ある家にて (主人公の裏側サイド)
レオナが借りているマンションの一室。ユースティアはリアンを抱え帰ってきた。
「入るぞ」
そう言ったユースティアは不機嫌だった。
今、部屋に入ってきた銀髪赤眼の美女はレオナの保護者的存在であると同時に師匠だった。ツリ目なこともあって、不機嫌さをまとっている彼女は迫力があった。
「おかえり師匠。何か嫌なことでもあったか?」
彼女がレオナのベッドにリアンを寝かせるとソファに座った。すかさず彼女の分のコーヒーを注ぎ、目の前に置いた。
「ありがとう。――――嫌なことか……。そうだな、静観を決め込んでいたヴァリテイターの連中が動き始めたことか。リアンには何も思い出さず、平穏な生活をしていて欲しかったんだがな」
レオナはばつの悪そうな顔をした。牽制していたとはいえ、ヴァリテイターの連中が今回本格的に動き始めるのは予想外だった。
彼女から頼まれていたのはリアンの監視だけだったとはいえ、もっと周りの動向を見るんだったとレオナは自責の念を感じた。
「悪い。俺が今回敵の動きを見誤った」
「すまない。謝らせたかったわけじゃないんだ。――――そうだ、学校はどうだった? 楽しめたか?」
彼女はレオナに同年代ぐらいの子と接する機会も必要だろうと学校に通わせていた。
レオナにそれを言えば、「めんどくさい」と言い、行かないだろうことは分かっていたので、あくまでリアンの監視と言っていた。
「別に。ルシファー様たちから教えてもらったのばかりだし今さら感が強い」
彼女は仕切り直すように咳払いし、これからのことを伝える。
「とにかく、これから忙しくなる。アルの守護神の力も弱まっているしな」
レオナは一瞬、目を大きく見開いた。そしてすぐに平静を保つ。
「リアンの能力が強まったってことでいいのか?」
能力も魔法を使えない大陸にも関わらず、能力が強まるということはもう限界が近づいているということだろう。
「それもあるが、それだけじゃない。今はその認識でいい」
彼女はティーカップの中のコーヒーをのぞきながら答える。
「私はこの件に決着をつける。先ほど言ったとおり、これ以上は限界だ。できるだけ早く終わらせるのが最善だ」
張り詰めた顔の彼女に手を伸ばそうとしたレオナだったが、思い踏みとどまった。
彼女はそんなことは望んでいない。きっと気を使ったつもりでも逆に気を使わせてしまう。
「さてと。とりあえずリアンをオリヴィアに任せるよ。近いうちにオリヴィアの力も必要になってくるからな。借りをつくってしまうがしょうがない。レオナ、頼めるか?」
明るい声でそう告げると、コーヒーを一気飲みし立ち上がった。
「転移できないの知ってるだろ?」
顔には出ていないが、レオナの声は不満に満ちていた。
「分かっているさ。だから、あっちの大陸に一緒に転移した後、裏ギルドに気づかれないようにオリヴィアにリアンを引き渡してくれ。この手紙と共に」
「分かった」
いつの間にか手紙を手に持っていた彼女の手紙をレオナは受け取り、服の内ポケットに入れた。
「移動するか。このマンションも解約しないといけないな」
「リアンは俺が運ぶ」
「すまないな」
「別に」
これ以降、この大陸で三人を覚えている人はいない。