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「狭い……」


 地下に向かって下に来た僕は今、最下層らしき天井の隙間に張り付いていた。


 地図だと、ここから行かないと敵とエンカウントする可能性が高いのだ。普通の道を行きたいのはやまやまなのだが……。

 ネズミとか出そう。


 床に張り付きながら下の明かりが見える所まで手の力で前に進む。


 思ったよりきつい。

 やっとのことで、明かりの所まで到着し、上から下の様子をのぞき見る。


 誰もいない? というかこれ、畳しか見えない。人の気配はなさそうだし、ここから下に一度降りてみるか。

 僕はスケスケの扉を開け、下に飛び降りた。


「えっ……」


 目の前の状況に理解が及ばず、思わず小さな声をあげる。


「いやいやいや。ちょっと待って? これ僕の頭がおかしいのかな? 方向音痴とかじゃないと思うんだけど……」


 額に手を当て、左右に首を張る。本当に目の前の状況に頭が追いつかない。

 だって、右を見れば、池があって、鯉が優雅に泳いでいる。さらには、ししおどしがカコーンと鳴っている。まさに和風庭園。

 いったん、何も考えず、周囲を見渡す。後ろと左は壁。前には襖か。


 僕、地下に来たはずだよね? からくり屋敷というか、もはや、怪奇な家だよ。アリスになった気分だよ。この建物は不思議の国だったのか。

 もしかして、シアが転移できないと言っていたのと関係ある?


「誰だよ、こんなおかしな家作ったのは。あきれを通り越して賞賛しかないよ」


 ため息を吐く。そして、ゆっくりと、右側の廊下に近づき、人がいないか、目でもしっかり確認する。


 よし、誰もいない。真っ直ぐなのが難点だけど、曲がり角とか、部屋がいくつか見えるから出くわしそうだったら、そこに隠れれば大丈夫かな。最悪、外の草むらとか木の後ろとかに姿を隠せそうだし。


「こんなことなら透明マント、ロジェから返してもらうんだったな。まあ、今更気にしてもしょうがないか」


 足音をできるだけ立てないように静かな歩みで前へ進む。


 静かだな。上にも敵が何人かいたけど。強敵は一人だけだった。もしかして下には誰もいないとか?


 そんなことを考えながら歩いていると、左側から複数人の声が聞こえた。結構声がでかいな。何話しているんだろう。


 僕は音を立てないように襖を少し開け、隙間から中の様子を覗いた。そして、耳をそばだてる。いわゆる盗み聞きというやつである。


「だから、言ったのだ。フレイを殺すべきではないと。ブラックドッグはフレイに懐いていたのだから、フレイを人質に利用すれば良かろうと。なぜ、わしの意見に刃向かったっ!! 逃げてしまったではないか。魔法契約をしたことを忘れたのか!!」


 胸ぐらを掴み、唾をまき散らす勢いで話す老年の男。

 胸ぐらをつかまれている壮年の男は軽蔑した瞳で老人を見下ろした。


「自殺したんですよ」


「何?」


「私の最愛の妻が、娘が死んだことに耐えられず、後に続くようにね。私だって、そんなことで死ぬなんて思わなかった」


「そんなことだと? わしの娘を愚弄するか!!」


 淡々と自嘲するように話す壮年の男の首をさらに絞めるように老人は服をさらに引っ張った。


「そんなに怒らないでくださいよ。謝意を込めて代わりも作ったではないですか。フレイと同じ顔の妻を。面がある限り、肉体は違えど、フレイなんですからそれでいいではないですか。どこに悪いところがあるというんです」


「どこにだと?! 貴様、とうとう狂ったか!!」


 良い解決策でしょと言わんばかりに話す壮年の男に怒気をぶつける。老人の額の血管が今すぐにでもはち切れんばかりにピクピクと動く。だが壮年の男は軽蔑の眼差しをやめず、冷静に事実を述べる。


「狂った? おかしなことを言うんですね? この組織にいる人間はみんな狂っているではありませんか。あなたも例外でありません。私の妻を死に追いやったのは他ならぬあなた自身なのですから」


「世迷い言を言うでない!!」


「世迷い言ですか……。孫で実験して死の代行者という異物を作ったあなたがそれを言いますか。私は何度も止めました。それは世の理に反するものだと。異物を作れば異物に対抗するイレギュラーが生まれると。そんな私に無理矢理魔法契約をさせ、従うように命じたのは他ならぬあなた自身」


「ふざけるな。怪物を作ることは間違っていない。厄災を退かせるには怪物が必要なんじゃ。むしろ孫に取っては名誉なことだ!!」


「その意見には賛成です。ですが、死の代行者は怪物ではなく、異物。決して怪物にはなり得ない。怪物というのは、そこで盗み聞きしているような人を言うんですよ」


「誰だ。姿を現せ!!」


 やば、バレた。ここは逃げるか。

 ――いや、ここで悪い奴殺した方がいいに決まっている。第二の死の代行者が生まれないためにも。


 僕は深呼吸し、襖を勢いよく斬る。そして、先手必勝とばかりに、老人に向かって最速の剣筋を走らせる。


 傷のこともあるのはそうだが、何より、僕の得意な戦闘スタイルは元々暗殺なのだ。つまり、戦闘に持ち込ませない。一気に片をつける。


「ちっ」


 老人は目を見開いたと同時に、壮年の男を盾にする。


 僕は舌を鳴らし、咄嗟に剣筋を男の真横へと変える。だが、変えきれず、壮年の男の頬から下にかけて、斬撃が走った。刀の先端が床へと突き刺さる。


「やれ、アーノルド」


 老人の声で、僕は見上げた。


 アーノルドと呼ばれた壮年の男の手には片面の男と似た面が握られていた。片面ではなく顔を全て覆うような面が。


 もしかしてこれ全て仕組まれた罠だった?


 僕は左手でもう一つの刀を抜刀する。右の刀は斬る方向を咄嗟に変えたとき、斬撃の威力が強いのもあって床に突き刺さってしまい間に合わないからだ。


  神影月下(みかげげっか)


 初めての実戦。大丈夫。ミカゲさんを信じる。

 目を見開き、面だけが切れる場所を見極める。殺傷能力が高い刀だ。間違えれば男の腕ごと斬ってしまう。


 ――ここだ。


「お見事、リアン君」


 僕は目の前の壮年の男の言葉で眉を上げた。


 もう片方の手にも面!! 背に隠し持っていたのか!! 


 次が来るかと構えていると、壮年の男は後ろを振り向き、老人に面をかぶせた。


「何をしている!!」


「黙れ!!」


 老人の声が壮年の男の声で静かになる。それどころか、生気を感じない。


「リアン君。咄嗟に合わせてくれてありがとう」


「いや、僕は別に……」


 合わせたわけじゃなかったんだけど……。何かサイン出してたのかな。気づかなかった。

 というか、この人馴れ馴れしい気がする。


 僕は刀を両手に握り警戒しながら、目の前の男に尋ねる。


「あなたは日和さんのお父さんですか?」


「ああ、そうだよ。覚えていないかな。一度授業参観で会っているんだけど」


「すみません。覚えていないです」


「まあ、一度だけだからしょうがないか。日和が世話になっていたね」


「いえ、世話したというより世話してくれたというか……」


 この人と話していると気が抜ける。日和さんのお父さんは敵だと思っていたけど違うのか? でも、これも罠かも知れないし……。


「とりあえず、この人を殺そうか」


「……えっ?」


 一瞬理解できなかった。僕は殺そうとしていたけど、この人がそんなこと言うなんて思わなかったというか。まあ、日和さんもあれだから意外でもないのか?


「君もこの人を殺すために来たんでしょ? だから、私が手を打ってあげてたんだけど、違ったかな?」


 僕たちがここに侵入してたのに気づいてた?! やっぱりこの人侮れない!!


「その質問に答える前に聞きたいことがあります」


「何でしょう?」


「ヴァリテイターが僕を狙っていた理由はなんですか? そして、フレイさんとライリーを僕の所に連れてきた本当の理由を教えてください」


 おそらくこの人が今回の黒幕。そう思うのは直感ではあるけど、僕の直感は結構当たること多いし、自信がある。間違いなくこの人が黒幕。


 でも、気になることが多い。まず、ヴァリテイターのトップはこの人じゃない。そして、そこの面をつけた老人でもない。多分、二人とも幹部といったところ。手を打って上げたとは言っていたけど、それなら、片面の男を僕達に差し向けたのはなぜ?


 とにかく、この人には疑わしいところが大ありなのだ。


「それは言わなきゃダメ?」


「つまり言いたくないと?」


「長い話になるからね」


「そうですか……」


「それで? 殺すの? 殺さないの?」


「殺します」


 僕は 貪る刀(イペタム)で老人の心臓を貫いた。血が飛び散るが、貪る刀(イペタム)が全てを吸い尽くす。


「僕はヴァリテイターを滅ぼしに来ました。その中にあなたももちろん含まれています。あなたはヴァリテイターですか?」


「私はヴァリテイターをやめるよ。命令され、逆らえなかったとは言え、日和には悪いことをした。謝りにいかないとね」


「そうですか。それなら、僕は(・・)あなたを見逃します。ご武運を」


 これは僕のあまさなのかも知れない。もしかしたら、一度は日和さんを殺したことへの罪悪感。死の代行者だったからか、死にはしなかったけど。


 でも、もし、万が一、僕の目の前に現れることがあれば、そのときは必ず斬る。


 僕は刀を鞘にしまい、部屋を後にした。ヴァリテイターの壊滅はまだ終わっていない。


 残るは、ボスと幹部の四人。


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