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回想

 ユースティアがヒエロニウスに射撃していた同時刻。


 シネラリア国のお城の客室、現在はオリヴィアが借りている客室にロジェが入ってきた。


「オリヴィア姉ちゃん、大丈夫?」


「ロジェ……。ロジェこそ大丈夫なの? あのとき、ロジェのお姉さんいたよね?」


「そうだね」


 オリヴィアとロジェはリアンの能力の暴走後、戦線離脱していた時のことを思い起こしていた。






◆◇◆◇


 オリヴィアとロジェ一行はリアンの暴走に巻き込まれないようにシネラリア国のお城に向かって逃げていた。


「オリヴィア姉ちゃん、あの人たちと知り合い? 相当な実力者だよね?」


「うん。友達。私たちなんてあの人たちの足下にも及ばない」


「そんなに?」


「うん」


「そっか。オリヴィア姉ちゃん、あんまり自分を責めないでね。僕も――――」


 ロジェの言葉が爆発音でかき消される。オリヴィアたちは爆発音がした後ろを振り向いた。


(これ、爆発じゃない。魔法!!)


 オリヴィアは腕で顔を守りながらも、その隙間から後ろの様子をうかがった。


 煙の中から人影が映し出され、オリヴィアの瞳がいち早く影の正体を捉えた。


(エルフの第三王女……!)


 オリヴィアに遅れて、ロジェが煙から出てきた王女を映し出す。


「シア姉様……」


「あら、いたのね、ロジェ? まあいいわ。今回用があるのはそこの聖女様の背中にいるリュカ王子だから」


 首を傾け、腰に手を当てながら、リュカ王子をじっと見る王女にみんなが驚愕の声をあげる。


 ただ一人、ロジェだけはギシリと歯を食いしばり、手を握りしめた。そして――――


「オリヴィア姉ちゃん。ここは僕に任せて。シア姉様は僕がなんとかする。だからみんなを連れて先に行って」


「そんなこと――――」


 できないと言う前にロジェが叫ぶ。


「オリヴィア姉ちゃん!!」


「ごめん、ロジェ。無事で帰ってきてね」


「大丈夫。シア姉様にとって僕は天敵だから」


 ロジェはオリヴィアの不安を取り除くように笑みを浮かべた。

 だが、それが返ってオリヴィアの胸を苦しめた。

 オリヴィアは口を固く結び、みんなを連れてひたすら走った。


「よかったのか? まだ子供だろ?」


 ルーカス王子が心配げにオリヴィアを見る。それに対し、オリヴィアは


「ロジェは強いからきっと大丈夫」


 無理に笑った。ルーカス王子はしばらく目を閉じると、


「そうか」


 笑みで返した。






◆◇◆◇


「あら、聖女様と一緒じゃなくてもいいの? お前が私に勝てると思っているの?」


「いいんだ。それに姉様は知らないもんね。姉様に追い出されたあとに僕はこの能力に目覚めたんだから」


「それが遺言でいいのかしら!!」


 能力発動『魔女』


 ロジェに向かってつららを飛ばす。しかし、つららは一瞬のうちに消え去った。


(どういうこと? この前の聖女のときと違う。あのときはつらら自体はあった。だけど今は……)


「だから僕は姉様にとって天敵なんだよ」


 能力『魔法無効化』


 この能力は文字通り魔法を無効化する。能力によって放たれた魔法であっても例外ではない。魔法である限りロジェに魔法は効かないのだ。


「本当に姉様はバカだ。あのとき、僕を城から追い出さなければこの能力が目覚めることはなかったかも知れないのに。姉様は僕を完全に切り捨てることができなかったんでしょ?」


 オークションに売られた際に、ロジェを守るかのように目覚めた能力。魔導具でさえもロジェを縛ることはできない。だからあの日、ロジェは完全に奴隷になることはなかった。


「知ったような口をきかないで。魔法を無効化できるから何? 私が魔法しか使えないとでも? 本当に、お前はいつもいつも!」


(本当にいつも私の心をかき乱す。私の決心を揺るがせる。これじゃ、龍馬の心配していた通りじゃない)


 魔眼発動『石化の魔眼』


「その魔眼は!」


(まずい! 足が硬直して……。このままじゃ本当に石化する!)


 能力発動『緑の環』


「妖精たち、僕を隠して!」


 ロジェを隠すように土の柱がロジェを囲む。


「どうしてそんなものを眼に!」


「主さまにもらったからよ。メドゥーサの石化の魔眼をね。それを自分に埋め込んだの」


「そんなことをすれば姉様は……!!」


「ええ、そうね。普通だったら飲み込まれるかもしれないし、死ぬかも知れない。でもここにいる時点で分かるでしょ? 私は適合したのよ」


(そんな……。前にあったときはそんな魔眼なかったのに。姉様はどうしてそこまで……)


 ロジェは目を腕で擦ると、まっすぐにシアを見据えた。


「本気でいかないと僕の方がやられるや」


「あら、今まで本気じゃなかったの? 本当に生意気」






◆◇◆◇


「ルーカス王子、アドルフさんの容態は?」


 アドルフさんはヒエロニウスと戦ったとき左足を落とされている。


 今は私の『聖女』の能力で腕をくっつけているけど血までは戻らない。それに切断面の神経がまだぐちゃぐちゃ。早くつなげないといけないけど移動している今それはできない。とりあえず壊死しないようにはしとかないと。


「私は大丈夫です。気にしないでください。オリヴィア様」


「アドルフ……」


 アドルフさんの額には脂汗が浮かんでいた。


 ルーカス王子が肩を貸しているとはいえ、このままじゃ城までもたないのは明白。


「それより、エイダンの方がもたないかも知れません」


「エイダン?」


「そこで息を切らしている人です」


「しょうがないじゃないですか。私は頭脳派なんです。体力なんて必要なかったんです」


 どうしよう。


 私は今リュカ王子をおんぶして回復をし続けてるけど回復しきれない……!

 あと一人運ぶくらいならいけるかも知れないけど戦争中の今、戦える人がいなくなるのは本末転倒。

 結界で守ってとりあえず置いていくっていう選択肢もあるけど…………いや、それはできない距離が離れれば離れるほど結界はもろくなる。手詰まりだ。


「……痛い!」


 いきなりチョップするなんて。


「何回呼んでも返事をしないからだ。オリヴィア、自分を追い詰めるな。会ったばかりで信用できないのかも知れないが少しは私たちを頼れ」


「ごめん」


「そういうときはありがとうっていうんだ」


「ありがとう」


「それでいい。オリヴィア、能力でできることを教えろ。嫌なら絶対に他言しないと魔法契約を交わしてもいい」


 魔法契約。


 魔法契約を破った場合ペナルティーが科せられる。被害と同等の。例えば秘密をもらせば自分の秘密もどこからかもれる、といったように。


「魔法契約を結んでくれるなら教える」


 そうして私とルーカス王子はそれぞれの能力を共有した。




「結界の強度は?」


「今も回復しながらだから魔法一発耐えられるぐらい」


「ギリギリだな。兄上に救いを求めたとして来てくれるかどうかも分からないしな。最悪見捨てられるかもしれない。でも、そこにかけるしかない」


 エイダンさんが手をあげて意見を言う。


「あの、ルーカス王子。私、言っていませんでしたが、この前ハロルド王子の賭けに勝ちました。だったらこの賭けでのお願いをここで使います」


「兄上……。賭けに弱いのに本当に懲りないな。だが、それなら私たちは助かる」


 こうして私たちはハロルド王子に連絡を取り、助けを求めた。



『事情は分かったよ。今私の側近と兵を向かわせるからそのまま移動し続けろ。絶対に立ち止まるなよ。立ち止まったら危険だからな』


「分かっています、兄上。ではよろしくお願いします」


 私たちは移動し続け、ハロルド王子の側近と兵に合流できたのだった。






◆◇◆◇


 このままじゃ本当にやられる。


 僕の命運もここまでかな。


 そう思っているとヒエロニウスとリリアンという人がお姉様のところにやってきた。


「シア、今回は撤退だよ。あとから出直す。ルシファーとユースティアが来た時点で俺らに分が悪いしね」


「そうですか。ロジェ、命拾いしたわね。次会ったらこうはならないから」


 そう言って三人は異空間に入っていった。


 助かったのか。いや、見逃された。


 はあ、疲れたな。僕も早くオリヴィア姉ちゃんと合流しないと。






◆◇◆◇


「お姉様とはもう一度会うって確信があるんだ。そしてもし次会うことがあればどちらかが死ぬ。そんな予感があるんだ」


 ロジェは、オリヴィアに出してもらったホットミルクを両手で強く握った。


「ロジェはつらくないの?」


「つらくないと言えば嘘になるね。でも、つらいとばかり言っていられないよ」


「そっか」


 オリヴィアは自身のカップの中を見つめたまま相槌をうった。


「オリヴィア姉ちゃんはどうなの? リアン兄ちゃんに対してした選択にまだ後悔してるよね? 頭では理解できても心がついていかない。そうじゃない?」


「そうだよ。やっぱりロジェには隠し事できないや」


「だってオリヴィア姉ちゃん分かりやすいもん。昼間リアン兄ちゃんと一緒に話しているとき、一度も目がリアン兄ちゃんのところ見てなかったよ。リアン兄ちゃんもそれに感づいてると思う」


「早く、自分の中で整理できるといいんだけど」


「オリヴィア姉ちゃん、星、きれいだね。それに満月だ」


「そうだね」


「こんな日にいろいろ悩んでると悩みがちっぽけに思えてくるよ」


「そうかも知れない」


「うん」


 ベランダから見える数多の星。二人は飲み終わるまでずっと星を見ていた。


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