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閑話 魔王城

 時は、リアンがヴァリテイター本部で資料を漁っていた時間まで遡る。

 その時間、魔王城にも動きがあった。




 棺の蓋に思いっきり頭をぶつけたアランは、額を抑えた。

 しばし棺の中で上半身を起こし、ぼーっとしていると、階段を慌ただしく下りてくる音がこの地下に響き渡った。そして数秒後……。


「何事ですか⁈」


 勢いよく扉が開かれた。





「排除する」


 焦点が合っていないにもかかわらず、アランは一瞬で扉の前の男――パルウェとの距離を詰める。そして首に手をかけ、床へと叩きつけた。


「…かはっ……!!」


 床へと強打した背中の衝撃が肺にまで及ぶ。


(なんて速度だ……!!)


 パルウェが死を悟ったそのとき。

 アランが誰かに蹴られ、後ろへと吹っ飛んだ。衝撃で壁の一部が瓦礫と化す。


「おはようの時間だ。寝坊助さん♪」


 パルウェがゆっくりと目を見開くと、魔王ルシファーが、通常の身体強化以上に己を強化していた。


 魔王ルシファーは大抵の相手ならば身体強化せずとも己の腕力だけで黙らせることができる。

 だが、アラン相手ではそうはいかない。

 それは理解する。

 しかし、始めから()()()()()になるほどのことだったのか。本気モードならば城を壊さずに止めることもできたのではないか。


「火に油を注いでどうする気だ、馬鹿が」


 乱れた服を直しながら立ち上がると不満を口にする。


「仮にも命の恩人ぞ? 恩人ぞ?」


「はあ、命を救ってくださりありがとうございます魔王様」


「全く心のこもっていない礼だな。やり直し!!」


「はぁ?! 普段から散々迷惑かけてる側でどの口で言ってやがる」


 このルシファーの今の態度もそうだが、それ以上に日頃から迷惑をかけられ、パルウェはうんざりしていた。

 たまに救われたところで心から礼を言おうなどという気は起きないというものである。


(言っただけでもありがたいと思えってんだ)


「この口だが?」


「いつか絶対殺る……」


「心の声が洩れてるぞ。――――下がれ、パルウェ……!!」


「っ……?!」


 ルシファーが緊迫した声でパルウェの首根っこを掴むと後ろへ放り投げる。


「寝起きが悪いとは聞いていたがここまでとは思わなんだ」


「あれ? ルシファーにパルウェだ。どうしたのこんなところで」


「はぁ……。目が覚めたようで何よりだ」


「さっきの蹴りですっかり目が覚めたよ。次は違う起こし方をしてくれるとありがたいな」


(この人も図々しい人だ)


 アランがルシファーの手を掴み、起き上がる。その表情は頭をぶつけ、苦しんでいた人物とは思えない程、あっけらかんとした表情だった。


「それで、ルシファー。いきなりで悪いんだけど、ティアとレオナはどこにいるのかな。それと、パルウェ。さっきはすまなかった」


「別にいいですよ。アラン様の寝起きの悪さがまだ治っていなかったとは思わなかっただけですから」


「まあまあ、そんな嫌みったらしい言い方しなさんなや。後で埋め合わせはするからさ」


「そこまで言うなら期待しておきますよ」


 期待してない瞳で肩をすくめるパルウェに、アランは苦笑しながら、ルシファーに向き直った。


「まずユースティアの行方だが、俺も知らん。数日前まではここにいた。あの鳥なら分かるんじゃないか?」


「そう……。ルシファーにもお世話になったね」


「俺は部屋を貸しただけだ。世話したのはユースティアだ。礼をする相手が違う。次にレオナの所在だが、レオナはたった今この魔王城に帰ってきた所だ」


「あっそうなの? 久しぶりに顔を見せるとするか」


「レオナは今、一階のロビーだ」


「教えてくれてありがとう」


 ルシファーは鼻を鳴らす。


「パルウェ、俺たちも行くぞ。こんな辛気くさい場所にいつまでもいられるか」


 階段を駆け上がるルシファーの後を追うようにパルウェは足を前に出そうとするが、躊躇するかのように足が揺れる。


 アランはそんなパルウェを不思議そうに見る。


「どしたの?」


「本来、あなたには言う必要のないことなんでしょうけど……。念の為に言っておきます」


 そう前置きしたパルウェは口にしたことで決心がついたのか、今まで誰に言わず一人抱えてきたことをアランに吐き出した。


「ここ数年、ずっと疑問に思っていることがありました――今のレオナと昔のレオナは本当に同一人物なのかどうか」


「成長したから変わったように感じるとかの話ではなさそうだね」


「その通りです。まあ、ルシファー様やユースティア様はそう思っていると思いますが」


「仮に、レオナが今と昔と違う存在だとして、パルウェはどうしたいの? 殺したい? それとも――――」


「殺したいだなんて言えるわけないでしょう‼ あなたも知っているではありませんか。私が魔族の中でも血が濃いことを‼」


 魔族は力の強いもの、もっと分かりやすく言い換えるならば、己より強いものに心酔する性質がある。そしてその強さの基準は魔族の家系や魔族の種類によって異なってくる。

 パルウェで言えば、最も分かりやすい原始的な強さ。戦闘におけるカリスマ性とでも言おうか。それが、パルウェに流れる魔族の血だった。


「ああ、そうだった。そうだったね」


 アランは懐かしむように頷いた。


 初めてパルウェと会ったとき、パルウェはその場でアランの前でひざまずいた。そして、アランの前で忠誠の言葉を口にしそうになった。それも、すでに忠誠を誓ったルシファーがいる前で。

 いち早く事態に気づいたアランはパルウェが言葉を発する前に殺気を放ち、その場の全員を気絶させた。

 その後、アランはパルウェだけを起こし、パルウェに事情を聞いた。そして、パルウェの願いの通りに言葉の枷をつけた。


「あなたの知っての通り、レオナがここに来てから、何度も何度も、レオナを手にかけようとしました。でも、今のレオナに対してはそういうことが減りました」


「ああ、なるほど。そういうことね」


「相変わらず、あなたは理解が早過ぎますね。そういう、すべてを見透かしてるような感じ、苦手です」


「君が言えた義理じゃないと思うけど?」


「あなたほどではありませんよ」


 パルウェは大きなため息を吐くのと同時か、階段上から、ルシファーの大きな声が響く。


「パルウェ、早く来い」


「今、行きますよ」


 パルウェはアランに背を向け、階段の方へと歩みを進める。


「アラン様」


「ん?」


「もし、私の勘違いではなかったのなら、レオナは私が殺します。ですので――」


「ああ、言わなくていい。分かった。それが君の決断なら、俺は止めない。でも、その優しさが本当の枷にならないことを願うよ」


「本当に、どこまで先を見ているんですか……」


 パルウェは最後にボソリと呟くと、階段を駆け上がった。


 パルウェの姿が見えなくなるまで見送ると、アランも階段を上り始めた。


「ここにも潜み始めるとはね。本当に嫌になる」


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