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僕は幸せになるために復讐したい!  作者: 雨夜澪良
第一部 一章 出会い
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第二話 新しい出会い

「おい、起きろ、少年」


 その声が僕の意識の底から響いた。霧が晴れるように徐々に目が覚めていく。目の前には見知らぬ男の顔があった。


 慌てて布団を握りしめ、壁際に身を寄せた。全身を包む警戒心は簡単には消えなかった。


 ここはどこだ?  こんな場所に来た覚えはない。そもそも、この人は誰だ?


「そんなに身構える必要はない。とって食ったりはしないから安心しろ。俺たちは、お前が倒れているところを助けただけだ」


「俺たち?」


 僕は声を反芻しながら、部屋を見渡した。


 そこには、長い金色の髪を揺らす女性がいた。儚げな美しさを持つ彼女の耳は、普通の人間のそれとは少し違い、尖っている。


「コスプレか?」頭の隅で疑問が浮かんだが、その耳はあまりにリアルだった。


「俺はリン。そこでご飯食べてるのがオリヴィアだ。お前の名前は?」


 少し警戒を緩めて答えた。


「リアンです。ここは、どこなんでしょうか?」


 リンは少し間を置いてから言った。


「その前に、どうして倒れてたのか話してくれ」


 迷いながらも、意識を失う直前の出来事を話すと、リンは何かを察したように眉をひそめた。


「どうやら、リアンはこっちに来てしまったらしい」


「こっち?」


 頭に「異世界転移」という言葉が浮かんだ。


 金髪のオリヴィアの耳も、普通じゃない。だけど、この部屋は普通の木造で、特に変わったところはない。考えすぎだろうか。


「ここは同じ地球だ。分かりやすく言うなら――『幻の大陸』って聞いたことあるか?」


「聞いたことないです」


「昔、大陸は一つだった。しかし一部の能力者が事件を起こし、大陸を分断した。今、俺たちがいる場所は、リアンのいた大陸からは普通の方法じゃ観測できない。だからほとんど知られていないんだ。向こうのやつらからは『幻の大陸』と呼ばれていることが多い」


 混乱しつつも、質問した。


「じゃあ、ここは異世界じゃない?  でも観測できないなら、異世界と言ってもいいのかな……」


「こっちからは観測できる」


「帰れますか?」


「帰れる。ただし、方法は限られている」


 リンは言いにくそうに、でもはっきり答えた。


 期待と不安が入り混じる。


「どういう方法ですか?」


「方法としては三つある」


 リンの口調が重くなる。


「一つは……貿易を担当している組織に入ることだ」


「貿易?」


「ああ。向こうと物資をやり取りしてる。ただ、信頼も実力もなきゃ無理だ」


「……他には?」


「二つ目は、転移能力者に頼むこと。だがこれはもっとハードルが高い」


「三つ目は?」


「自分で、転移できるようになることだ」


 どれも簡単ではなさそうだ。転移って何?  本当にそんな能力者がいるのか?


「リンさんは転移できますか?」


「俺はできない。できるのはごく一部で、『四天王』と呼ばれている連中とかが代表例だな」


 新しい言葉に頭が混乱した。


「ここで功績をあげれば、報酬として転移を頼めることもある」


「功績……か」


 考え込むのはやめた。これ以上ネガティブになるのは無駄だ。


「オリヴィア、お前がリアンを見つけてきたんだろ?  詳しい事情は知ってるか?」


 リンの問いに、オリヴィアは食事を止めて答えた。


「知らない。ただ道で倒れていたのを拾っただけ」


 彼女の食べっぷりに目が奪われる。細い身体にあれだけ食べて、どこに入るのだろう。


 そういえば、聞き忘れていたことがある。


 僕を襲ったとき、日和さんは銀髪の女性に向かって「白い悪魔」と言っていた。


「リンさん、僕が襲われたとき、赤い瞳の銀髪の女性がナイフからかばってくれたって言いましたよね?」


「そうだな」


「日和さんがその女性に『白い悪魔』って言ってました。意味はありますか?」


「……白い悪魔、か」


 リンの声が沈む。部屋の空気が一変した。


「その言葉を聞いたのは、これが二度目だ」


「え?」


「最初に耳にしたとき、そいつと遭遇した村が地図から消えていた。唯一の生存者が、震える声でその名を呟いていたんだ」


「それって……」


「つまり、お前が生きて帰ってこられたのは……本当に奇跡だ」


「……っ?!」


「リアンは運がよかったな。もし次に会う機会があれば全力で逃げることを勧める。……意味がないかもしれないが…」


 僕は自分があの時動けなかった理由がただの恐怖だったのだと気づき、少し恥ずかしくなった。


「そうします」


 その言葉と同時に、お腹が鳴った。


 倒れてから何も食べていない。外を見ると明るくなっていて、きっと次の日になったのだろう。


「話はひとまずここまでだ。ご飯は食べられそうか?」


 僕はうなずいた。でも心の中では、別の答えが芽生えていた。


(絶対に帰る。必ず――)

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