少子化対策の費用はシンプルな方法で捻出できます
“金は天下の回りもの”などと言いますが、お金というのは循環しているものです。これはほぼ自明ですよね? あなたがお金を使ったら、それは生産者(労働者)の収入となり、生産者(労働者)がまたお金を使えば、それがあなたの収入となって返って来る。だからこそ、人々がお金を使えば使うほどお金(以降、通貨と表記)の循環量が増えて、好景気になるのです。
そして、通貨というものは生産物(商品)の取引によって循環しています。これも当たり前に分かりますよね? お米をあなたが買ったとすると、通貨はお米農家の渡ります。お米がなければ、通貨の循環は成立しません。という事は、通貨の循環量を増やしたいと思ったのなら、生産物を増やす必要があるという事になります。例えば、農家がお米だけじゃなく、野菜も作り始めたなら、野菜についての通貨の循環量が増える事になります。
もちろん、これはGDP(国内総生産)が増える事を意味し、それは経済成長と同義です。
ですから、経済成長を達成したい思ったのなら、生産物を増やす必要があるのです。が、それは簡単にはいきません。仮に農家がお米を作るだけで手一杯で、野菜を作っている余裕がなかったのなら、野菜を新たに作り始める事なんて不可能です。ですから、その為には効率を上げ、少ない労働力でお米を作れるようにしなくてはなりません。例えば、全自動田植え機などが開発されて普及すれば、少ない人数でお米を作れるようになりますが、そのような事ですね。
これを“生産性の向上”と呼びます。
生産性が向上して、労働資源やその他資源が余ったのなら、その資源を活用して新たな生産物の生産が可能になります。
つまり、生産性の向上と新生産物の誕生こそが経済成長の本質だと言えます。
新たな生産物が誕生すると、その取引が増えます。先に“通貨の循環は生産物の取引で増える”と説明しましたが、だからこれは通貨需要が増える事を意味します。通貨需要が増えるのだから、通貨を増やさなくてはなりません。早い話が「経済成長に合わせて通貨を供給しなくてはならない」という話ですね。
この経済成長と共に供給される通貨は“成長通貨”と呼ばれ、今までも実施されています(国債発行…… 国の借金として行う方法も、直に増刷されるパターンもあるのですが、どちらでも大差はありません。経済成長すれば、それにより税収が増えるので、借金によって通貨を供給していたとしても直ぐに返済できるからです)。
これを応用すると、再生可能エネルギーの普及も行えるようになります。余っている労働資源を再生可能エネルギーの普及に用いれば良いからですね。もちろん、再生可能エネルギーに関する支出は増えるのですが、何度も説明して来た通り、通貨は循環しているので収入も増えるのであまり問題になりません。しかも日本の場合は化石エネルギーを輸入に頼っているので、それがなくなる分、支出以上に収入が増えます。
この考えは既存の経済理論とも矛盾しません。
GDPを求める計算式は、『消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)』ですが、再生可能エネルギーの普及をこれに当てはめると、投資が増え、輸入が減るのでGDPが増えると分かります。
時折、「再生可能エネルギーを普及させると支出が増える」などと文句を言っている人がいますが、マクロ経済とミクロ経済の違いを理解していないだけなので、信用しないでください。
さて。
以上を踏まえた上で、2023年6月現在盛んに議論されている『少子化対策の財源問題』について考えていきましょう。
知っての通り、日本は少子化が急速に進んでいて、対策待ったなしの状況下にあります(少子高齢化問題が指摘され始めたのは1970年代なのではっきり言って遅すぎです)。ただ、その為にはもちろん何らかの“資源”が必要になってきます。
これを読んで「必要なのは“通貨”なんじゃないの?」と疑問に思われた方もいるかもしれませんが(勘のいい方は今までの説明で理解していると思いますが)、“通貨を使う”事は結局は“資源”を使う事と同じなんです。だから、問題の本質を捉えるという意味でも、ここでは“資源”と表現しています。
少子化対策の為には、子育てに必要な資源を何処からか確保する必要がある訳ですが、これは実は極シンプルで当たり前の方法で捻出できます。
しかも、“誰も”犠牲にしません。
いえ、この表現だとちょっと語弊がありますね。正確には“経済的には誰も犠牲にしない”ですか。
ただし、小さな子供のいる家庭に通貨を支給するという形での支援は無理です。これは「子育て家庭以外の家庭で使われる資源を、子育て家庭に回す」という方法になる訳ですから、どうしたって誰かに犠牲なってもらうしかありません。
が、そのような対策ではなく「直接、労働資源を子育て支援の為に割く」という方法ならば、誰も犠牲にせずに少子化対策を行う事が可能なのです。
例えば、子供の世話や家事支援などを行う新サービスが考えられます。もちろん、その為には労働資源を余らせなくてはなりません。つまり、生産性を向上させれば良いのですね。実は、それは既に知られている方法で可能なのです。
学校教育で、オンライン授業やAIを活用すればかなりの生産性の向上になる事は既に知られています。これを利用すれば、教師の数を節約できます。教師の人口は約109万人。大雑把に4分の1減らせるとするのなら、約25万人も労働力が確保できるのです。
文部科学省はこういった先進技術の“教育現場”への活用に反対していますが、それは予算を減らされると危機感を覚えているからだそうです(参考文献:岩盤規制 誰が成長を阻むのか 原 英史 新潮社 182ページ辺りから)。
が、この場合は、余らせた教員を、子育て支援に回すので予算削減には繋がりません。これなら、文部科学省の反発を比較的低く抑えられるのではないでしょうか?
もちろん、“公務員”の生産性の向上の可能性は教師だけに限りません。自治体が誤って4630万円を誤振込してしまった事件で問題が露呈しましたが、公務員の業務は情報技術の活用が大きく遅れています。業務改革を行えば、かなりの労働力を節約できると考えられます。
(因みに、僕は昼間からソファで横になっている公務員が月に70万円以上も貰っている職場を見た事がありますし、公務員ではないのですが、それに近い組織で意味のない“あるだけ”の膨大な資料を作らせていた職場も知っています。また、これは話に聞いただけなのですが、仕事を民間企業に丸投げするだけの公務員達もいるのだとか。
つまり、公務員の“労働”は改革の余地がかなり残されているのです)
こういった公務員の生産性を向上させる試みは、新たな財源を必要としません(新技術の導入にコストはかかりますが、一時的なものです)。
つまり、誰も犠牲にせずに、少子化対策の為の資源を確保できます。
さて。
以上の方法を用いれば、国の借金を増やさず、しかも増税もしないで少子化対策の為の資源を捻出できます。がしかし、財政問題の改善はできません。
ですが、実は、上記の方法を少し変えて工夫するだけで財政問題の改善も可能です。
まず、先の方法では、効率化した結果余った公務員をそのまま少子化対策の為に雇い続けますが、そうではなく、公務員を解雇してしまいます。ただし、子育て支援事業を行う民間企業に再雇用します。
やっている事はほぼ同じですが、これで名目上は元公務員たちは国から離れます。そして、ここで子育て支援事業の為に特別増税を行います。
「え? 結局、増税かよ?」って思う人もいるかもしれませんが、安心してください。収入も増えますから。
先の“通貨の循環”に関する説明を思い出してください。“通貨”は循環しているのです。そして、こういった試みを行えば通貨の循環量が増えます。“子育て支援の為の労働”は、言い換えるのなら、“新生産物”です。子育て支援というサービスを新たに生み出しているからですね。通貨は取引によって循環量が増加をするのです。
更に付け加えると、その通貨の循環量が増えた分の一回目に関しては、増刷によって賄う事が可能です。これも説明しましたが、経済が成長しているので、“成長通貨”の発行が可能になるのです。そして当然税収が増えます。税収が増える上に、この方法の場合は公務員も減らしているので、税支出も減らせます。
当然、財政状況は良くなります。
2023年6月現在、日本の財政赤字は1千兆円を軽く超えています。時折、「国の借金と個人の借金はまったく違う」とこの状況を楽観的に捉える人がいます。確かに国の借金と個人の借金はまるで違っていますが、だからと言って問題にならないはずがありません。現在、国の借金…… 国債の約半分を日本銀行(政府の銀行)が引き受けていますが、その状況で金利が上昇すると日本銀行に凄まじい損失が出てしまうのです。
日本銀行の口座には金融機関がお金を預金していますが、これには金利が付きます。だから金利が上昇すると利子も増えてしまうのですが、国債金利は上昇しません。つまり、日銀の収入は増えません。支出は増えるのに収入は増えない。その差分がまるまる日銀の損失になってしまうのです。
もしこれを放置すれば、最悪、日銀は破綻するとすら言われています。国が増税するか、或いは年金資金を充てるなどすれば回避できますが、もちろん、それは国民の負担になってしまいます。だから、日銀は金利を上げられないのですが(上限を0.5%にまでは上げましたけど)、そうすると円安が進行し、輸入品が高くなって物価が上昇、やはり国民の負担になってしまうのです。
現在、起こっている物価上昇の主な原因はこれです。
――当然ながら、早急に改善する必要があります。
ですから、少子化対策は、先に説明した、財政状況を改善する方法がベストではないかと思われます。がしかし、これは難しいでしょう。何故なら公務員及びその利権団体が猛反発して来るだろうからです。
もし、その“公務員及びその利権団体の猛反発”の壁を乗り越えられる可能性があるとするのなら、それは多くの人々の政策に対する支持しかありません。
が、僕にはそれを求める力はありません。
理論は道具です。その道具を提供する事ならば、ある程度は僕にでも可能です。その道具の使い道については、これを読んでくれているあなた達に任せるしかないのです。
もしも、悲惨な未来を回避したいとあなたが思うのなら、少しで良いので、どうか動いてください。
このエッセイでは、公務員の事例で説明しましたが、もちろん、民間企業でも同様の理屈が成り立ちます。何故なら、“失われた30年”などと言われているように日本では経済成長が停滞している訳ですが、その主な原因は新技術の導入を拒む事により、生産性もあまり向上せず、新規産業もあまり生まれて来なかった事にあるからです。
例えば、“ライドシェアリング”を普及させれば、タクシードライバーの人口を減らせます。タクシードライバーの人口は22万人もいますから、仮に半分に減らせたとするのなら約11万人も労働力が生まれます。その労働力を新しい産業で活かせば、それで経済成長する訳ですが、そのような事を日本はほとんどして来なかったのですね。
これは規制によって既得権益を護る為だと言われています。
この規制を打破しようとしていたのが、小泉政権や安倍政権だった訳ですが、結局は十分な成果は残せませんでした。
そして、岸田政権にはその意欲があるどころから、できる限り既得権益を保護しようとしているようにすら思えます。
日本経済の停滞も、財政赤字…… 国の借金の問題も改善方法は明確に存在します。あとは、それを国民であるあなたが望むかどうかの問題でしかありません。
……一応断っておきますが、もし望むのなら、ちゃんと声を上げなければ伝わりません。