契約
「そういえば袋の中身ってなんだったの?」
ロジェは悪趣味だって言ってたし、エアリエルも触るの嫌そうだった。やばい物なんだろうか。どうやばい物か知らないけど……。
「聞きたいの?聞かない方がいいよ。リアンは怖がりでしょ?お化けとかグロいの苦手だもんね~」
えっ、じゃあ、あの中身はお化けかグロい物ってこと?ひえっ。
「それより私、リアンと契約したいな~。ね、ね、いいでしょ?きっと私役に立つと思うよ?」
「契約?」
「うん、うん」
エアリエルは頷きと同時に激しく首を振った。
そういえば僕どうしてエアリエルの声聞こえているんだろう。今、ロジェ能力発動してないよね?
僕は思わずエアリエルの隣にいるロジェの方を見た。
「妖精はね、自分が気に入った人には声を聞かせるんだよ。だから普段聞こえない人でも気に入られた人はその妖精の声だけは聞くことができるようになるんだ」
へえ~、そうなんだ。なんかすごいな。僕、エアリエルに気に入られたんだ。こんな短期間で?僕、そんな好かれる要素あったかな。自分で言って悲しくなるけど……。まさか、勧誘か?!これがこの土地流の勧誘なのか?!
「リアン兄ちゃん、多分考えていること違うよ?」
「それより早く契約しよ!」
「僕、契約の仕方分からないよ?」
僕は首をかしげた。そんな僕を見たエアリエルは咳払いをし、真面目モードに入った。
「それでは私が勝手にやらせてもらいます」
エアリエルと僕の下に一つの大きな魔法術式が展開される。
「私と契約してくれますか?」
エアリエルは笑顔で僕に手を差し伸べた。
「はい」
僕はエアリエルの手を握り、立ち上がった。
「ここに契約は完了した。これより私たちは契約が切れるまで共に運命を共有します」
……ん?
………んんん?
………………今、最後に不吉なこと言わなかった?
僕はすぐさまロジェの方を見た。僕から冷や汗が流れる。えっ、僕やっぱり騙された?!さっきからロジェ、僕と目を合わせてくれない!!
「あ~、リアン兄ちゃん今、結構強い契約結ばれたね。でも強くなれてよかったじゃん…………重いよ、本当に」
「ちょっと待って?ロジェ今最後にぼそっと言ったよね?!なになになに、怖いんだけど!!」
「リアン兄ちゃん大丈夫だよ。なんとかなるって」
ロジェ、そんな哀れみの目で見られても一つも安心できないんですけど!!
「は~、ちゃんと契約できて良かった~。失敗してたら四肢が飛んでたもんね~」
こっちもこっちもでなんか物騒なこと言っているし!!本当にそういうのやめてよね!!
「はっ、そんなこと言っている場合じゃなかった!! オリヴィアさんとハリーさんは――」
「リアン君、あそこの家に入りましょう。といってもあそこしか無事な家ないんですけどね?」
いつの間に後ろに!!これはリンさんと同じ現れ方だ。リンさんのあの現れ方はハリーさん譲りだったのか。
「少し里から離れていますね?二人とも大丈夫なんですか? それにその棺は……」
「さっき回復薬飲んでだいぶ回復しましたから大丈夫です。棺はあとでリンにある場所に運んでもらいます」
オリヴィアさんが棺を守るように結界を展開した後僕たちは家に向かって歩いた。
「オリヴィアさん、大丈夫ですか?」
回復薬飲んだと言ってはいたけどつらそうだ。
「だい、じょう――」
「オリヴィアさん!!」
僕は咄嗟にオリヴィアさんを受け止める。意識がない?!
「疲れて寝てしまったのでしょう。だから大人しく私に背負われていれば良かったのに。意地を張るから」
僕はそれを聞いて安心した。良かった。寝ているだけか。
僕は腕の中にいるオリヴィアさんを起こさないようにそっと背負った。
「それこそ、リアン君こそ大丈夫ですか?」
「はい。さっき、リンさんに回復薬飲ませてもらいましたから」
「そうですか」
ハリーとロジェ、二人ともこのとき同じことを考えていた。
先ほどのララが言った能力は嘘だろう。魔法無効化を使ったとき確かにリアンの中にとどまっていた魔法を無効化した。しかし能力が本当に保存なら心臓を燃やしていたことによるやけどは治らなくリアンの苦しみは続くはずだ。能力を解いた、もしくは魔法だけを保存していたと考えればおかしくはないのだがそのせんは薄いだろう。来た理由がリアン討伐だったからだ。それにあの袋の中身。
今考えるのはよそう。今は生き残れたことをかみしめよう。そして二人は考えることをやめた。
「着きましたね」
僕は部屋にあったベッドにそっとオリヴィアさんを寝かせた。
その間、ハリーさんはお湯を沸かし、ロジェとエアリエルはダイニングの椅子に座って何か話していた。
「それにしても一見落着して良かったな」
僕はあいているイスに座りそう言った。
「そうですね。リアン君には改めてお礼を言わないといけませんね」
ハリーはお湯が沸いたのか僕たちの前にお茶を置き、僕の隣に座った。
「別にいいですよ。みんなが各自できることをやった。それだけじゃないですか」
そう、各自できることをやった。だから自分だけがお礼を言われるのはなんだかむずがゆい。
「いえ、私たちはあなたがいなければ生きることを諦めていました。もう死ぬだけだと。でも今こうして生きている。それはあなたが確かに成し遂げたことです」
僕はうつむいた。
素直に喜べないな、これは。ハリーさんはきっと長としてこう言わざる終えない。そう思ってしまう。暗殺者の里はもう壊滅状態ではあるけれどでも……。
「僕はあなたの、ハリーさんの弟を――」
そうなのだ。僕はオリヴィアさんと一緒にあなたの弟を。だから僕はお礼を言われることなんてないのだ。
「弟を、カイルを思ってくれてありがとうございます。リアン君は知らないかもしれませんが私たちはすでに討伐されるべき存在になっているんです。だから気に病むことはないんです」
「討伐されるべき存在って……。そんなこと――」
僕は顔を上げ、ハリーさんを見た。でもハリーさんはゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、私たちはもうすでに人間をやめているんです。――吸血鬼とはここではそういう存在です」
そんな事情があるなんて知らなかった。でもだからって僕は納得できない。ハリーさんたちが討伐されるべき存在だなんて。こうして話せるじゃないか。
「それにカイルはきっと自分ではどうしようもないと思って死ぬことを選んだんだと思います。だからいいんです」
ハリーさんの顔は穏やかだった。
強いな、ハリーさんは。僕はここに来てからいろんなことに振り回されっぱなしで心をかき回されっぱなしで、でもオリヴィアさんたちといるが楽しいのも事実で。
「しんみりとしてしまいましたね。みなさん、もう一杯お茶でもいかがです?」
ハリーさんは話を切り替えるように元気よくそう言ったのだった。