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龍馬の行方

「シュウ、ここにいたか」


「なんの騒ぎだ?」


 ここは神鳥国、アグレーン国。アグレーン国にある城はいつもより騒々しくなっていた。城にある裏庭で日課の鍛錬をしていたシュウ王子は刀を振るのをやめ、後ろから声をかけてきた自身の部下をそのオレンジ色の瞳で睨み付けた。


「そう睨むな、シュウ。ジャックになりうる奴が来たんだ」


「本当か?」


「ああ。お出迎えと行こうじゃないか」


「そうだな、ルディエル」




 城内に入ると龍馬と城の兵士が乱闘しており、シュウはおでこを抑えため息を吐いた。


「ルディエル」


 ルディエルはシュウの言いたいことを察し、乱闘の中に飛び込んだ。シュウはそれを確認すると、乱闘の様子にうろたえていた数人の新人兵士らしき兵に指示を出した。


「ちっ、埒があかねぇ。だが、上等だ!! 全部刺し殺してやるよ!!」


「それはやめてくれるとありがたい。これ以上荒らされたらたまったものじゃないんでね」


「誰だ!!」


 龍馬は長槍で自身の周りを切り裂くように横に振り回す。だが、龍馬はその声の主を完全に捉えきれなかった。


「ちっ、逃したかっ!」


 龍馬は長槍を握り直し、仕切り直しの態勢に入った。そして、ここ一帯を穿とうと槍に魔力を込める。


「落ち着いてくれるか、龍馬君」


 目の前に自身の槍を掴んでいる男が突如として現れ、龍馬は目を大きく見開いた。先ほどの攻撃が微かにあたっていたのか、ルディエルの頬には横一線の怪我ができていた。血が頬をつたっている。

 槍にためた魔力が霧散させられる。


「そっちからしかけてきたんだろうが」


 龍馬はルディエルを睨み付け、身体強化を強めた。だが、ルディエルも身体強化を強め、槍を掴む力を強めた。


(ビクともしねぇか……。なら、あの能力を使うか。条件はそろってる)


 能力発動――――


「そこまでにしとけ。それ以上やるなら、こちらも本気でいく。こちらの無礼はお詫びしよう」


 二人の前に一本の道が開かれる。先ほどまで指示を出しながら遠目で様子を伺っていたシュウはブーツの音をコツコツと鳴らしながら、その道を進み、二人の目の前に姿を現した。


 龍馬はすぐに目の前の茶色と白が混ざった髪の男がただ者じゃないと分かった。周りがシュウに道を開けたのもそうだが、何より、魔眼に映る魂の色が他と一線を画している。これは……、後天的か?


 だが、龍馬はそれでひるむほど精神力が弱いわけではない。


「だから、やめろってか? 本気で言ってんのか?」


「冗談なんかかわす仲でもないだろう。まあ、これで納得するとは俺も思っていない。だからお前の求める情報を一つ開示しよう」


「何?」


 龍馬は怪訝そうに眉を寄せる。

 シュウはそんな龍馬の肩に手を置き、耳元で情報を告げた。


「ステルベンは生きている。姿を変えてな。今の名は、ルバニカ」


「お前らが、生き返らせたのか!!」


 神鳥族なら、不可能ではない。見つかったら裏ギルドに消されるが、この国でそれをやっているならそのデメリットはなくなる。


「ほう、知ってはいけない情報まで知っているか」


「なら本当に」


「勘違いするなよ。俺があいつを生き返らせるメリットなんかない。それに、今お前が生きているのは俺のおかげだ。戦い続けていればお前は死んでいた」


「何を言ってやがる」


「続きは別室で、だ。お前も用があるからこの国に来たんだろうしな。入国の仕方を間違ったことはなかったことにしといてやる」


「……ちっ」


 龍馬が槍を握る力を弱めると、ルディエルは槍から手を放し、頬の血をぬぐった。



「お前が怪我するなんていつぶりだ?」


「さあな。――だが、少々腕が鈍ったな」


「……腕は鈍っていない。それどころか向上してる。あいつの力が前に見かけたときよりかなり成長しているだけだ」


 後ろを大人しく歩いてきている龍馬をちら見し、シュウはルディエルにそう言った。ルディエルはシュウの言葉に納得し、「そうか」とだけ言葉を返した。


「この部屋でいいか……。二人とも入れ」


 シュウは二人を入るのを確認し、自分も部屋に入ると扉をパタリと閉じた。そして魔法を紡ぐ。


『我が命じる。音を阻害しろ』

『我が再び命じる。この部屋の侵入を禁じる』


「――それじゃあ、聞かせてもらおうか。お前の用をな」




 シュウは、後ろに立っているルディエルが注いだコーヒーを口に含むと、カップの中を見つめた。まるで、何かを思い出しているように龍馬には見えた。


「三人の行方か……。お前のことだ、情報屋に当てがないわけじゃないだろう?」

 

 言ってしまえばただの人捜し。人捜しにしては少々人数が多いがそれだけだ。ギルドやヴァリテイターなどに頼むだけでいい。秘密裏に探るという線もなさそうだ。もしそうだったら、目立つことは避けたいはず。

 なら、ただの人捜しではないということ。見る限り、底抜けの馬鹿ではないようだし、何かが他にある、とシュウは思った。


「あんたの言うとおり、当てがないわけじゃねぇ。最初は俺も情報屋を利用していた。だが、突然情報が入らなくなった」

 

「それはいつの話だ?」


「約半月前だ」


「半月前……、半月前と言うと、アヴァイル国とシネラリア国との戦争があったか。戦争にしては、死者が少なかったな」


「俺は、この国も疑っている」


 龍馬は手を前に組むと、顎に手を当て思い出しているシュウをじっと見つめた。


「それは、最近怪しい動きをしている連中から聞き出したのか?」


「そうだ」


 怪しい連中を信じる訳では無いが、本当に白かどうか確認する必要はある。邪魔をするやつは容赦しない。


 怪しい連中が情報規制に関わっているのは分かっている。規制されていないのを知らない様子からして白だとは思うが、もしそれが嘘だったら?


 カマをかけるしかないかと口を開きかけようとした龍馬だったが、シュウの方が口を開くのが早かった。


「その連中、死ぬ前にこう言ってはいなかったか?

【明星に栄光あれ】と」


 シュウの言葉に龍馬は怪訝そうな顔を浮かべ、


「俺が聞いたのはその言葉じゃない。俺が聞いたのは

【星影に栄光あれ】だ」


 告げる。


「そうか……。話が逸れたな。三人の行方について情報が欲しいんだったな。その情報を与えることができない訳じゃないが、代わりにお前は何を差し出せる?」


 シュウは考える素振りを見せた後、鋭い瞳で龍馬を見据え、対価を要求した。

 龍馬はカマをかけるのは止め、単刀直入にシュウに尋ねることにした。

 シュウには通用せず、無意味だと龍馬の直感が訴えたからだ。


「その前に聞きたいことがある。あんたらはどうして情報を規制されていることを知らなかった? 質問に答えたんだ。答えろ」


 この国は優れた情報屋よりも情報を持っている。アヴァイル国にいたときに、リュカから聞いたことがある。アヴァイル国ではリュカしかそれを知り得なかったが、リュカが嘘をつくとは思えないから間違いないだろう。


「簡単なことだ。情報として掴んではいるだろうが重要なことではないと判断され、俺のところまで情報が来なかった。もしくは調べきれていない、それだけだ。そうだよな、ルディエル」


「ああ、一部の情報が規制されそうになっているとはメアリーから聞いてはいた。だが、まだ調べきれていないことがあるから、調べ終えたら一緒に話すと俺は聞いている」


「連中の敵だと思っていいんだな?」


「ああ、そうだ」


 魂の揺れからして嘘は二人ともついてはいない。元から白寄りではあった。信じていいのだろう。もし、そうじゃなかったとしたらシュウは龍馬の手に余る。


「俺が差し出せるものだったな。俺が差し出せるものは――――」






「ルディエル、龍馬を育てろ」


 外はすでに日がくれており、深夜に入ろうとしていた。自室にいるシュウは窓際に立ち、赤い宝石に向かってルディエルに繋げた。


「決めたのか?」


「ああ。――俺は他にやることがある。くれぐれも死なせるなよ」


「了解」


 宝石から光が失われ連絡が切れると同時に、窓からノック音が鳴り響いた。シュウは窓を開け、ノックした人物を自室へと迎えた。


「あなた様でしたか」


「悪いが、少しの間泊めてくれ」


「それはいいのですが……。大丈夫なんですか、アランは」


「今のところは無事だ。だが、そろそろタイムリミットが迫っている」


「……そうですか……」


 シュウはほっとすると同時に肩を下げる。金色の髪をした男は空を見上げ、


「シュウ、裏切り者を突き詰めたか?」


 情報を共有しようと話し始める。シュウは頭をあげ、机に向かって歩くと、一冊にまとめられた書類を手に取り、男に手渡した。


「一応、情報はまとめました。ですが、今日不可解な言葉を聞きました」


「不可解な言葉?」


「はい。書類に書いてあるように、裏切り者を特定できました。ですが、龍馬が聞いた言葉は俺たちと違いました。

【星影に栄光あれ】

 この言葉の意味が何を示すのか分からない」


「【星影に栄光あれ】か……。星影で思いあたる人物がいないわけではないが、その人物はすでに死んでいる。他にいるのか、もしくは――――」


「人物を指す言葉ではないか、ですか」


「そうだな」


 金色の男は四人の英雄の一人を思い浮かべる。だが、四人の英雄は二人を除いて死んでいる。一人は厄災の犠牲によって。もう一人は勇者によって。ここ最近でまともに生き返った人は死の代行者を除き、一人だけしか男は感じ取ってはいない。だが、もし英雄が生き返ったなら? 男が気づかないはずがない。やはり、人物を示す言葉ではないのか?


 男が思考を巡らせていると、シュウのポケットが揺れた。


「すみません。メールです」


 男は首を動かし、見ろとシュウに促す。シュウは頷くと、メールを開く。シュウはメールの内容を男にも見えるように空に浮かび上がらせた。


「メアリーからか」


〖ティアいた レはどこ? 来い やばい 厄災〗


「相当、まずい状態ということか」


「そうですね。メアリーがこんなメールを送るなんてよっぽどのことがあったんでしょう。――俺が行くしかないか。レナードは今ディラン達のところだ。別ルートで侵入しているメアリーは、メールからしておそらくバレたのでしょう。そのメアリーと会えばレナードはスパイだとバレる可能性が高い」


「いや、私が行く。シュウは厄災の方を頼む」


「分かりました」


「ユースティアは絶対連れ戻す。今死なれると困る」


「素直じゃないですね」


「ケンカ中だが、メアリーの言うことなら聞くだろう。そっちは任せたぞ」


「はい。気をつけて」


「は、誰に言っている」


 男は笑みを浮かべると暗闇に姿を消した。


「ユースティア、無事でいてくれ」


 シュウは机に置いてあったペンダントを握り、イスに座り込んだ。




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