11:blaze
最近迷惑をかけているノアに「何かしてほしいことはない?」と聞いたら「強い魔石を作って欲しい」と言われた。
なので今日は、ノアとよく勉強をしてるあの部屋で、魔石作りに1人勤む。
ノアといったら真っ赤な髪に赤い瞳だから、やっぱり炎だよね。
なんて安易なことを思いながら、炎の魔石を作ることをまず考えた。
「そういえば、魔石を生成する時の強化する呪文があるよね……」
私はブツブツ呟きながら、魔法に関する書物をめくった。
強化する呪文一覧を何気なく眺めているとある単語が目に入った。
「……〝月が綺麗ですね〟」
なぜかこれだけ愛の言葉だ。
元日本人の私にしか分からないだろうが、シンドー味を感じる……
そうだ、シンドーさんならなんて設定するかな……
「やっぱあれしかないかな」
思い当たる言葉が一つだけあった。
私はさっそく試してみようと、部屋のすみにある暖炉に火をつけた。
蝋燭よりも威力がある火から魔石を生成したかったからだ。
気分的にね。
しばらくするとパチパチと木が爆ぜる音がしだし、火が勢いよく広がり上へ上へと伸び出した。
私はその炎に両手をかざす。
イメージするんだ。
轟々と燃える灼熱の炎を。
全てを焼き尽くす力強さを。
「〝examine〟」
私が静かに唱えると炎の周りを光の粒子が舞い上がり、渦を巻きながら私の両手の下に集まり出す。
心無しか光が熱い気がした。
「〝generate〟」
そっと両手を光の球の下にそえる。
「〝Can't Take My ーーーーーー〟」
そして唱えた。
〝君のひとみに恋してる〟と。
まばゆい光が部屋に溢れた。
目が開けていられないほどの強い光だ。
思わず目をつむった私が、恐る恐る目を開けると、手のひらにはピジョンブラッドルビーのような真紅の魔石が出来ていた。
美しいブリリアントカットで、今までに作った魔石の中で1番の輝きをしていた。
「!!!! ノアー!!!!」
自分でもビックリした私は、出来たばかりの魔石を握りしめて部屋を飛び出した。
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「ノア!」
やっと見つけたノアは、図書室と呼ばれている魔法に関する書物が保管されている広い部屋の中にいた。
5番目のお弟子さんであるローランドさんと調べ物をしていたようだ。
私が何やら慌てている様子を見て、ノアは作業を切り上げて部屋の外に出てきてくれた。
私は静かにしなきゃいけない図書室で落ち着いて話せる気分ではなかったので、廊下で待っていたのだった。
「どうした?」
ノアが図書室の扉をしめて、廊下にいる私と向き合って立った。
「これ!」
私は両手をお皿みたいにして魔石を差し出した。
「!!」
ノアもひと目見て、すごい魔石が出来たことが分かったため、目を見開いて驚いた。
「どうやって作ったんだ?」
「炎から魔石を作って、強化の呪文を……」
「強化の呪文はなんだ?」
「〝君のひとみに恋してる〟」
「!!!!」
途端にノアが顔を真っ赤にした。
なぜか腕で口元を隠している。
ノアのための魔石を生成してる時に、私が〝君のひとみに恋してる〟と強化魔法をかけたので、ノアに贈った言葉と受け止められたのだ。
ノアからしてみれば唐突な告白だ。
「!! 違う違う! 強化魔法の一覧に〝月が綺麗ですね〟ってあって、それが実は愛の言葉だから……!!」
私もテンパって顔を真っ赤にさせながら早口でしゃべった。
ダメだ。
言えば言うほど墓穴を掘っているような気がする!!
強化魔法の呪文がゲームのタイトルだなんて説明出来ないから、私は赤い顔のまま固まるしかなかった。
「いいかげん、うるさいぞ!」
その時、図書室の中からローランドさんが出てきて騒がしい私たちを注意した。
「……どうした?」
けれど、様子のおかしい私たちにローランドさんは首をかしげた。
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ローランドさんが来たことで、さっきの会話がうやむやになった私たちは、この魔石を使ってみようという話しになった。
いつもの、魔法を試し撃ちしている庭園に移動する。
今回はローランドさんにもついてきてもらった。
おそらく強力な炎が出るので、水の魔法で消化してもらうためだった。
「ノアのために作ったから、ノアが魔法をかけてみてよ」
私はまだ少し照れていたので、ノアを見ずに魔石を差し出した。
あー、顔が熱い。
「……」
ノアもそっぽを向いたまま魔石を受け取る。
「いいかー! 魔力の出力を少しに絞るんだぞ!」
遠くでスタンバっているローランドさんがノアに向けて叫んだ。
「分かったよ!」
ノアも叫びながら腕輪に例の魔石をセットした。
「あ、呪文は『blaze』でお願いします」
私は相変わらず目線をそらしたままノアにそう言った。
「……分かった」
ノアも私の方を向かないまま片手をローランドさんの方にかかげる。
そして空に向かうように少し上へ傾けた。
「〝blaze〟」
ノアが威力を抑えるためか、ささやくように魔法を唱えた。
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「いいかノア、この魔石はいざと言う時しか使うんじゃないぞ」
ちょっとローブが焦げているローランドさんが怖い顔をしてノアに詰め寄った。
「フォッフォッフォッ。もう少しで屋敷が火事になるとこじゃったわい」
突然の騒ぎにダライアス様も部屋から庭園に飛び出てきてくれていた。
ノアの出した炎の魔法の威力が凄まじくて、ローランドさんの水魔法だけでは対抗することが出来なかった。
上に向けて魔法を放ったので空に炎の膜ができ、呆然としている私たちに火の粉が降り注いで来た。
その時、ダライアス様が強力な保護の魔法で私たちをまず守ってくれてから、氷の魔法で炎の魔法を包み込み消し去った。
「その魔石はラズが作ったのかのぉ?」
ダライアス様が髭を撫でながら私を優しく見つめた。
良かった。
怒ってはなさそうだ。
「はい。そうです。強力な炎の魔法を作ろうと思って」
私はダイアラス様に向き直って答えた。
「……強化して作られた魔石に見えるんじゃが……強化の呪文は何かのぉ?」
ダライアス様が首をかしげる。
「……黙秘します……」
私は顔を赤くして半笑いで答えた。
ダライアス様。
その話題を掘り返さないで下さい。
せっかく極めて強い呪文を発見したのに、言葉の意味がアレなのでみんなに言えなくなってしまった。




