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14-4 作戦の要


 小さな揺れと共に羽並町に発生した膨大な魔力反応。それが芥見とフロンティア一派によるものだと判断した幸夫は春達と支部の隊員達を三十名ほど連れ、芥見らのアジトと思われる山の麓の森に待機していた。


「周辺住民の避難誘導は?」


「現在警察・消防と連携し対応中です。しかし、完全に避難させるにはまだ時間が掛かるかと」


「そうか………。無茶を言うが急ぐよう伝えてくれ」


「了解!」


 幸夫は防衛隊員から避難誘導の現状を聞くと僅かに顔を顰め、指示を出す。今回の件を伏せていたせいで起こっている障害に焦燥と苛立ちを隠せていなかった。


(情報を伏せていたことが裏目に出ているな………)


 安全を考えれば、今回の件が判明した際に一刻も早く避難誘導を行うのが良かっただろう。しかし、それをすれば世間が騒ぎ立てるのは勿論、芥見らにこちらが詳細に気づいたと悟られる恐れがあった。

 その迷いの最中、防衛隊の上層部や国からは情報を伏せるよう指示が出され、幸夫はそれに納得してしまった。それ故に幸夫は現状を真摯に重く受け止めていた。

 幸夫がどうしようもない後悔を抱く中、そこへ近づく人影があった。


「喜多さん」


「ん、おお。来てくれたか郡上君」


 現れたのはAランク喰魔(イーター)討伐作戦で幸夫や恵介と共に戦ったAランク隊員、郡上美樹であった。


「はい。尾牧市支部隊員十五名、増援に来ました」


「うむ、よく来てくれた」


「状況はどうなってますか?」


「ああ、今は―――」


 美樹、そして美樹と共にやって来た隊員の一人が幸夫から話を聞いていく。その最中、尾牧市部から増援で駆け付けた奏多が星導市支部の隊員の中から春達の姿を見つけ、駆け寄っていった。


「おーい! 黒鬼と白銀さん!」


「あ、長嶋さん」


「来てくれたんですね!」


「そっちもな。あと、来たのは俺だけじゃないぞ」


 そう言って奏多が振り返ると二人はその視線の先を追う。するとそこには奏多の後を追って駆け寄って来る龍信と他二人の姿が見えた。向こうも春達に気が付いたのか、速度を上げて三人に駆け寄った。


「よお、二人共お疲れ様。昨日に続いて大変だな」


「それは九野さんも同じですよ」


「お疲れ様です九野さん。ところで、後ろのお二人は………」


「ああ、そっか。白銀さんは二人とは初めましてか」


「俺達の同期だよ。ほら自己紹介自己紹介」


「言われなくてもするよ」


「そうそう」


 奏多に促され、軽く文句を言いながら前へ出る二人。明るい声音から冗談だと分かるこのやり取りだけで、四人の中の良さがなんとなく伺えた。


「初めまして、奏多と龍信の同期の落合(おちあい)(みお)。よろしくね」


「僕は布川(ぬのかわ)(とし)()。よろしく、白銀さん」


「白銀耀です。よろしくお願いします」


 短めの黒い髪に涙ぼくろ。可愛らしい顔立ちに付け加えて耀よりも背が低いことから、愛らしい印象が強い落合澪。かなり強い天然パーマの灰色の髪と眠そうな目が特徴的な布川利矢。

 二人からの自己紹介に耀も軽く頭を下げて挨拶と自己紹介を済ませると、澪のことを観察するように見つめる。そんな耀の視線に気づいた澪は声を掛ける。


「どうかした?」


「いやー、これで()()というのが信じられなくて」


「あははは! よく言われるけど、()()はちゃんと男だぞ」


 落合澪、その見た目は間違いなく可愛らしい女子だが、彼の性別は紛うことなく男である。一言で言い表すならば『男の娘』。そんな存在を珍しく思った耀がまじまじと見つめると、その顔を面白いと感じた澪は上機嫌そうに笑い声を上げた。

 その直後、六人の元へと駆け寄っていく人影があった。


「耀! 春君!」


「篝!」


「俺も居るぜ」


「十六夜!」


 現れたのは隊服に身を包んだ篝と十六夜であった。二人の登場に春と耀は嬉しそうに顔を綻ばせて二人を迎える。


「二人とも来たのか」


「当たり前だろ」


「非番の動ける隊員に緊急出動の要請が来たのよ。それで一度支部に集まってからここまで来たの。粗方の事情も聞いたわ。………あなた達二人の馬鹿らしい疑いもね」


「馬鹿らしいって………」


 不機嫌そうに春と耀にかけられた疑いに苦言を呈する篝。反応に困った二人は苦笑いを浮かべるが、その笑顔はどこか満更でもなさそうであった。


「そっちも同期が揃ったみたいだな」


「こんにちは長嶋さん。それに九野さん達も」


「どうも。そっちこそ、昨日とは違って四人ともお揃いのようで」


「ははっ、まあな」


 遅れながらも尾牧市支部の高校同期組に挨拶を交わす篝と十六夜。そのタイミングで幸夫の大きな声が響き渡る。


「皆、聞いてくれ!」


『っ!』


 幸夫の声に騒がしかった隊員達は一斉に口を閉じ、幸夫へと体を向ける。それは春達も同じであり、閉口すると静かに幸夫の方へ向き直った。

 幸夫は全員がこちらへ向いたのを一瞥するとそのまま大声で語り掛け始めた。


「現在、この山の内部にて大規模な魔力反応が発生。これはここ最近起こっていた増幅(ブースト)装置の主犯格と思われる芥見蓮とその協力者である“フロンティア”の一派によるものと思われる。現状は一刻を争う事態であり、我々は早急にこの魔力反応の原因を突き止め、その元を断つ必要がある。春君、白銀君。二人共前へ来てくれ」


「「ぇっ」」


 突然呼ばれたことで変な声を上げてしまう二人。それもあってかその場の全員の視線が二人へと向けられる。その視線から逃げるように幸夫の元へ急ぐが、前に出ても注目の的は変わらなかった。


「春君の闇魔法は魔法や魔力を破壊、もしくは弱体化させることが出来る。白銀君の光魔法はその能力の向上と補助が可能だ。そのため、今から行う突入作戦は彼らを魔力の発生源の元まで護送し、魔力そのものを消失させるのが目的となる」


「「っ!」」


 ハッキリと、自分達が作戦の(かなめ)だと告げられた春と耀。突き刺さる視線も合わさってか思わず緊張感が高まり、全身を強張らせていた。

 そんな二人をよそに、幸夫は全体への説明を続けていく。


「ここに居る隊員は六十三名。これを十二の小隊へと分け、作戦を行う。突入開始は今から五分後。細かい作戦内容と人員の振り分けは小隊長に伝えてある。それでは小隊ごとに集まってくれ」


 そこまで聞くと小隊長であろう隊員達が動き出し、隊員達をそれぞれ呼び集めていく。その中で、幸夫は隣に立っていた二人に声を掛ける。


「君達二人と愛笑、立花君、桃山君は私の小隊だ。立花君と桃山君を呼んで来てくれ」


「「はい!」」


 愛笑はすぐ側に居たため、他二人を呼ぶように指示を出す幸夫。それにより春、耀、十六夜、篝、幸夫、愛笑が同じ場所に集まる。十六夜と篝はこのメンバーを見て自分達の役割を属座に理解し、表情を強張らせた。


「先程説明した通り、春君と白銀君を魔力の発生源まで無事に送り届けるのが我々の役割だ。なぜこのメンバーかの説明は不要だな」


 幸夫の言葉に全員が首を縦に振る。幸夫と愛笑は高ランクの隊員。十六夜と篝はランクこそ低いが、二人の戦い方をここに居る誰よりも熟知している。共に行動するにはベストな人選と言えた。


「作戦の大筋は我々の周囲を他の隊が護衛し、敵が現れれば一部の隊を足止めとして残し進んでいく。スピード重視の作戦だ。しかし、入り口は分かっているが内部の構造は勿論、敵の人数すら全く把握できていない。危険度はかなり高く、ハッキリ言って要の二人以外は私を含めて捨て駒とすら言っていい。だからこそ、念を押させてもらう」


 そこまで言うと幸夫は全体に向けていた目を春と耀の二人に集中させる。


「君達はひたすらに前に進むことだけ考えてくれ。絶対に引き返してはならない。道中で誰が傷つき、倒れようともだ」


「「っ!」」


「言い方を変えるなら、作戦を一秒でも早く終えることが皆の安全に繋がる。分かったな?」


「「………はい!」」


 ここへ至るまでに君達二人が作戦の要だと言われ続けて来た。前回の作戦と違い、自分達の役割は替えが効かない。軽率な行動は取れないことは十分に分かっているつもりだ。

 その意思を伝えるように。そして、自分に言い聞かせるように力強く返事をする二人であった。





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