクの瞳が熱を帯びた気がした。
契約魔法をかけおわると、お母様の姿が人間に戻った。
「……魔法は完了したけど、ラズベリー、邪魔したわね」
いつものお母様が、呆れた目つきで私を見ていた。
「ハンケイゴキロ……何のことかしら? まぁおおむね上手くいったからいいわ」
そう言いながらお母様はノアに近付いてきた。
「あなたがラズベリーの護衛になること、了承するわ。そして、あなたはラズベリーが16歳になるまでそばを離れられない。その代わりラズベリーが誰かから怪我を負えば、あなたが代わりに怪我を。もし死ぬようなことがあれば、あなたが代わりに死ぬ」
「え? 重い。先にそっちの条件を教えて欲しかったな」
横から私が思ったことをポロッと言う。
「……」
お母様がまた呆れた目つきで見てきた。
そして私の方に向き直った。
「ラズベリーもせっかくの魅了魔法を、自分が危険な目にあうことに使っちゃダメよ。ほらもっと社交界に出て、いい男の3、4人は捕まえなきゃ。私があなたぐらいの時は、もうバリバリのサキュバスでいい男を取っ替え引っ替えだったわよ」
お母様がそう言ってウフフと笑った。
「私はベース人間だから、比べられても……」
私は思わず呟いた。




