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とある会合

 ガザニア国、ビルの最上階にて。


 スーツ姿の男が目の前にひざまずいている片面の男に鋭い視線を送る。


「今なんと?」


 聞き返す。からかわれているのか、それとも裏切ったのか。


「ヴァリテイターの本部が焼き払われました」


 頭を垂れたまま、片面の男は事実を再び男に告げる。そこには罪悪感も恐怖も、尊敬のかけらすら感じられない声音だけがある。


 男は立ち上がると、机にあったコップを握る。そして――――男の頭上に突き放した。


 血がしたたり落ちる。それでも片面の男は何も言葉を発さない。否、発せられない。


「とんだ無駄骨を踏まされたわけだ。役立たず共め」


「朱雀、お前はもう下がれ。目障りだ。私の前から消えろ」


 朱雀は立ち上がると、瞬きの間にこの部屋から姿を消した。


 男は大きなため息を吐く。そして、次だと言わんばかりに指を鳴らす。


「ご用でしょうか。クラウ様」


 天井に身を隠していた黒いマントを羽織った男はそう口にする。


「監視はしていたんだろうな、クレト?」


「言われた通りに」


 クレトと呼ばれた男は、水色に輝く宝石をクラウの目の前に差し出した。


 クラウはその宝石を受け取るとすぐに魔力を込めた。そして、映像を見ること数分。宝石を握りつぶした。


「見るに耐えんな。もしやとは思っていたが、事実になるとはな」


「いかがいたしましょう?」


「朱雀に関しては死なない程度に兵を差し向けろ。それが終わり次第お前はライを滅ぼせ。四天王であるお前にできないとは言わせない」


「…………承知しました」


 クレトは転移し、この場を後にした。


 一人残ったクラウは能力を発動させ、絶対的な自信を持って告げる。


「手はずは整った。地上に出てきたときが、奴の最後だ」






◆♢◆♢


 レーフ国にある森の奥深くにたたずむ屋敷にエプロンを掛けた男が一人、入ろうとしていた。


 男――悪七才蔵(あくしちさいぞう)が目指すは屋敷の一階にある、とある部屋。


 選ばれた者しか入れないその部屋に何もない壁から悪七は入室した。


「ただいま戻りましたよーっと」


 屋敷の構造上、あり得ないほど広いこの部屋には、主役とばかりにど真ん中に円卓が置かれている。その席の総数は七つ。そのうち空席が四つ。


 悪七は軽いノリと共に空席に腰を下ろした。


「どこをほっつき歩いていた? 十五分の遅刻だ」


 右隣に座っている片面の男――残道朱雀(ざどうすざく)は、男が座るなり懐中時計の蓋をカチリと閉め、男の腰にかかっているエプロンを注視した。


「おいおい、俺に言ってんのか? 自分の方がボロボロじゃねぇか、なあ、朱雀さんよ」


 朱雀はその男の挑発した言い方に顔をしかめたと思えば、大きくため息を吐く。


「ひっひっひ。相変わらず時間厳守人だな、残道。そして、悪七は相変わらず時間を守らない」


「バーベリこそ、相変わらず気色悪い笑い方だな」


 悪七は、外し忘れていたエプロンを外すなり目を細め、関節を鳴らし始める。


「ひっひっひ、余計なお世話だ」


 悪七の対角線上に座っている――ベレー・バーベリは黒いずきんを強く掴むと、さらに深く、目が隠れるほどにずきんを引っ張った。


 これで静かになる。


 悪七がそう思った矢先、先に来ていたもう一人の人物が悪七に向かって指を向け、毛を逆立てていた。 


 いつものが来る、そう直感した悪七は来るであろう大音量に備え耳を塞ぐ。


「甘い匂いしてるぞ、悪七――!! この甘ったるい匂いをどうにかしろ、悪七!!」


「ああ、やっぱりうるさいのが絡んで来やがった」


「甘い匂い……?」


 朱雀の隣に座っている獣人――ガイオ・ビルギッタは鼻を右手で覆うとわざとらしく左手を払った。


 心底嫌そうな顔をしているビルギッタに、朱雀は懐から取り出した梅干しで餌付けしながら尋ねる。


「何の匂いか分かるか、ビルギッタ?」


「砂糖一択!! 絶対砂糖しかありえん!! 梅干し美味い。朱雀、もっとだ。もっと梅干し!!」


「砂糖か……」


 朱雀は餌付けしながら、顎に手を当てる。


「そんなに俺がどこにいたのか気になるのかよ!!」


「気にならなかったのなら聞きはしない」


「たいしたことじゃねぇよ。ガザニア国はお祭り騒ぎの時期だろ? だからわたあめ屋の屋台で小遣い稼ぎをしていたんだよ」


「はっ、似合わねっ。冗談は顔だけにしろ、がんぐろきらきらいけめん!! お土産よこせ、酸っぱいの!!」

 

「ガイオ、お前……。褒めるのはよせやい、照れるだろう?」


「褒めてねェ!!」


「それよりも――この血なまぐさい臭いの方が問題だろうさ……」


 血の臭いを漂わせている方向を見やる。その眼差しには軽蔑が宿っていた。だがすぐに朱雀に見られていることに気づいた悪七は、ヘラヘラとした笑みを浮かべ、血の上を歩きはじめた。


「いい食いっぷりだな、ルバニカ!! その食いっぷり嫌いじゃないぜ」


 近づくなりルバニカの肩に手をまわす。


 無我夢中で食べていたルバニカはその衝撃で肉を喉に詰まらせた。胸を叩き無理矢理押し込むと、その狂気を宿した緑眼で悪七に笑いかけた。


「帰ってきてくれて良かったです。話したいことが山ほどあるのです」


「話したいこと?」


「ええ、そうです。そこにいるあいつが私に絡んできてうっとうしいのです。古くからの仲間なのでしょう? なら、注意してくださいよ。新参者の私の言葉など一つも聞きやしない。そのうち殺してしまいそうです」


「分かった、分かった。そんな殺意マシマシな顔をするんじゃねぇよ。その肉くれたのはバーベリだろう? 怖がらせるのはお前にとってデメリット。違うか?」


「それは……」


 その低い声音で冷静さを少し取り戻したルバニカは黙り込む。悪七の強さはあの日、この目で見ている。これ以上悪七の気分を害するのは得策ではない。


「よしよし、いい子だな。後でちゃんと叱っといてやるから」


 悪七は大人しくなったルバニカを確認すると、席へと戻った。ボスの気配を感じ取ったからでもある。


 悪七が座ったのとほぼ同時。


 ボスがこの部屋に入室した。


「遅れてすみません。全員はそろっていないようで。 

…………邪魔だ」


 ボス――セルディウス・バシュナはルバニカを視界に映すことなく、ルバニカを部屋外に吹き飛ばした。


 悪七がヒューと音を鳴らし、ベレーが小さな悲鳴を上げる。朱雀に関しては我関せずの姿勢。ガイオは尊敬する眼差しをセルディウスに向けた。


「来ていないのは、エルメルとクラウか……」


 セルディウスは己を除いた二つの空席に視線をやりながら、顎に手を当て二人の顔を想起する。


 どこで何をしているかセルディウス自身も分かっていないエルメル。そして、ヴァリテイターを裏から支配しているクラウ・アスクウィス。


 エルメルに関しては正直来るとは思っていないし、任務をこなしている間はどうでもいいが、クラウに関しては疑問が浮かぶ。クラウがこの会合に何も連絡なしに遅刻するとは考えがたい。あいつはそういう男だ。


 何かがあったと考えるのが妥当か。


 そう考えていると、ガイオの声で現実に引き戻される。


「セルディウス、オーギュストも来ていないぞ!!」


「オーギュストはいい。今はおもちゃに夢中だ」


「それよりも、この血と肉。それと、先ほどの虫けらについてだが……」


 ベレーが一瞬ビクリと肩を揺らす。


 セルディウスはその動きに気づいたが、すぐに視線をそらし、血と肉をじっと見つめ、次に眉をひそめた。


 真っ赤な池のごとくあるその中に沈んでいる武器。血の主達が来ていたであろう服。

 見れば誰なのか予測できるというもの。その後の展開も。


 それよりも気になることができた。


「以後、気をつけるように」


 セルディウスはこの件について不問に処す。そして、今回の本題に入る。


「集まってもらったのは他でもない。時がきた。厄災を解放する」


「八年前は失敗したもんな。今回はおれがいる。大船に乗ったつもりでいいぞ」


 ガイオは、えっへんと言うがごとく胸を反らし、尻尾を激しくぶんぶんと左右に振った。そんなガイオにセルディウスは苦笑いをする。


「今回の各々の成果を報告しろ。そして、今後の動きについて確認する」


 そして、各々が成果を報告していく。数時間後にこの円卓は解散した。






「なあ、バーベリ。あいつの実験は順調か?」


 解散後、悪七は席を立つベレーに声をかけていた。


「ひっひっひ、なんだルバニカの心配でもしてるのか?」


「そりゃあ、心配もするさ。俺は慈悲深い人間だからな?」


 わざとらしく肩をすくめる悪七にベレーは馬鹿にした様に笑った。


「お前がか? 実験成功時の報酬が目当てなだけだろ」


「まあ、そうだな。だが、慈悲深いのは変わりないだろう。俺は瀕死だったあいつを救ってやったんだぜ? その後、あいつがどうなろうが俺の知ったこっちゃない」


「俺に売っといてどの口が言ってんだか……」


 呆れたようにベレーはため息を吐いた。


 悪七は裏社会の支配者だ。だからこそ、悪七にとって裏社会全てが己のテリトリーと言える。ルバニカ――エルフの王太子だったステルベンのことも知っていて瀕死のところを助けたに違いない。


「今のところは順調だよ。我が強いのだけが問題」


「それならいい。面白いものが見れそうだ」


 ベレーは訝しげに悪七を見るが、悪七はそのまま振り返らず姿を消した。

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