王女との再会
三人で布団を洗っているときに王女は現れた。元王女と言った方が正しいのかも知れないけど。
「久しぶりね。二度と会うことはないと思っていたわ」
「そうですね。久しぶりですね、シア王女」
王女に興味もなかったから振り向きもせず無心に布団の血を落としていた僕だったが後ろから氷の刃が頬をかすった。思わず、頬をつたった血を手で触る。この程度の攻撃なら今の僕に効かないと思っていたけど想定より強い威力の攻撃だったようだ。
「ケンカを売っているのかしら? 私は、ケンカは買う主義なのだけど?」
「ケンカを売る? そんな無駄なことしたつもりはないんですけど。自意識過剰ですか?」
背中で怒りをひしひしと感じながらも僕は淡々としていた。心底興味ない。せいぜい邪魔だけはしないで欲しい。
「あなた、長いこと離れていたみたいだから忘れているようね。首輪は外されていないわよ」
「がっ」
体中に電気が流れたように衝撃が走る。アズとツクヨに電気が水を介してしびれていないので実際に流れてはいないのだが。それに、頭がガンガンする。どうしてこいつがこれを操作できるんだ?
「分かったら私に逆らわないでちょうだい」
少し気が晴れたような顔をしてるが不愉快だ。僕はシアの手首を掴み、壁に体を叩きつける。
「何の真似だ。あんまり僕の逆鱗に触れるようなことしないでくれないか。殺すぞ」
「あら、陳腐なセリフね。驚きはしたけれど弱っているあなたにそんなこと言われても怖くも何でもないわ」
頭上で手首をつかまれ壁に叩きつけられてもなお目を細め、堂々とした態度のシアに僕はさらに怒りのボルテージが上がる。
「はっ、本当に口は達者だな。その口、無理矢理閉じさせようか」
「できるものならやってみなさい」
シアが魔眼を発動させようと目を見開いた直後だった。僕の体に水が飛んできたのは。
「リアンも布団洗ってほしいのだわ。早く遊びたい」
「早く遊ぶ。リアンサボりダメ」
アズとツクヨがそう言いながらも二人で水遊びを始めてしまった。
僕は興味を失ったシアの手を放した。そして二人の子供に聞こえないように耳元に口を寄せる。
「あんまり僕を怒らせるな。次はこの程度で済まさないから」
威圧と殺気の含まれた声にシアの肩が思わずびくりと震える。最初にあったときと全然違うと思ったけれど、認識を改める必要があるとシアは思った。リアンはすでに人間をやめている。
「二人とも、水遊びしてないで早く布団を洗うよ。血がやっと落ちてきたところなんだから。今のうちに落としきらないと」
「は~い」
二人は元気よく手をあげ僕の両隣に座った。そして一緒に洗い始める。シアはそれを眺めていた。手伝いはしないようだ。
「シア、帰ったら? 用ないでしょ?」
「用ならあるわ。主さまにあなたの監視役を頼まれているもの」
「そう。それは面倒ごとを押しつけられたね。ご愁傷さま」
シアの額に血管が浮き出る。静かに怒っているのが振り向かなくても分かるほどに。
「リアン、早くふ、ふ、布団を洗い終わるのだわ?」
「アズの言うとおり。早く布団を洗い終わってシアから離れたい。怒ったシア怖い」
「何、そんなに怯えているの? まあ、早く洗い終わるのは賛成だけど」
三人で急いで布団を洗い終えるのだった。あとは近くに転がしていた死体をどうするかだけど。埋めるのはめんどくさいし、火葬か?
「ねえ、二人はいつも人形遊び終わった後、その人形どうしてたの?」
「お人形? お人形はビームで消滅させてたわ?」
「アズの弓の練習の的にしてた」
「そうなんだ」
焼却場に持っていった方が無難か。
「二人はここで布団、干しといてくれる? 僕はこの死体捨ててくるから」
「任せて」
「ちゃんと干す」
「それじゃあ、よろしくね」
僕は死体の足を掴み、引きずりながら焼却場に向かった。その後ろをシアが着いてくる。
「どこまで着いてくるの?」
「……」
「無言か。――――――ここにいていいのか。ロジェのこと捨てきれてないでしょ?」
焼却場に死体を投げ捨てると僕はシアになんとなく頭に浮かんだことを尋ねた。答えが返ってくるとは思ってなかったけど予想と反して答えが返ってきた。
「そうね。あの子のこと捨てきれない。捨てたはずなのにおかしな話だわ。私は理不尽な世界を壊すと決めたのに。でも、今更そんなこと思っても無意味ね。正直、会わせる顔がないし、壊したい気持ちは変わらないから。だからせめてあの子と二度と会わないのが一番いい方法ね」
シアの顔が火で揺らめく。無機物を見るように僕の投げ捨てた死体の燃える様を見ていた。僕はそんなシアを黙って横目で見ていた。
「この人もかわいそうね。理不尽にあの二人に殺されて」
「別に、かわいそうだと思わないけど?」
「どういう意味かしら?」
「弱いのが悪かったでしょ? それに二人の話だとこの人、化け物って言ったらしいね。言葉といえども先に攻撃してきたのはこの人。攻撃するなら攻撃される覚悟をもっているのは当たり前のことだ。それで死んだなら自業自得」
「あなたってそういうところは真面目というかなんというか。昔より、暴虐性がなりをひそめたみたいね」
「僕はもう戻る。……行くぞ」
「意外ね」
「何が?」
「わざわざ行くぞ、なんて言うと思わなかったわ。勝手にさっさと行くかと思ってた」
「そうして欲しいならそうするけど」
「いいえ。今の方がいいわ。長い付き合いになりそうだしね」
「エスコートはいらないよね」
「ええ、いらないわ。私はもう王女でもなんでもないのだから」
二人は行きと同じではなく、隣に並んで歩き出す。アズとツクヨの元へと。
「ねえ、アズ。リアンはわたしたちと一緒にいられるかしら」
「いられると思うわ。リアンという名前はディランの秘蔵っ子と同じ名前だもの。きっと同じ人物だと思うわ。ツクヨが長くいられるかも」
「今度の人は間違って殺さないといいのだけど」
「あとはシーツだけね。早くリアン戻ってこないかしら?」
「いっぱい遊ぼうね」
「ええ、いっぱい遊ぶわ」
二人は笑いながら洗った大きなシーツを広げる。洗剤の香りが空に漂う。そんな二人の様子が僕とシアに遠目で見えた。ちゃんと真面目に干してくれているようである。
「二人とも、戻ったよ。遊ぶんでしょ?」
「ええ。なにして遊ぼうかしら?」
「シアも遊ぼう?」
「えっ、私も?」
「そう、シアも。シア、今怒ってない。なら一緒に遊ぶ」
ツクヨがシアを誘い、手を握る。そしてアズもそんなツクヨの真似をしてシアのもう片方の手を握る。
端からみたら世間一般的な微笑まし光景。まさかここでこんな光景を見るとは思わなかった。まあ、それも今のうちだけだろうけど。
僕はそんなことを思いながら、四人の輪に混ざるのだった。




