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僕は幸せになるために復讐したい!  作者: 雨夜澪良
第二部 一幕 叛逆の狼煙
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理想郷

「ちょっ、ちょっと待って、剣を向けないでよ。怪しいものじゃないからさ」


 僕は剣を向けたまま、慌てて手を振りながら否定している目の前の人物をじーっと見つめた。


 どう見ても怪しさしかない。こんな夜中に僕に話しかけるなんて。それにさっきまで人の気配なかった。ただ者じゃない。リンさんやオリヴィアさんみたいな強い人特有の気配みたいなオーラを感じる。


「僕だよ、僕!!」


「オレオレ詐欺ならぬボクボク詐欺ですか?やる相手間違っているんじゃないですか?」


「やめて、そんな軽蔑の眼差し向けないで。僕、傷ついちゃうでしょ!!」


 そう言った男は泣きながら僕にしがみついてきた。


 いつの間に僕の懐に入って?!動作が自然すぎて分からなかった。


「あの、離れてもらっていいですか?大の大人が子供に抱きつくなんてやっぱりあんたは不審者ですよね。一緒に交番行ってあげますから大人しくついてきてください」


 僕はその人の目線までしゃがんだ後、肩に手を置き哀れみの目を向けた。


「あれ、あっれれ~、おかしいな。僕のこと聞いてない感じ?だったらとりあえず自己紹介からだネ☆僕は魔法使いだよ☆」


 やっぱりこの人おかしい。仮に本当に魔法使いだとしてまさか下ネタとかの方を言ってるとかじゃないよね?それだったらなおさら初対面の僕にそれを言うのはおかしい。いや、この人が本当に不審者ならあり得る。やっぱり不審者だと思う。うん、逃げよう。


「え~っと、僕用事を思い出したので――さようなら」


 僕は自称魔法使いから目をそらしそう言い残すと全力で走った。


「あの人、本当にやばい。わたあめ屋のおじさんの言うとおりこの国物騒だよ。僕、絶対に不審者の餌食になるのはごめんだね。とりあえず、人が多いところに行けばなんとかなるかな……」


 いや、あえて路地裏とか人通りの少ないところに逃げ込んで透明○○○を羽織った方が確実か?


「君、そんなに走ってどうしたのさ」


「不審者から逃げているんですよ」


「ふ~ん、不審者ね……。僕が助けてあげようか?」


「えっ、いいんですか」


 うん?今僕、誰と話してるんだっけ?僕は声のする方向。つまり僕の横を思わず、見た。


「きゃあああああああ!!出たぁぁぁぁ!」


 僕は思わず悲鳴を上げた。なんでここにいるの?!僕、身体強化かけてなおかつ全力で走っていたのに!!僕に追いつけるなんて。やばい、やばい、やばい。どうしよう。


 僕の体から冷や汗が止まらない。


「悲鳴上げることないじゃないか。でも、追いかけっこはおしまいね。僕疲れちゃったもん」


 何を言って――――


緑の(グリーンオブ)理想郷(イ・ラプセル)


 何これ、僕の下の床が抜けた?!まさかの落とし穴!!まずい、つかまるところない。落ちる!!


「大丈夫、大丈夫、落とし穴の下に針がいっぱいあるとかじゃないからさ」


 物騒なこと言い残さないでよ。こんなことなら酒場から出た後大人しく宿に戻るんだった!!


 僕はそのまま落とし穴になすすべなくそのまま落ちたのだった。






 僕の意識が浮上する。どのくらい意識がなかったんだろうか。とりあえずここから逃げようと手足を動かそうとしたけど動かせなかった。僕、縛られてる?!


 イスの脚に僕の足がひもできつく結ばれていた。そして腕も肘掛けにきつく結ばれている。刀も剣も取り上げられてしまったようだ。


 まずいな。この状況。僕、このまま不審者に喰われるんじゃないだろうか。身体強化で無理矢理やればなんとかひもが切れるか?


 僕は身体強化をしようとした。しかし身体強化ができなかった。だったら能力でと思い、能力発動させる。


 能力発動『剣神の加護 霊鳥剣』


 発動失敗?でも鳥さんだけは出てきた。まあいい、鳥さんだけでも出てくれればなんとかなる。


「鳥さん、お願いします。このひもを取ってください」


 僕は鳥さんに頭を下げた。そんな僕に鳥さんはやれやれといった風な態度を取った。


「本当にお前はどうしようもないな。それにこの空間に来るとはな」


 鳥さんは僕に結ばれたひもを取りながらそんなことを言った。


「鳥さんはこの場所について何か知っているんですか?」


 僕はイスから立ち上がり聞いた。結構、強く結ばれたみたいだな。手がしびれるしひもの跡がくっきり残ってる。


「ここでの時間の流れは現実世界と違う。そして神と上位精霊以外許可なしに魔法も能力も発動できない緑の理想郷と呼ばれるところだ。長くいるところではない」


「そうなんですか。――僕、刀と剣取られたんだった。早く取り戻さないと!!」


「何、刀を取られただと?今すぐ取り戻せ」


「痛い、痛い、頭つつかないで。分かってるから」


 鳥さんはつつくのに飽きたのか僕の頭の上に乗った。


「さあ、行くぞ!あっちだ」


「刀の場所分かるんですか?」


「分かる。あの刀は特別だからな」


 前々から思っていたけどあの刀どれだけ凄い刀なんだろうか。ずっと気になっている。


 僕は人の気配がないのを見計らい部屋の扉を開け廊下に出た。そして慎重に鳥さんの言う方向に歩いて行く。今のところは遭遇してないけど時間の問題だ。遅かれ早かれ僕が脱走したのは気づかれる。その前にどうにかここから刀と剣を回収して脱出しないと。


 誰か来る?!僕は咄嗟に壁際の出っ張りのところに身を隠し、気配を消した。


 お願いだからこっちには来ないで。


「どうしてあんたはんはここにあの子を連れてきたん?」


 和服に身を包んだ少女みたいな姿の女性は顔を扇で隠し、隣にいる男に尋ねた。


「別にたいした理由はないよ。このままじゃダメだと思っただけさ」


「不審者と周りに言いふらされるのが嫌だけだったりするん?」


 女は男を茶化すようにそう言った。それに対し男は誰もがオーバーリアクションだろと思うような泣き真似をした。


「その話はしないでくれ。僕、これでも結構傷ついてるんだよ?」


「嘘つきやね。本当のところ、ちっとも傷ついてないやろ。この話は酒のつまみにでも使うわ。本当にここ最近で一番面白いわ」


 女はクスクスと笑った。




 女の人の声と自称魔法使いの人の声だ。


 もうここまで来ているなんて。急がないと。――――女の人、こっち見てる?なんだかニヤニヤしている。不審者は扇で丁度死角になっていて気づいていないみたいだけど……。見逃してくれるっぽいな。


 行ったか。心臓、バクバクしてる。あの女の人も相当手練れだ。あの不審者よりもおそらく実力は上だ。


「着いた。刀はっと。――――あった」


 僕は部屋の中を見渡し刀と剣を見つけた。そして腰にすかさず刀と剣を装備する。


「早く現実世界に戻らないと。――鳥さん、戻り方分かります?」


「とりあえず、この窓から外に出ろ」


「了解です!」


 僕は窓を開け、そこから脱出に成功した。


 緑がすごい。エルフの里より緑が多い。というか全てが緑でできてる?


「しょうがないから私が元の世界に戻してやる。しっかり私につかまってろよ」


 巨大化した?!僕はすかさず鳥さんの背中に乗り落とされまいとがっしりつかまった。


 上に向かって飛んでる。そしてトンネルらしき変わった空間に入った。うっ、まぶしい。


「着いたぞ」


「戻ってこれた」


 安心して僕の全身の力が抜ける。まだ夜みたいだからそんなに時間は経っていないみたいだ。


「早く宿に戻れ。いつあの男がここに戻ってくるか分からん」


 鳥さんのサイズはいつの間にか元に戻っていた。


「うん。そうだね。今日はもう情報収集もできないみたいだし」


 僕は宿に向かって走り出した。


 宿に着き、急いで部屋に入る。僕は扉を素早く閉めると扉の前に座り込んだ。


「本当になんか現実味ない経験しちゃったな。明日も絡まれたらどうしよう。鳥さんもロジェもエアリエルもいるから大丈夫だと思うけど……」


 僕は盛大なため息をついた。


 そういえば鳥さんと言ってたけど名前なんて言うんだろう。それにどうして能力発動しないはずなのに発動できたんだろう。剣神の加護だから能力発動できた?でも剣神の加護でも鳥さん以外は発動失敗だった。鳥さんっていったい何者なんだろう。鳥さんは能力の一部だと思っていたけど違う?


 鳥さんの声で僕の思考は止まった。僕は膝に埋めていた顔を上げ鳥さんを見た。


「お前が考えていることはなんとなく分かっている。でも、まだ時期じゃない。時期になったらちゃんと話してやる。今日は休め。眠れないと思うがベッドに横になるだけでも体は休まる」


「鳥さんは僕のこと何でも知っていますね。もしかして8年前のことも……」


 鳥さんは今言うことはないと言わんばかりに口を閉ざした。やっぱり知っているんですね。


「分かりました。今はもう聞きません」


「私は少し行くところがある。だから私がいない間無茶はするな。何かあったら私のことを強く思え」


 そう言い残し鳥さんは窓からどこかへ飛んで行ってしまった。


 僕は汗を水で濡らしたタオルで拭き取りベッドに横になった。



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