表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は幸せになるために復讐したい!  作者: 雨夜澪良
第一部 一章 出会い
5/107

第四話 リアンの夢

『今まで、楽しかったか?』


『あはははは……!!』


 嫌悪を含んだ女の人の声。それに対し嘲笑う男の人の声がした。

 銀髪の女は、嘲笑う男の喉元へ刀を突きつけていた。その刃先は首の寸前でぴたりと止まっている。


『何がおかしい……?』


『あの子は、すでに……だ……! ……はあの……と今や……。あの子を止められるのは僕だけさ。ここで……』


 何かを言いかける男の声が、突然ラジオの砂嵐のようにかき消された。⸻途切れ途切れに言葉の残響だけが耳に残る。


 女は刀を下げかけたが、すぐに表情を険しくし、再び振りかぶる。だが⸻斬撃の手応えはなかった。


 首は、落ちていない。


 舌打ちをひとつ。女の姿が一瞬で消えた。



 ……あれは……お父さん?


 後ろ姿だけが、うっすら見える。でも声は、砂嵐にかき消されて聞き取れない。


 それに⸻銀髪の女性。あの人を、追わなきゃ。そうしないといけない気がする。


 ……速い。でも今の僕なら、追える。


 理由なんて分からない。けれど、どうしても⸻。



 必死で走り続けると、やがて女は立ち止まった。僕も足を止める。


 辺りを見回して、息が詰まった。


 ⸻地面が、青い炎で覆われている。


 その中心に、血の海があった。赤と青が交じり合う光景は、あまりにも残酷で、僕は思わず後ずさった。


 背中が何かに触れた。


 ……いやだ、振り向きたくない。分かっている。きっと⸻。


 ゆっくりと振り向くと、そこには転がった人の腕があった。その奥に、倒れている人影。生きているのかどうかも分からない。


 そのとき、女が僕の方へ歩いてきた。身構える。戦うしかない⸻。


 ……でも、女は僕を通り過ぎた。


 まるで僕のことなんて、存在していないみたいに。


『やってくれたな。……私は、お前を許さない。安らかに眠れ』


 女は腕を失った女に低く言い放つ。その瞬間、青い炎が白い霜へと変わり、世界は凍りつく。


『ティア、寒いよ……』


 傷だらけの男が、震える声で呟いた。

 その名を呼ばれ、女⸻ティアは顔を強張らせた。男のもとへ駆け寄り、抱きしめる。


『……良かった。生きてた。もう、こんな思いはごめんだ。もっと、自分を大事にしてくれ』


『はは……。そんな顔、久しぶりに見た。いつもは弱音なんて吐かないのにな』


『……そんなこと言ってると、本気でしばくぞ』


 ティアの声が震えている。

 男は、苦笑した。


『言いにくいんだけど……俺、この子を助けるために、しばらく眠る』


(え……?)


 男の視線は僕を捉えていた。

 ティアが男の肩を掴む。切羽詰まった声が漏れた。


『なんで……。もういいだろ。もう一緒に帰ろう。……そこまでしなくていいだろ?』


 男は、ゆっくり首を振った。


『ごめん、ティア。……俺は、この子を見捨てられないんだ』


『どうして。どうしてお前は、そうやって……。私は、お前がいないと、生きていけない……』


 男は、子供をあやすように彼女を抱きしめ、背を撫でた。


『大丈夫。眠るだけだ。死ぬわけじゃない』


『……嘘だ。そんなの、嘘だ……』


『絶対、生きて戻ってくる。……約束する』


『もうこれが最後だから。お前のわがままに付き合わされるのはこれが最後だから。約束』


『ああ、約束だ』


『……そんなこと、させない。お前らには、ここで⸻死んでもらう』


 ⸻え?


 今の声。あれは僕……?


 いや、違う。あれは僕じゃない。あれは……誰だ。


 頭の奥が、きしむように痛む。何かが流れ込んでくる。


 ⸻ちがう。こんなの知らない。


 あの人たちは、僕を殺しに来た……? でも、僕は⸻。


 やめろ。もう、やめてくれ。


 僕は……僕は二度と⸻。


『二度と……操り人形にはならない。絶対に⸻』


 喉の奥から、押しつぶした声が漏れた。


 ⸻もう、何が真実で、何が嘘かも分からない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
〈応援よろしくお願いいたします〉 「面白かった!」 「続きが気になる!」  と思ったら  下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をよろしくお願いいたします。  ブックマークもいただけると作者のモチベーションが上がります。そしてものすごく嬉しいです。  何卒よろしくお願いいたします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ