城に行ってみた
朝になった。僕たちは朝食をとり城の前まで来ていた。もちろんロジェは外套で顔を隠している。
「ここは一般人立ち入り禁止である」
二人の門番が職務を全うしていた。当然である。普通、一般人は入れない。
そんな門番にオリヴィアさんは近づき、小さな声で何かをつぶやいた。
二人の門番の目が見開かれ動揺をあらわにする。
「申し訳ありません! そうとは知らずに」
「大丈夫。意図的に隠してたから。気にしないで」
「ありがとうございます! 今、門を開きますね」
オリヴィアさん何を言ったんだろう。聞いてもまた内緒って言われるんだろうな。
城に入ると人が少ないような。そう思っている内に玉座にたどり着く。
玉座には新人冒険者らしき男が座っていた。その隣にいるのは少しロジェの面影があるエルフ。
「姉様!!」
ロジェが金髪で緑色の目をしたエルフに向かって叫ぶ。やっぱりこの人が第三王女だよね。
姉様と呼ばれた女はうっとうしそうな目をロジェに向けた。
「姉様と呼ばないでくれるかしら。まさかのこのこと帰ってくるとはね。お前なんか野垂れ死んでしまえばよかったのに」
ロジェの緑色の目が涙でゆがむ。
僕は怒りでカッとなり、剣を抜こうとしたがオリヴィアさんに止められた。
「どうして、止めるんですか!!」
怒りの矛先がオリヴィアさんに向く。ロジェが泣いているのに黙って見ていられる訳ない。
「本来いるはずの王とか王子とかが見当たらない。人質に取られているかも。今戦闘することは愚策。冷静になれ」
冷たい水を頭にかけられたようだった。確かに人質に取られている可能性がある。僕が今動いたことでその人たちは殺されてしまうかも知れない。それだけは避けなきゃいけない。ロジェが悲しむ。
「へぇ、案外賢いじゃねえか。そこの男と違って、シアの挑発に乗らないなんて」
僕は馬鹿にされ眉間にしわがよる。それとは対象にオリヴィアさんは冷静に男に尋ねた。
「どうして、こんなことするの? 王たちはどこ?」
「お前の賢さに免じて答えてやるよ。復讐さ。俺はなあ、許せねえんだよ。どうして何も悪いことをしてねえ人があんな最後を迎えなければならなかった。どうして悪いことをした人がのうのうと生きている。どうしてあんな非道なことができる。あいつは俺を守ろうとしてくれただけだ。その結果が、あんな残虐な殺され方なんて許せるわけないだろ」
そう言った声はとても悲痛に帯びているように感じた。
復讐か。僕も親を殺されたから気持ちが分からない訳じゃない。僕もこの人と同じだ。許せない。でも、だからといって無関係の人を巻き込んでいい理由にはならないと思う。だってそれじゃあ、加害者と同じじゃないか。
「しかもそいつは前世だけならず今世でも同じように周りに対して非道なことをしやがった。あいつにも同じ目に遭わせなきゃ気がすまない」
男の顔がさらに怒りに支配される。
それを僕は悲痛な目で見ていた。
「同情か? そんなものいらねえよ。俺の邪魔する奴は殺す!」
「確かに同情してないと言えば嘘になる。だけど周りを巻き込むのは違うと思う。それにあなたは今世ではその人に何もされていないと思ったんだけど、違う?」
「そうだな。今世では俺に対しては何もされてねぇよ」
「それにその人が本当に同一人物なのか断言できるの?」
オリヴィアさんは終始、冷静に男とやり取りをしていた。僕では絶対に冷静に対応できなかった。オリヴィアさんはやっぱりすごいや。それにいつでも戦闘に入れるようにしている。僕から見ても隙が見当たらない。
「ああ、できるさ。この世界に転生したときもらった魔眼のおかげでな」
魔眼
リンさんから訓練中聞いたことがある。魔眼は僕が見たことのある本のものと違うものだと。詠唱のいらない魔法ではないのだと。呪いに近く、その魔眼が強ければ強いほどその効果が死因になる場合が多いと。しかも場合によってはその魔眼が自分と相性のいい周りの人を巻き込む。そう教わった。
「どうしても周りを巻き込んで復讐するの?」
「ああ、そうだ。それが俺たちの望みだからだ」
「じゃあ、戦うしかないね。私たちはこの国の人たちを守りたい。あなたたちは周りを巻き込んででも復讐を遂げたい。それは決して相容れることはないのだから」
僕はその言葉を聞き、剣を抜いた。
火蓋が落とされたのだ。