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読みやすい短編集

頭を振るハト

作者: 鯰川 由良

 会社からの帰宅途中、路上でハトを見た。


 あたまを前後に振りながら、いかにも間の抜けた様相。

 同じ鳥類でもカラスはかなり賢く、一説では六歳ほどの知能を持つともいうが、ハトはその真逆の存在であるように感じる。なんというか、くるっぽーとか、ぽっぽーとか、もう鳴き声からして賢くない。こんな様子を見ていると、たしかにハトは平和の象徴なのだろうと納得させられるが、一方でその様相から滲み出る平和呆け感もまた、感じないわけにはいられなかった。


 さて、そんなハトが、道を歩く私の前に出た。そしてそのまま、私の歩くのと同じ速度で私の前を進み始めた。あのハトが隊長、私が下っ端で、私が隊長の背中について行進してる、なぜだかそんな光景が頭に浮かんだ。


 とそのとき、あたまを振って歩いていたハトが、突如として羽を広げ小さく飛び上がった。

 どうしたものかと前方に注意を向けると、そこには水たまりがあり、どうやらハトはそれを避けるために飛んだらしかった。ハトは水たまりをちょうど越えた位置で着地をきめ、また同じように歩き始めた。

 ほぉ、なかなか器用なものじゃないか。

 あの気の抜けたような見た目からは想像もつかない、無駄のないジャンプだった。


 それに触発されたのだろうか。なぜだか、私もその水たまりを飛び越えたい欲求に駆られた。普段の私なら当然水たまりを横に避けていたはずである。しかし、今回は違った。

 隊長が飛び越えたんだ。私も同じところを通らないわけにはいかないだろう!?

 水たまりの手前、先週磨いたばかりの革靴を踏ん張り、強くコンクリートを蹴った。全力ではない。私の目測では、この程度の大きさの水たまりであれば、このくらいの力でも余裕を持って跳び越えられるはずである。体が水たまりの上空を通過する──。

 次の瞬間には、靴から靴下、スラックスの裾の部分に至るまで、あらゆる箇所に水が染み渡っていた。

 足がついたのは水たまりが終わる地点の少し手間。微妙に目測を誤っていたらしかった。

 くそう、なんてこった。こんなことになるなら、大人しく迂回すればよかった。


 私はハトのいるはずの前方を見た。いつの間にかハトはいなくなっていた。

ハトは頭を前後に動かすことで、頭の位置を保ち、目測をはかっているらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハトが平和の象徴であることを認めつつも、平和呆け感も否めないとする点が鋭いなと思いました。隊長に触発されて水たまりを超えようとする私、愛おしいですね。 [一言] 素敵な作品に出会えてよかっ…
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