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忘れていたこと

 三発。弾丸に何の能力が入っているか不明。最初の二発も何が付与されていたか不明。分かっているのは六発中一つが必ず当たるというもの。もしかして残りが少なくなっていくほど付与されているものは強いのか?


「一発目だ」


 一発目が炸裂する。銃口の向きを見ていた僕は右に避けたはずだった……

 しかし、体が右に避けた次の瞬間、銃弾は到達する前に目前で爆発する。とっさに顔をかばうがあと一歩遅かった。直撃に近い爆発に巻き込まれる。今ので皮膚はただれ、頭からは血が滴り落ちた。


「二発目」


 とどめだと言わんばかりに二発目が僕を襲う。


 間に合わない!!


 二発目がなすすべもなく僕の心臓の横に直撃する。心臓がドクッと言う音を立て、口から血が大量にこぼれ落ちた。


 回復しないとまずい。これ、猛毒だ。おそらく通常の人だったら一滴で死ぬだろうほどの猛毒。それが、弾丸に込められるだけ込めたかのような量。


 能力発動『嫉妬』


「あ、あ、あっっっっっっっっっっっ!!!」


 痛みに耐えられず、その場にうずくまる。浸食されて硬くなっていた皮膚はさらに硬くなり、体中から煙を上げる。


 そんな僕を面の男は待つはずもなく、動けない僕に三発目を放つ。


 僕は心臓だけでも守ろうと刀を自分の目の前で地面に突き刺した。


 どうして、『剣神の加護 霊鳥剣』が発動しないの? 発動していれば、どこに避ければいいか、見えているはずなのに。もしかして、一発目の銃弾が能力封じだったのか!?


「チャックメイト」


 三発目が刀に当たり、真っ二つに斬れる。だが、斬れた弾丸はそれで終わらなかった。弾丸の側面から糸のような赤い光が無数に出現し、僕の手足を床へと繋ぎ止める。それだけに終わらずその赤い光は一瞬にして、檻という名の球体を形成する。


(閉じ込められた。それに中の温度が上昇している?!)


 息がまともに吸えなくなり、意識が遠のいていく。

 ただでさえ肺をやられている上に、猛毒が全身を襲っている。回復が間に合わない。


 何より決定打は球体内の酸素が奪われているであろう状況!!


 面の男が僕に近づき、何かをしようとしているのに動けない。


「っ……!!」


 死ねない。まだ、死ぬわけにはいかないと言うのに、意識が保てない。





「力の使い方が全くもってなっていない」


「どういうことだよ」


 リアンは不満げな顔をしながら、ディランの隣に座った。本を読んでいたディランはパタリと本を閉じると、立ち上がった。そして、リアンの頭をわしづかみし、指に力を込めた。


「痛い、痛い、ギブ、ギブだって、ディラン!! ディラン様!!」


 リアンはディランの手首を掴み、離させようとする。それでも、ディランの手は離れなかったが力は抜いてくれた。


「頭蓋骨粉砕されるかと思った……」


「通常の能力は、努力や願望などで威力が変わったりする。だが、そうではない能力は異なる。リアンのそれは、振り回されているだけだ。下僕になってどうする」


「うっ、努力してるじゃないか。というか、そうではない能力って?」


 図星をつかれたリアンは息を詰まらせた。だが、その前に言っていたことが気になりリアンは尋ねた。


「簡単に言うと、元から強い能力かつ、意思が強い能力だ。私やお前のように」


「意思が強い?」


 能力に意思とかそんなものあるのか?


「確かに努力や願望で威力が変わらないわけではない。真に威力を上げる方法は意思を完全にねじ伏せることだ」


「ねじ伏せる?」


「だが、今の状態では無理だな。弱すぎて相手にすらされていない。リアンの選択肢は二つだ。契約を交わすか、もしくは他の者に力を借りてねじ伏せるか、だ」


「そんなこと言われてもどうしろってんだよ。そもそも、僕の能力に意思があるとか初めて知ったし。もっと分かりやすく教えてよ」


「めんどくさい」


「ええ……。ここまで来てそれ言っちゃう?」


「自分ではどうしようもなく、真に必要になったとき私の力を貸してやる」


「どうやって?」


「名を呼べ。今、リアンに力を埋め込むのを終えた。あとは、 貪る刀(イペタム)か……」


 ディランはリアンの頭から手を離すと、貪る刀(イペタム)を掴んだ。


「名って誰の?」


 リアンは答えを聞こうとディランの服の裾を掴み、食い下がった。ディランはリアンをいちべつすると、間を開けて告げた。


「それを見つけろ」


「見つけろ、って言ったって……。ヒントぐらいちょうだい」


「名を呼べ。星の名前を。私に傷を残した星の名前だ」


「傷を残した星の名前?」


「それ以上は言わない。探すことだ。今はもう、光を失った星の名前を」




 そうだ、忘れていた星の名前は――――星の名前は、「アヴィオール」


 意識が覚醒する。

 球が真っ二つに割れ、はじけ飛ぶ。

 握った刀が悲鳴を上げ、足掻くように自分の血を喰らおうと暴れ回る。だが、そうはさせない。

 体を竜化させ、さらに上からねじ伏せ黙らせる。


「熱っ………!!」


「私の負けか」


 面の男は銃をしまい、道を空ける。僕は能力により発生した風に左腕を包まれながら前へとゆっくり歩みを進めた。


 体が重く、痛い。体の表面上の傷が消えていってはいるがそれに比例するかのように心臓と頭に痛みが流れている。毒もまだ完全に解毒されていない。


「行かせてもらいます」


 息の荒れを悟らせないように背中越しに言葉を残す。まあ、バレているだろうけど。下の方も騒がしくなってきているし、この場から離れないと。


「最後に忠告だ。面に気をつけろ」


「それってどういう……?」


 僕は思わず後ろを振り返る。

 だが、すでに男の姿はそこにはなかった。




◆◇◆◇



「ハリー、勇者達は一旦追い返せた。だが、里の復興はやり直しだ」


「それは見れば分かります。派手にやりましたね」


「返す言葉もない」


 ハリーは、「ははは」と笑っているが目は笑ってはいなかった。これは相当怒っている。しかしそれに気づかないルナは、ハリーが落ち込んでいると勘違いしたのか、ハリーに向かってこう述べた。


「まあ、勇者達が来たからしょうがないって。手伝うからさ、元気出しなよ?」


 ルナの今の態度にリンはビビった。怒っているハリーにそんな態度をとれるのもそうだが、ほとんどの被害はルナがもたらしたものだ。それをルナは、ハリーが戦っているのを見ていなかったのをいいことに、勇者に全てをなすりつけたのだ。


「とりあえず、お茶にしますか」


 ハリーは現実から逃避するように目をつぶり、ため息を吐いた。そんなハリーと対照的にルナは元気よく、


「賛成!! ノア、早く行こう」


 言いながら笑みを浮かべた。そして、ハリーの後ろにいたノアの手を掴むと、オリヴィアがいる家へと走って行った。


 リン達は二人の後に続こうと振り返ったところで、動きを止めた。


「大きな力を感じる」


「そうですね」


 風が吹き、葉っぱが宙に舞う。そして、葉っぱが再び地に落ちたところで子供の声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。


「リンさん、魔導具持ってきたよ」


「おつかいこれで終わり?」


 大きな力の正体はロジェの横に立っている男だとリン達は確信する。四天王の一人、アーベント。


「ロジェ、よくやった。リアンはいないのか?」


 リンはリアンがいないことに気づき、ロジェに尋ねる。魔導具を探しに行くと言った張本人のリアンはいないのは不思議でしかない。


「リアン兄ちゃんは……」


「外寒い」


「それでは、中でお話しましょうか。私たちもその方がありがたいですからね」


 ハリーは腕をこするアーベントを見て、そう提案する。その提案にアーベント達は乗ることにした。




 中に入ると、先にルナ達がお茶を始めていた。

 ロジェはリンの裾を掴み、尋ねた。


「この人達誰? 仲間?」


「裏ギルドのメンバーだ。今お茶を飲んでいるのがルナで、急須を持っているのがノアだ」


「そうなんだ」


「私にもお茶くれる?」


 いつの間にか座っていたアーベントは湯飲みを握りしめ、ノアにお茶を注ぐように頼む。ノアは「あ、はい」と言い、言われたとおりにお茶を注ぐ。

 姉のルナの方はいつの間にか座っていたアーベントに驚き、目を見開いた。ノアもお茶を注ぎ終わってから気づいたのか、アーベントを二度見した。


「このお茶、いける」


 しかし当の本人であるアーベントは二人の反応に気づいていながらお茶を口に含み、味を堪能していた。


「ロジェ君、魔導具は私が預かります。体が冷えているでしょう。お茶を飲むといいです」


「え、でも……」


「リン、よろしくお願いします」


 ロジェは戸惑いながらも、最後のハリーの一言でリンにそのまま連行されてしまった。


「リンさん、どういうことなの?」


「ハリーに何か考えがあるんだろう。ハリーが変なことするようなら俺が止めるから安心しろ」


 ロジェは納得が言っていなかったが、リンだけじゃなくここにはアーベントもいるから下手な真似はできないか、と自分を納得させた。


「ロジェ、このお茶おいしい」


 席に座るとアーベントにお茶を勧められ、大人しくお茶を飲むことにした。




「これは私が確認した方がいいですよね。仲間にやらせるのは酷でしょうし」


 ドア越しにハリーは独り言を呟くと、オリヴィアのいる部屋へと向かった。


 部屋にたどり着くと、オリヴィアの寝ているベッドの横に立ち魔導具を起動させた。魔導具を起動させ、数分が経ったところでオリヴィアの瞼がピクピクと微かに動き、目がぼんやりと開き始めた。


「目が覚めたようですね。お加減はいかがですか?」


 オリヴィアは固まった体を起き上がらせ、ベッドに寄りかかりながらも座った。


「大丈夫です。迷惑をかけてしまいましたね」


 ハリーと目を合わせず前をぼんやりと見ているオリヴィアだったが、首筋に冷たい物が当たり、目を細めた。


「一応、確認です。あなたは今、誰ですか?」


「おかしなことを言うんですね、ハリーさん。私はオリヴィアですよ。忘れてしまいましたか?」


 もしかして、と思っていたハリーだったがその答えを聞き、一旦ナイフを下ろした。


「そうですか。それはよかったです」


 笑みを笑みで返す。


 もしここにリンがいたらきっと「人間はめんどくさい」と言うんだろうなと思いながら、ハリーはオリヴィアに再び尋ねた。


「眠っている間、契約を結びましたね?」


「…………そんな言い方をするってことは分かっているんですね……」


 オリヴィアは隠し通そうと思っていたが、ハリーの言葉でバレていると思い、正直に話すことにした。


「ハリーさんの言うとおり、契約を結びました」


「どんな契約ですか?」


「話す前に一つ約束してくれませんか?」


「何でしょう?」


 オリヴィアはハリーの方に顔を向けると、真剣な眼差しを向けた。


「誰にも言わないでください。心配かけたくないので」


「分かりました」


 ハリーはナイフを懐にしまうと、ベッドの横にあったイスに座り、聞く体勢に入った。


「私がした契約は――――」




「それじゃあ、ロジェはアーベントと一緒に行くのか」


「うん。もっと強くなりたいから。もちろん、情報は共有するよ」


 ロジェはリンにこれからのことを話すと、残りのお茶を飲み干した。リンは新たな門出を祝うように、


「分かった。頑張れよ」


 言った。それに対しルナは、


「えー、もう行っちゃうの? もっとおしゃべりしたい」


 残念そうな顔を浮かべ、二人を見た。

 先ほどのおしゃべりで、ルナはロジェとアーベントとすっかり仲良くなっていた。


「また機会があったらそうしようか」


 アーベントはどこかご満悦そうな顔を浮かべ、土産の茶葉とせんべいを腕に抱えた。そして、転移をする準備に入ったのか、ロジェの手をもう片方の手で握った。


「またね」


「またね♪」


 ルナはアーベントの言葉に同じ言葉で返す。


 ノアは姉の恐ろしさを実感する。短時間で四天王と仲良くなり、ため口にまで至るのはもはや才能である。


(やっぱり自分の姉はコミュ力モンスター)


「さてと。ノア、ボスの場所が分かったし、合流するわよ。リンもそれでいいわよね?」


「ああ。だが、その前にオリヴィアが目を覚ましてからだ」


「それなら先ほど目を覚ましましたよ」


「ハリー、上手くいったんだな」


 扉を開け、戻ってきたハリーの後ろにはオリヴィアが立っていた。オリヴィアの顔は少し青い。


「オリヴィア、目を覚ましたんだ。よかった。おかゆでいいよね? 今作るから!」


 ルナはオリヴィアを見てうれしそうにしたかと思えば、慌ててキッチンの方へと向かった。


 忙しい奴だなとリンは思った。


 オリヴィアはイスに腰を下ろすと、リンやノア達に自分が寝ていた間のことを聞き始めた。

 だが、それも、おかゆが来るまでだった。ルナはいろんな味のおかゆを大量に持ってくるとオリヴィアは無心で食べ始め、話しどころではなくなってしまったからだ。


 裏ギルドのメンバーはその食欲っぷりに苦笑いしながらも、元気になってよかったと微笑ましく食べ終わるのを待つのだった。



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