発動
能力発動『剣神の加護 霊鳥剣』
僕の剣から神々しい金色の鳥が一羽放たれる。
僕は先ほどまで見えなかったものが見え始めた。そして紫色の気が僕に纏った。
「能力に目覚めましたか。これは予想外ですね。あなたがその能力を発動するなんて」
そう言ったハリーさんは鳥が形成され始めた瞬間に僕から距離をとっていた。
僕には予想外の結果だった。避けると思わなかったのだ。確かに僕は一縷の望みをこの能力に賭けた。もしかしたらこのまま殺されないですむのではないかと。僕も生き残りそしてリンさんも生き残る可能性が少しでも生まれるのではないかと。でも僕のいつもの不運ではその賭けには正直負けるだろうと思っていた。それにハリーさんの実力であれば僕ごとその鳥を刺して終わりだと思っていたから。
あの人の鳥だと思う。あの人には助けられてばかりだ。
「ハリーさん。もうこの戦いをやめませんか?僕ははっきり言ってあなたと戦いたくないんです。だってお互いにとって大事な人じゃないですか」
ハリーさんはナイフを下ろしうつむいた。しかしそこには少しも隙はなかった。いつでも僕を殺せると言わんばかりに。
僕は警戒態勢を緩めなかった。おそらく緩めた瞬間殺られる。
「そうですね。私も正直あなたを殺すのは気が進みませんよ。でも今回のことはそう簡単なことではないんですよ。それにもうすぐ鬼が目覚めここに来ます。そしたらあなたたちは残虐に殺されるだけだ。だったらここで痛みのないように殺すのが私の優しさであり、止められなかった長としての責任です」
ハリーさんはそう言い残すとすぐさま僕に向かってきた。
「どういうことですか!!鬼は僕たちが倒した吸血鬼のことではないんですか!!それなら先ほど倒しました。だったらもうこの戦いは無意味ではないですか!!」
鬼と吸血鬼は別のもの?でもどっちも鬼だよね。ただ西洋か東洋かで鬼の概念が多少違うだけじゃないのか。この一件は吸血鬼退治だけじゃなかったの?
「カイルのこと、言っているんですか?カイルのことではありませんよ。私たちの暗殺者の里に眠っている鬼です。言うなれば私たち里の者の業の塊といったところですか」
全くもって分からない。眠っていたのはハリーさんではないか。それ以外にもいるの?それに業とはなんだ。人を殺したことによる業なの?それで鬼が生まれるとでも言うのか。それとも――
「別に考えることはありませんよ。特にあなたは私が殺さなくても第二の刺客が待ち受けてますから。きっと私に殺された方がお得ですよ?」
「そんな客に勧めるみたいに言わないでくださいよ!!僕はここで死ぬのは御免被りますから!!――というか第二の刺客ってどういうことですか!!」
ハリーさんはため息をついた。
ため息つくことないじゃないか!!そしてハリーさんは僕の方を、いや違うな。僕の奥にある建物を見ている?
「君、質問ばかりですね?ちょっとは自分で考えたらどうですか?」
イラっときた。今イラッときた。
「僕はここにきてからまだ日が浅いんです。右も左も分からない状態でここの常識も分からない状態で考えろって言うんですか?そんなの考えたところで分かるわけないだろ!!」
「はは、それは失礼しました」
笑顔で言ったよこの人。本当に人を腹立たせる天才か。
それにしてもこの金色の鳥、出てきたのはいいけどちっとも仕事してくれないよね?というか、のんきに僕たちを傍観しているだけだよね?いや、出てきてくれたのはありがたいよ?確かにね?そのおかげで僕は一命を取り留めたし。
僕は金色の鳥にチラチラ視線を送った。すると、金色の鳥と目が合った。あ、分かってくれたのかな?お願い、助けて。僕だけじゃハリーさん説得できないし止められないよ!!
―――――――――こいつ、今唾はいた。しかもなんかゴミ見るような目で見てない?なんか身振り手振り始めたし。
訳)お前の言うことなんか聞くわけないだろ。気を纏わせてあげるだけありがたいと思え
なん、だって?お前、僕の思いに答えて助けに来てくれたんじゃないのかよ!!
「何百面相しているんですか。あの鳥、あなたを主と認めていないようですね。というか主従逆転してますね。まあ、その方が私にとって都合がいいですけど。そろそろ終わりにしましょうか」
まずい、油断した。この一撃、僕の心臓一直線だ。避けられない!!
「そこまでだ。ハリー」
リンさん!!どうして?!さっきまで生気がないみたいだったのに。
僕はリンさんの顔を見た後ハリーさんのナイフを持つ手に視線を向けた。ハリーさんの腕をリンさんがつかんでる。すごい。あの一撃をこうも簡単に止めるなんて……。
「どういう心境の変化ですか?リン」
「ただ、誘われただけだ。もう少し抗ってみないかと」
ハリーさんは腕の力を緩めた。リンさんはそれを確認するとハリーさんの腕から手を離した。ハリーさんの腕がだらりと落ちる。
僕は刀を鞘に収めた。きっとハリーさんはこれ以上戦う気はないように見えたから。
ハリーさんはロジェの方に視線を向けた。
「あの子、ですか……。本当に余計なことしてくれますね。いい性格してそうですし。――――これからどうするつもりですか?鬼に一緒に無様に殺されますか?それともあそこにいる2人組に殺されますか?」
ハリーさんの声は弱々しかった。
リンさんは建物の方に目を向ける。それにつられ僕もその方角に目を向けた。
「あそこにいるのはヴァリテイターの連中だ。だから俺たちがやられることはない。問題は鬼だ。ハリー、詳しく教えてくれないか?鬼が目覚める条件と、どういう鬼なのかを。それにカイルとハリーが弱体化している理由を」
ヴァリテイター?初めて聞いた言葉。それにあの建物にいる人物の一人は日和さんだよね?雰囲気が違うから断言できないけど。他人のそら似かも知れないし……。
「リンさん、ヴァリテイターって……」
リンさんは僕の方を見た。そしてこう言った。
「ヴァリテイターは異世界の警察の本当の名だ」
「ねぇ、エアリエル。あなたは何に隷属されていたの?」
オリヴィアとエアリエルは戦闘をやめていた。どちらにも怪我は一つもなかった。
「負けちゃったか。――――隷属されていたのはリャナンシーにだよ。リャナンシーは複雑な魔法とか得意だからね。まんまとやられちゃったよ。私は複雑な魔法苦手だしね」
「でも、戦闘をやめたってことは隷属が解けたんでしょ?」
「そうだね。死んではいないみたいだけど瀕死ってところかな?」
エアリエルは無邪気に笑っていた。
リャナンシーから解放されてうれしいのか。それとも別のことか。オリヴィアが判断するには材料が少なかった。それだけエアリエルのことが分からなかったのだ。これが真の姿なのか、それとも腹黒いそこを隠しているのか。味方なのか敵なのか、それとも傍観者なのか。
「今回のこと、暗殺者の里に眠っている鬼と関係がある?エアリエル、あなたは全てを知っているの?」
エアリエルの行動は終始子供のようだった。でも馬鹿なわけじゃないのは知っている。本当にエアリエルの真意が分からない。
「う~ん、全てを知っているのかと言われればノーかな~。私はただ自由に生きたいだけなんだよね。でもあの人に頼まれごとしたのも事実だしな~。今言えることは当分の間は味方ってことかな。オリヴィアと勇者たち、それにあの人たちで封印した鬼。もうすぐ目覚めるから再び封印するにしろ討伐するにしろ協力するよ」
「鬼が目覚める?! だってあの鬼はあと1000年は眠っているはず。どうして今なの。勇者たちやあの人たちがいないときだなんて……」
「質問に答えるならイレギュラーと言いたいところだけど、イレギュラーじゃないんだな~これが。とにかく今は鬼に対処しないとね。リンたちと合流しよ!」
ほらほらといわんばかりにエアリエルはオリヴィアの手を引いた。
そして二人はみんなと合流する。