1:プロローグ
※1話には『お目めが痛い痛いになる』のきつい表現が出て来ます。
苦手な方は注意して下さい。
夢を見ていた。
長い長い夢を。
私は暗闇の中、1人で佇んでいる小さな女の子を見ていた。
夢の中なので私の実体は無く、意識だけがその女の子のそばに存在していた。
とても綺麗な女の子は泣いていた。
零れ落ちそうなぐらい大きなピンクサファイアの瞳から止めどなく涙が溢れている。
女の子の回りには慰めてくれる沢山の人が現れ出した。
女の子の両親、メイド、執事、老若男女、多種多様……みんな女の子の豊かで美しい黒髪を優しく撫でながらあやしている。
それでも女の子は泣き止まない。
少しずつ女の子が成長していくと、女の子の回りにはもっともっと沢山の人が集まった。
けれどだんだんと男の人が多くなり、美しい少女に成長すると同い年ぐらいの男の子数人が取り囲んだ。
そのうち、金髪碧眼のとても美しい少年が現れた。
彼も少女を慰め出した。
美しい少女は少し泣き止んで、少年の手を取って歩き出した。
すると辺りが光に包まれ、白い空間に反転した。
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場面がかわり、美しい黒髪の女性が兵士に押さえつけられていた。
金髪碧眼の男性の隣には、儚げな女性が寄り添っている。
金髪碧眼の男性はとても怒っていた。
忌々しげな目線で黒髪の女性を見る。
黒髪の女性はピンクの瞳から大粒の涙をこぼしていた。
「お前は魔物だ」
金髪碧眼の男性の低い声がハッキリ聞こえた。
音がない夢の中、その声だけが妙にそばで聞こえ私の鼓動は早まった。
黒髪の女性は兵士たちに無理やり膝立ちにさせられ、上を向かされた。
顔を固定され
そして……
ーーーー
ピンクの目玉を抉られた。
「!!!!!!」
夢を見ていた私は飛び起きた。
思わず自分の目のあたりを手で覆う。
心臓は痛いぐらい早く鼓動しており、嫌な汗で夜着が濡れていた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
口で息をして少し落ち着くと、ベッドサイドの机から手鏡を取り出した。
鏡を覗くと顔面蒼白のピンクの目をした女の子がいた。
……あれは……未来の私だ!!
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私はラズベリー・ブランジェ。
12歳の超絶可愛い侯爵家の一人娘だ。
ウェーブがかった黒髪に大きなピンクの瞳。
お人形みたいな女の子。
両親に溺愛され甘やかされ、とってもワガママに育っていた。
何でも自分の思い通りにしたいと思ってて、出来なくなるとすぐに泣いて人に助けてもらう。
そんなどうしようもない性格が形成されていた。
けれどあの怖い夢を見て前世の記憶を思い出した。
私の前世は普通の日本人の女性だった。
普通に恋愛し、普通に好きな人と結ばれて、幸せな生活を送っていた記憶が薄っすらとだけある。
そしていきなりブチんと記憶が途切れているので何かがあったのだろう……
そこらへんは特にモヤがかかったように分からなくなっていた。
でも今は前世のことなんか深く考えていられない。
だって、乙女ゲーム『君のひとみに恋してる★』の世界の中の悪役令嬢ラズベリー・ブランジェに転生してしまったからだ!
『君のひとみに恋してる★』は、基本的に王道のストーリーなのだが、ちょっとした所でなんか変な要素が盛り込まれたゲームだった。
徹夜してアイデア出し合いました!?という感じの適当な設定がたまに出てくる。
悪役令嬢ラズベリーの最後もいきなり目玉を抉ると言った他にはあまり見ない結末なのでユーザーに非常に不評だった。
ストーリーは王道と言ったとおり、ある日突然聖女の力に目覚めたヒロインが王宮で暮らすことになり、王子を含めたイケメンの攻略対象者たちと恋愛模様を繰り広げる。
そこに悪役令嬢として現れるのが、王子の婚約者であるラズベリーだ。
目を常にウルウルさせて、ぶりっ子キャラ系悪役令嬢だった。
そのためかリボンがいっぱいついたピンクのドレスを着ており、それがめちゃくちゃダサかったのを覚えている。
え?
将来、私はあれを着るの?
…………
そして悪役令嬢ラズベリーがヒロインに嫌がらせをし、それがエスカレートしていき最後は断罪されるというありふれたオチだった。
なのに、最後は目玉が抉られる……
ゲームをしていた時は直接的なスチルがあったわけじゃないけど、いきなりグロくなった衝撃で疑問に思わなかった。
けど何で処刑や修道院送りじゃないんだろう……
そして私はこのまま抉られてしまうの!?
ダメだ。
目玉が抉られるとか衝撃すぎるから、もっとマイルドな表現にしよう。
……目を取られる?失う?
うん。目が無くなるにしよう……
マイルドにしても、やっぱり怖い……
「……なんでラズベリーに転生するのよ!! どうせならヒロインが良かったー!!」
私はラズベリーの部屋で1人、結末の怖さにちょっぴり泣いた。
泣き虫な所だけがゲームのラズベリーとの唯一の共通点だった。




