封印開放
(アルの気配がまだする。だったら、完全に覚醒したわけではないようだ。だったら、殺さずにすむかも知れない)
ユースティアは能力を複数展開する。
能力『真実眼』発動
能力『干渉』発動
能力『武神』発動
リアンの剣がユースティアへと襲う。
それをユースティアが刀で受け流すが周りの大地は剣を振り下ろした風圧で割れる。
(『干渉』でリアンの能力を弱めているが完全には消せないか……)
ユースティアは受け流した後、高速の剣撃でリアンに反撃した。
だが、リアンの表皮は硬く、傷が浅くつく程度。ユースティアは『干渉』の能力をさらにリアンへと強く発動させ、リアンの能力『嫉妬』の解除を試みる。
オリヴィアとの約束をできるだけ果たすために。
自身にかける能力を弱め手加減しつつ、周りに攻撃が及ばないようにリアンの攻撃を予測し、慎重に攻撃を選び続けた。
◆◇◆◇
ああ、銀髪の女の人だ。僕の復讐相手だろう人。この力があればきっと復讐を果たせる。
本当にいいの? まだ事実かどうかも分からないよ?
怪物のくせに人を殺すの?
怪物だから人を殺すんだろ?
僕は怪物なんかじゃない。僕はみんなを守るためにこの力に目覚めたんじゃないか。だったらそのために……。
僕の中で天使と悪魔のささやきが続く。
「ねぇ、リアン君、俺の手を取りなよ」
男の人? 誰?
「俺はアランっていうんだ。前にも会ってると思うけど。それよりも、君、このままだと死ぬよ?」
「そんなこと分かっています。でも僕にはどうすればいいか分からない」
僕は膝に顔を埋めた。
元に戻りたいという気持ちとこのまま死んでも別にいいんじゃないかという気持ちが相反する。
アランと言った彼は僕の前にしゃがみ込み、首を傾げ僕にじっと視線を送った。
「めんどくさいね君」
「それなら放っておけばいいんじゃないですかね?」
自暴自棄に足を踏み入れていた僕は膝に顔を埋めたまま、ぶっきらぼうにそう返す。
「それもそれでいいんだけど……。う〜んやっぱりここまでやってきたからには最後まで責任もちたいかな」
膝から少し顔を上げ、男をじっと見る。
目の前の男が何を言っているのかさっぱり分からなかった。
男は黒い艶のある長髪を後ろにはらうと立ち上がり、後ろを向いた。
どこを見てるんだろう?
「傷ついた人がいたらオリヴィアが治してくれる。ティアが『干渉』の能力で技の威力を抑えているからそんなに被害は出ない」
アランさんは再び僕の方を向くと、僕の腕を引っ張った。だが、無理矢理立たされた僕の足には力が入らなかった。すぐにでも座りそうになる僕だったが、それをアランさんは許してはくれなかった。
アランさんは僕が自身の力で立つまでずっと腕を握り続けた。
「とりあえず元の生活に戻りなよ。君を待っている人が数人いるんだからさ」
強引だ、この人。腕掴む力が妙に強いし。
そもそも生々しい数を出さないで欲しい。悲しくなる。
僕は観念して自身の足で全身を支えた。それを確認したアランさんは腕をパッと放す。
この人の言っていること信用してもいいんだろうか。
「リアン君はウジ虫ちゃんか。なるようになる。とりあえず今は生きろ。目覚めたら何事もなかったように終わっているからさ」
◆◇◆◇
(リアンの攻撃の手が緩んだ? それにさらに能力が弱まっている。アルの仕業か? だったらこのまま魔法で眠らせた方がいい。今なら眠らせられる)
能力を複数使いこなしながらの魔法の発動。これをできる人はほんの一握り。だからこそユースティアはみんなに畏怖の念を抱かれ、憧れられるのだ。
「よそ見? そんな余裕あるの?」
「ああ、余裕さ、ヒエロニウス。お前は確かに強くなった。だが、私にはまだ届かない!」
「っ! 昔みたいに戦わなくなったお前にそんなこと言われる筋合いないよ! あのときの冷酷無慈悲のお前はどこにいった? 俺を失望させないでよ」
「そんなこと知ったことか!」
ヒエロニウスの魔法による炎をルシファーの拳が風圧でかき消す。
右腕を負傷しているヒエロニウスは舌打ちを鳴らし、煙幕を放った。
「ゴホッ、ゴホッ、あいつ逃げやがったな。逃がすか」
「行くよ、リリアン。今回はもう撤退だ」
「ええ、もうすぐで殺せたのに。しょうがないのです。さようならお兄様」
ヒエロニウスはリリアンを連れ、この場から姿をくらました。
(ちっ、逃げられたか)
「パルウェ、大丈夫か? 生きているか?」
ルシファーは先ほどまでリリアンと戦っていたパルウェの元に行き、上から見下ろす。
「生きてますよ。本当にこんなのもうごめんですよ!!」
パルウェは草の上で仰向けになりながら、息を荒らげていた。パルウェの体には致命傷はないものの怪我が多いのが見て取れる。
「悪かったな」
「悪いと思っているなら少しぐらい私の言うこと聞けってんだ!」
「そんな減らず口言えるなら大丈夫だな。私はティアたんの所へ行く」
「はあぁぁぁぁ!! なんですか!! もう少し心配してくれてもいいじゃないですか!!」
ぐったりとした表情を隠すように目に腕を乗せ、パルウェは仰向けのまま息を整うのを待った。
「大丈夫? ティアたん」
「ああ、大丈夫だ。とりあえず、能力の暴走は収まったみたいだ」
「寝ているみたいだね。このあと、どうするのその子」
ユースティアの腕の中で眠っているリアンをルシファーは上から見下ろす。
ユースティアはリアンからルシファーに視線を移すと先ほどの疑問に答える。
「またオリヴィアに預けるよ。もう一度封印してもらわないとな。――――それにしても汚れたな」
「はは、そうだな」
お互い土で服が汚れている。そんなことが久しぶり過ぎてユースティアは思わず苦笑する。ルシファーもつられて苦笑する。
「帰るか……」
「――ティアたん。一度封印が解けたんだ。いずれ、また暴走するのは目に見えてる。殺さなくていいの?」
真面目な顔をして聞くルシファーに、ユースティアは目を閉じながら、どこか優しい声音を含んだ声で答える。
「オリヴィアと約束してしまったからな。それに、敵をおびき寄せるのにちょうどいい」
「おとりにするんだ? だったら僕からは何も言わないよ」
「それより、ルシファー、足怪我しているじゃないか。大丈夫か?」
「ティアたんに心配された! うれしいな。心配されるならたまに怪我するのも悪くない」
「はあ、また変なこと言って。とりあえず、魔王城に帰ってルシファーとパルウェの怪我、完治させないとな。私はリアンをオリヴィアの元に置いてくるから先に魔王城に帰ってろ」
ユースティアはリアンを抱えたまま立ち上がると、オリヴィアの気配を探りながら、歩き始めた。
「分かったよ。ティアたん!」
ルシファーはユースティアを軽く見送ると仰向けになっているパルウェの所に向かい、
「行くぞ、パルウェ!! 『ヒール』」
声をかける。そしてついでとばかりに軽い回復魔法を唱えた。
「はいはい、分かりましたよ」
パルウェは立ち上がるなり、肩をすくめる。ルシファーはパルウェの態度に不思議そうな顔を見せる。
(『何、ふてくされているんだパルウェの奴』って絶対思っている顔ですね。あれは。本当にどうしようもない主ですよ)
パルウェはため息を吐きながら、ルシファーの後に続いた。