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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第66話 勝ちたい

『決着! クレイ・ティクライズ含む3名を撃破した班長ダイム・レスドガルンが合流! そのまま残り3名も撃破し、ダイム・レスドガルン班の勝利となりました!』


『優勝はダイム君の班だ。おめでとう。しかし、しかしだ。これは決勝に相応しい戦いだったと言える。分かるかい、ニーリス君』


『はい、もちろんです! 最強と名高い生徒会長、ダイム・レスドガルンがあれほど傷付いたところを初めて見ましたよ』


『ティール君にダイム君の魔法が効かなかった、というのが重要な部分だね。これは誰にでも出来ることではないんだが、ティール君、彼女はダイム君に並ぶほど魔力量が多いんだ』


『そうなのですか? ティール・ロウリューゼは魔法が使えないと記憶していますが』


『そう、魔法が使えない。それどころか、魔力の操作すら出来ない。これはね、魔力量があまりにも多すぎる場合、その制御が難しくなり過ぎることが原因なんだよ。このせいで魔力がないと勘違いしてしまうことも多い。わたしはこれを、先天性魔力過剰症と呼んでいるが』


『先天性魔力過剰症……病気なのですか?』


『便宜上そう呼んでいるだけで、何か問題がある訳ではないよ。まあ魔力を使うのが難しいというのが症状と言えばそうかもしれないが』


『なるほど……ん? 会長と並ぶほど、ということは……』


『そう、ダイム君もまた、同様だね。分かるかな。つまり、魔力を操るのが難しいというだけで、不可能ではないということなんだよ。つまり、ティール君にはまだまだ先がある。そしてクレイ君なら再戦の際には更に作戦に磨きをかけてくるだろう。ティール君以外の班員たちも、まだまだ限界には程遠いはずさ。素晴らしい! これからへの期待が止まらない! 今でもこれほどの能力を持っているというのに、まだまだ成長の余地があるんだ! この学園を創って良かった、心からそう思う!』


『ちょちょ、理事長、落ち着いて……』


『んんっ、すまないね。素晴らしい戦いを見せてくれた両班に感謝を。改めて、優勝おめでとう、ダイム君の班の皆。これからの活躍にも期待しているよ』


『この後、ドームにて表彰式が行われます。出場者の回復を待って、1時間後を予定しています。皆様、1時間後にドームにお集まりください』








 倒れたまま、空を見上げる。雲一つない快晴だ。今日はこれほど良い天気だったか。全く気にしていなかったな。



 負けた。



 俺の目的は、卒業時に最優秀班に選ばれることだ。そして自由を手に入れること。別にここで負けたところで、その場所が遠くなったりはしない。

 上級生相手に何度も勝利し、ギリギリまで迫った準優勝だ。むしろ、評価はかなり高いだろう。



 負けた。



 班員たちの成長も見られた。このまま鍛練を続けていけば、間違いなく学年最強になれる。目標への道は拓けている。何も不安などない。

 これから夏休みだ。今までひたすら鍛えてきた分、少し休むのも良いだろう。新学期から心機一転、更なる成長を目指すことが出来る。風紀委員での約束で、鍛練に付き合ってもらえるはずだしな。



 負けた。



 そう、何も問題はない。不安もない。未来は明るい。



 なのに、何故だろう



 こんなにも、悔しいと感じるのは



「大丈夫ですか、クレイ君」


 声をかけられ、倒れていた体勢から上体を起こす。会長だ。いつの間にか、班のメンバーも集まっていた。


「優勝、おめでとうございます。全く敵わなかった。完敗です」


「いえ、そんなことはありませんよ。危なかったです。もう少しで負けるところだった。大変良い勝負でした」


 あまり冗談を言うタイプには見えない。本気でそう思っているのか。


「再戦を楽しみにしています。まだまだ時間はありますからね」


 嫌味か? ……いや、本気で言っているのか。何も悪いことは言っていないんだが、最強の立場から言われると、非常に上から物を言われている気分になるな。

 いや、これも負けてすぐだからそう思うだけか。普段ならもう少し言葉通りに受け止められるんだが、どうも今は駄目だな。


「では、わたしはこれで。……ああ、そうだ。ティールさん」


「え? は、はい」


「もし君に鍛える気があるのなら、わたしを訪ねてくれれば相談に乗ります。君のその状態は、非常に覚えがあるものですから」


「あ、ありがとうございます」


 そういえば会長とティールは髪色が同じだな。二人とも白髪だ。特に気にしていなかったが、その状態とやらに関係しているのだろうか。


 去って行く会長の背が見えなくなり、班のメンバーだけになる。試合終了からどれだけ時間が経ったのか分からないが、俺たちもさっさと移動するか。

 座っていた姿勢から立ち上がり、フィールドから出るために歩き出す。


「俺たちも行こう。今試合終了からどれだけ経ったんだ?」


 声をかけるが返事がないので振り向いてみると、誰もついて来ていない。


「どうした? 負けたのは確かに悔しいが、そう気にするな。上級生もいる中で準優勝だぞ。誇って良い結果だ。胸を張って表彰式に行くぞ」


「いえ、それももちろんそうなんだけれど……」


 アイリスの歯切れの悪い返事。それもって、それ以外に何か気になることがあるのか?



「クレイさん、ごめんなさい!!」



 突然ガバッと頭を下げるティール。何事だ。全く心当たりがない。


「謝られるようなことはないぞ。むしろ褒めたいくらいだ。良く頑張ったな。勝たせてやれなくてすまない」


「あたし……あたし、クレイさんがいつも恐怖を感じてるって聞いて、やっぱり負けると良くないことになるんだって! だから、今日は絶対勝ちたかったのに……!」


「待て待て、何の話だ?」


 俺が問いかけると、班員たちは互いに顔を見合わせて、やがて意を決したように、アイリスが語りだす。


「あなたの家の、ティクライズ家の当主の意向で、結果を出さないと良くないことになるんじゃないかって、わたしたちは考えていたんだけれど……」


 そうして5人が前回大会の最中、4日目の寮に帰る前に話した内容を伝えられる。俺は一言も家のことなんて言っていないのに、何故フォンはそんなに知っているんだ……。


「確かに学園で成長が見られないようならお前には死あるのみだ、などと言われはしたがな。だが俺は、家を離れて自由を手に入れるためにここに来た」


 今までしっかり自分の目的を語っていなかったのが悪いのか。どうも一敗でもしたらいけないのだと思われていたらしい。

 そんな訳あるか。この学園で一度も負けてはいけないなど、無理にもほどがあるぞ。


 というかティールが何故急に戦えるようになったのか、やっと分かった。昨日はフォグルが指導のようなことをしていたからともかく、今日は何故会長と戦えたのか疑問だったんだよな。

 俺のためにと思って気合いを振り絞っていたようだ。ありがたい話だ。ますます勝たせてやれなくて申し訳なく思う。


「え、じゃあ……」


「ああ。この負けは普通に負けとして悔しく思っていれば良い。別にそれで俺が酷い目に遭ったりはしない」


 そう言った瞬間、5人ともがホッとしたように表情を和らげる。まったく、早とちりというか、過保護というか。



 ……ああ、そうか。理解出来た。何故こんなにも悔しく思うのか。



 俺は、勝ちたかったんだ。



 目的がどうとか、自由がどうとか、関係なく。



 ただ、純粋に、この班で勝ちたかったんだ。



 ただの手段だと思っていた。



 自由を手に入れる。そのための、手段。



 だが、違う。俺はいつの間にか、この班が好きになっていた。



 俺の目的のため、というのはもちろんある。



 だが、それだけではなく、ただ、今この時、




 この仲間たちと共に、勝ちたい、と




 それを理解した途端、感じていた悔しさが耐えきれないほどに大きくなって、


「え……ちょ、クレイ!? あなた、泣いてるの!?」


「クレイさん!? い、痛いんですか!? やっぱり何か良くないことが……!」


「おおおおお、おちゅちゅけくりぇい! ああ、あのあの、あれだ! えっと、えっと」


「クレイさん、今すぐに保健室のネスク先生を呼んできますから、待っていてください!」


「いい子いい子。クレイ、大丈夫、大丈夫だから」


 5人がそれぞれに慌てている様子を見て、笑いがこみ上げてくる。


「ふ、はは、はははははっ!」


「今度は笑ってる……? どうしたって言うのよ……」


 不審がられているのは分かっている。が、どうにも抑えられない。


「ああ、悔しいなぁ。勝ちたかった。物凄く、勝ちたかった!」


 泣きながら笑って、自分の想いを素直に口に出して、



「俺は、お前らと一緒に、勝ちたかったんだよ」



 こんなに素直になれたのは、いつぶりだろうか。いや、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。

 今まで、こんなに親しく過ごした人間は存在しなかったから。俺はきっと、友人というものとの接し方が分かっていないんだろう。だからこんなに情緒不安定になる。


 だが、良い気分だ。



「次は、勝つぞ」



 そう言えば、皆笑ってこう返してくれる。



「もちろん!」



 ああ、次は、勝つぞ。








 その大会の結果は、学園都市リーナテイス中に知らされた。

 街の掲示板に張り出されたり、新聞として各家庭に届けられたり、都市の住民のほぼ全てが、その結果を知るところとなる。


 ここにも、新聞片手に大会結果を流し見る者が一人。


「ふむ、優勝はまあ順当なところですかねぇ。おや、準優勝は1年生なんですか。素晴らしい活躍ですねぇ。……おやぁ?」


 その者は、特に興味もなさそうに新聞を眺めている様子だったが、成績優秀者たちの顔が並べられている欄が目に入ると一転、まじまじと新聞を見つめる。


「この顔……なるほどなるほど。ディルガドールに入学していたんですねぇ。くふ、くふふふふふ」


 楽しそうに、ニヤニヤと笑う。その顔は、まるで長年追い求めていた宝を目の前にしたかのように紅潮していた。


「運命、なんてものを感じてしまいますねぇ。ふむふむ、確かディルガドールは夏休み明けにモンスター討伐実習がありましたねぇ。くふふふ、くふふふふふふ」


 笑い声が響く。楽しそうに、嬉しそうに、



 しかし、どこまでも不気味に、悪趣味に、醜悪に。



 いつまでも、笑い声が響き渡っていた。

 次回、閑話を1つ入れて、第2章完結となります。閑話は、ルーとマーチの過去についてです。閑話と言いつつ、今後閑話も読まれている前提でマーチの描写を行いますので、出来れば読んでいただけると幸いです。

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