14-3 容疑と主犯格(後編)
「………芥見さんとローブの男達の関係については何か分かりましたか?」
「………ああ。確証を得たわけでは無いが、ある程度の目星はついている」
「「………えっ!?」」
俯いた表情から一転し、二人は驚きで顔を上げる。そのとき、幸夫の隣に立っていた恵介は耳打ちをするように顔を近づけた。
「よろしいのですか? 俺達は初めから二人のことを疑ってはいませんが、まだ警察からは芥見を幇助した容疑がかけられています。話すにはまだ早いのでは………?」
「構わない。すでに支部内では噂になっているし、警察の取り調べよりも先に私達防衛隊が動くことになるだろう。そのときには間違いなくこの二人の力が必要になる」
「なるほど。失礼しました」
進言を一蹴された恵介はそそくさと引き下がる。しかし、その顔は満足そうに微笑を浮かべている。
元々、幸夫に対する恵介の信頼は絶大なもののため、その判断に異を唱えるつもりはない。幸夫の言葉とその説得力、迷いの無さを一人噛みしめる。
そんな恵介の心情などつゆとも知らない幸夫はそのまま二人へ説明を続けていく。
「先に言うが、今から話すことは決して外部に漏らしてはいけない。もし漏らせば、機密の漏洩として君達を即時拘束することになる。それでも聞くかね?」
「「はい」」
「うむ。まず装置を渡していたローブの三人組だが、おそらくはある組織の構成員だろう」
「ある組織?」
「装置の理論には芥見が関わっているだろうが、それを作るための技術と資金はない。それを芥見に提供できるほどの巨大組織。君達が戦った三人が捕縛後、爆破によって自害したこととエデンが深く関わっていること。これらを総括すると、一番可能性が高い組織は『フロンティア』だろう」
「「!」」
「その様子だと知っているようだな」
「………知ってますよ。例え防衛隊員でなくても知ってます」
「世界規模で暗躍する魔法至上主義の組織。殺人、強盗、違法な薬物などの製造に密売及び使用。他にも色々。挙げたらキリが無いのに、その実態は未だに把握できていない危険な組織………ですよね?」
「うむ。奴らは五十年以上前に危険な魔法実験を行い、町一つを消し飛ばした。死者は一万人を超え、魔法が発見されて以来起こった数々の魔法テロの中で過去最悪として記録されている」
フロンティア―――魔法至上主義を掲げる犯罪組織。幸夫が挙げた魔法テロは勿論、他にも様々なテロや犯罪を引き起こし、世界レベルで危険視されている集団。一刻も早い壊滅が望まれている。そんな組織が関わっていることに二人は不安と怒りを覚え、睨むように目つきを鋭くさせる。
幸夫も話しながら不快感を覚え、二人のように目つきを鋭くさせながら視界をデスクへと落とす。そして、自身を落ち着かせるために小さく息を吐くと、静かな声で語りを再開する。
「………そして、これは公には秘匿されていることだが、その魔法テロもエデンに関する実験で起こったものだとされている」
「………え? はあっ!!?」
「それって………!!!」
「察しの通り、その惨劇がこの星導市………ひいては日本で起こるかもしれないと分かった。防衛隊や警察どころの騒ぎではない。今、この国は事態の収束に大慌てだ。たった少し会話をしただけの君達に尋問や拘束の話が出たのもそのためだ」
「なるほ、ど………………」
春が返事こそしたが、明らかに頭には入っていない。二人の頭の中は現状で起こっている、もしくはこれから起こるであろう最悪の事態がグルグルと巡っている。それを受け止めきれない二人は驚きのあまり、固まってしまっていた。
そんな二人に落ち着きを促すため、幸夫はあえて情報を与えて思考を促していく。
「事が事なだけに慎重にならざるを得ない。しかし、悠長にもしていられない。敵にもこちらが情報を掴んでいることは分かっているはず。今日中には策を講じ、芥見とその協力者達を捕縛し、実験を止めなくてはならない」
「………実験を中止して、逃げた可能性は?」
「無いと言っていいだろう。今もアジトと思われる山は監視している。何か動きがあれば分かるはずだ。付け加えて、この実験は準備に四年近くかけているはず。そう易々と諦めがつくとも考えづらい。芥見の心境やこれまでの手間を考えても実験を強行するはずだ」
「どうしてそんな………!」
グッと握り拳を作り、力を込める春。怒りと悲しみが複雑に混じり合い、絞り出すように呟かれた春の言葉にも色濃く表れる。耀も同様であり、辛そうな表情で俯く。しかし反対に、俯く二人の姿に幸夫の目には強い闘志が宿った。
「今回、奴らが行おうとしているのは魔法実験。大量の魔力を必要とするはずだ」
「それって………」
「そうだ春君。君の魔法と魔力を破壊、もしくは弱体化できる闇魔法。その力を引き上げることのできる白銀君の光魔法。私は今回の事件を収めるには二人の力が必要不可欠だと考えている」
「「っ!」」
二人にとってそれは間違いなく盲点だった。芥見のことや事の大きさにばかり気を取られ、気づきすらしなかった。
「疑いが掛かっている君達を連れていくことに警察は良い顔をしないだろう。もしかすれば、国や防衛隊の上層部も君達を連れていくことを良しとしないかもしれない。そんな状況で連れて行けば、私だけでなく君達にも何らかの処分が下ることになるだろう。だがそれでも! 人々の命を守るために! その力を貸してくれ!」
二人を見つめる幸夫の目が更に力強くなる。その側で控えている愛笑と恵介もどんな返答をするのかと、期待を込めて二人を見る。
三人の視線が突き刺さる中、二人の表情から曇りが消えた。
「行きます!」
「私達は魔法防衛隊員ですから!」
力強く答える二人。元から迷いなど無く、その目には確かな覚悟が宿っている。
魔法防衛隊としての勇ましい二人の姿を幸夫達が誇らしく思ったそのとき、コップの水面が小刻みに震える程度の小さな地震が春達を襲った。
「なっ!」
「これは………!」
地震が起こると五人は驚きに目を見開き、幸夫は思わずデスクから立ち上がる。そして、その表情はすぐに驚きから警戒と困惑に染まっていく。
しかし、地震の揺れ事態はそこまで大きくはない。強いて恐怖を語るなら揺れが続いていることぐらいである。つまり、五人がここまで動揺している理由は地震とは別にあった。
「なんだこの強大な魔力は………!?」
「拳磨と同等、ううん。それ以上………!」
部屋に居る全員が同じ方角を向き、その方角から発せられている強大な魔力に警戒心を剥き出しにする。そして、その魔力の原因が何なのかを察するのに時間は掛からなかった。
『―――喜多支部長聞こえますか!?』
「っ! どうした! 何があった!」
数秒続いた揺れが収まるのとほぼ同時に、幸夫のデスクに置いてあった通信端末から若干荒い音声が流れる。幸夫は急いでそれを持つと、口元に近づけて会話を始める。
『地震と共に大規模な魔力反応が出現! 山の外観に変化は見られませんが連中が動き出したと思われます!』
「ついに動き出したか………! そのまま監視を継続! また何かあればすぐに報告してくれ!」
『了解!』
山を監視していた隊員とのやり取りを終え、端末を隊服の内側へと仕舞い込む幸夫。その直後、支部長室の扉が勢いよく開かれる。そして、額に冷や汗を滲ませる友里が室内へと駆けこんできた。
「喜多支部長っ! 羽並町から計測器が振り切れるほどの魔力反応が―――」
「うむ、すぐに対処する。情報課はそのまま計測と他の支部や隊員との情報共有を継続。何かあれば端末かスマホに連絡をくれ」
「は、はい! 了解しました!」
指示を受け、友里は来た時と同じように急いで支部長室から出ていく。続いて幸夫は周囲に居る四人へと指示を飛ばした。
「奴らが動き出した。私達も向かうぞ」
「「「「了解!」」」」
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