王との謁見
「ここだ」
そう言った龍馬は王たちがいるであろう部屋の鍵を開ける。
「みんな、目から生気を失ってる。あなたの能力?」
「ああそうだ。王太子以外の能力を解除する」
能力『洗脳』解除
「はっ、わしは今まで何を。とうとうぼけてしまったかのう」
「あれ、私たちは……」
洗脳を解除された人たちがそれぞれ反応を示すが洗脳されていたときの記憶がないようだった。
「洗脳のときの記憶ってないの?」
僕は龍馬に尋ねる。記憶ないのだとしたらすごい能力だよね。やりたい放題だもん。
「いや、本来ならあるんだがおそらく銀髪の女がその効果を消したんだろ。こんな芸当できるのそうそういない」
「銀髪の女の人!! それどこで見たんだよ!!」
「いきなりなんだよ。二日前に森で見たから今はいないと思うぞ」
僕はそれを聞き、肩をおとした。
「知り合いか?」
「僕の復讐したい相手かもしれない」
「そうか。それよりお前――――」
龍馬の声が先ほどまで洗脳されていた王の声でかき消される。
「ステルベン、どうしたのじゃ。しっかりせい」
「王様、話があります。どうか私に免じてこの者の話を聞いてくれませんか?」
王太子を揺さぶっているエルフの王に対してオリヴィアさんが龍馬に視線を向け言った。
「ステルベンと関係ある話じゃな?」
「はい。それとシアについて聞きたいことがあります。あなたなら忘れていないでしょう? それに洗脳されていた振りをしていたのも知っています」
龍馬?! 王様、さっきのは演技だったの?! 演技に見えなかった。
「やっぱりばれていたようじゃの。よかろう。皆の者、自分の部屋に戻るのじゃ。王命である」
そうして部屋にいた他の王族たちはいろんな反応を示していたが王命と言ったことで大人しく自室へと戻って行った。
「場所を変えるとするかのう」
僕、オリヴィアさん、ロジェ、龍馬、王太子は場所を移動することとなった。
王太子の拘束がされたまま洗脳が解かれる。解かれた瞬間僕たちに向けて敵意を向ける。
「どうして俺を拘束する? 不敬だと分からないか? 今なら許してやってもいい。拘束を解きなさい」
うわ、上から目線。自分が今そんな態度をとれる立場じゃないって分かってないよな。それにさっきから龍馬から殺気がだだ漏れだし。このままじゃやばいんじゃないか?
「ステルベンや、少し静かにしてくれるかのう。これからお前にも関わる重要な話があるのでな」
「お父様?! いらっしゃったのですか。お父様からも言ってやってください。話すだけならば拘束はいらないと」
そんなステルベンに王様はいらだっているようだった。
「こんなことになっているのは誰のせいか分かっておらんようじゃな。ちと黙っておれ」
能力発動『王の威厳』
この能力はこの国で王になると代々受けつがれる能力である。その能力でできることの一つに圧力をかけるものがある。つまり王の前にひれ伏すことになるのだ。
拘束されているのもあり王太子はこの能力から逃れることはできない。
「っ!」
「静かになったのう」
そういって王太子を黙らせた王は棚からある魔導具を持ってきた。
「嘘発見器の魔導具じゃ。これを使ってもよかろう?」
「はい。もちろんかまいません」
こうして僕たちはこれまでの事情を話すことになった。
(嘘発見器に反応がない。つまり、嘘はついてないようじゃな)
「ほお、そういうことがあったのか。でもこちとら王太子を簡単に変えるわけにはいかない、と言いたいところじゃが、今のこやつを見る限りわしも王太子にするのは不安になってきておる。それにお主らの願いを聞き入れた方がよさそうだしのう」
王だからだろう。国のために利益になることを選択する。そのためには自分の息子でさえも差し出す。間違ってはいないのだろう。王になるとはそういうことだと思うし……。でもつらくないのかな。
「ありがとうございます」
「あの、王太子は次誰にするか決めているのですか?」
「そうじゃな、ロジェがいいのではないかとわしは思うとる。他の王族は結婚したり、重要な職に就いていたりするからのう。王太子の子供ってわけにもいかんし。なによりロジェはわしの秘蔵っ子だしのう」
「ロジェはまだ幼いですよね?」
「そこでじゃ、大きくなるまで面倒を見てくれるかのう。わしは息子の教育に失敗したのでちと不安なんじゃ。それにロジェもそなたたちと一緒にいたいみたいだしのう。王になるかはロジェがそれから判断すればよかろう。さいわいエルフの寿命は長いしのう」
「いいの?」
「ああ。ただそなたたちがよければじゃが、嬢ちゃんは断れんじゃろうって」
「王様、ひどい。私の性格分かって言ってる」
「ほうほう、そうじゃな。それに『聖女』の能力をもつお主ならわしも安心だしのう」
「なぁっ!?」
僕と龍馬の目が驚愕に染まる。
これ、聞いてよかったのだろうか。オリヴィアさん、裏ギルドにいたときも隠してた感じするし。
「そこまで言うことないじゃない。訳あって隠してるのに。みんなこれ他言無用だから」
オリヴィアさん笑ってない。目が笑ってないよ!!
「じゃあ、王太子は俺の好きにしていいよな? ――それと王様と二人っきりで話したいことがある」
「よかろう。持っていくがよい。すまんがオリヴィアにリアンそしてロジェ、部屋から退出してもらえるかのう」
「分かりました。行こうか、リアン君、ロジェ」
「はい」
「行ったかのう」
「この際、洗脳されていた振りをしていたのは聞かない。大方予想はつくからな。シアの話だ。シアはここを出て行くとき自分の記憶を消していった。だがあんたは覚えているだろ?」
「そうじゃな。覚えているとも。わしの子供じゃからな。それで、何が聞きたいんじゃ」
「シアのことどう思っている? あんたは全て知っているんだろう? シアに何があったのかを。その上であんたはどうして何もしなかった?」
「お主が言えた義理かのう。まあよい。どうして何もしなかったのか。その答えは王位争い中だったからじゃ。王位争いは代々現国王は何があろうと手を出してはいかん。公平にみんなの意見をきいて次の国王を決める。それだけじゃ」
「なら、どうして今回あの子供を王にしようと考えた。王位争いがあるなら王であるあんたは勝手に決められない。そうじゃないのか?」
「別にそういうことではない。王位争いを行うかどうかはそのときの王位につける子供たちがあるものを見つけたら行うことになっておるのじゃ。そういうものだったのじゃがわしは反対だったのじゃ。それで子供たちに王位争いがあること自体隠していた。しかしどこからかかぎつけてのう。それでステルベンが王位争いを始めてしまったのじゃ」
「じゃあ、シアは一番王位に近かったせいで……」
「そういうことじゃ。もしシアに会ったらお主があの子の傷を癒やしてくれんかのう。わしにはこれぐらいしかあの子にしてやれんのじゃ」
「癒やせるかは分からないけどな。俺はもう行く。こいつに復讐しないと気がすまないんでね。それにここでやるのはあいつらにはちょっと刺激が強すぎる」
「気をつけて行くんじゃよ」
そうして龍馬は元王太子を連れどこかへ行ってしまった。
龍馬がその後復讐を成し遂げたのかは分からない。ただ風の噂で、あるエルフが奴隷市場で売られたというのを聞いた。そのときのエルフの状態は四肢が切断され、むごたらしいものだったそうだ。売られた後も叫び声が絶えないらしいと。