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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第61話 覇王の一撃

 目の前に立つのは、2メートル近くある大きな男の人。その手はあたしの体を握りつぶせそうなほどに大きく、構える大剣はあたしの身長よりも長い。

 ハンマーを構える。でも、こんな大きい人と本当に戦えるのかな。あたしの取り柄なんて力だけなのに、こんな力が強そうな人……。


「っしゃあ! んじゃ、やるかぁ!」


 急に大きな声を出されて、ビクッとしてしまう。でも、頑張らなきゃ。クレイさんがあたしに任せてくれたんだから。


「あん? んなへっぴり腰じゃあ、まともに力入んねぇだろうが。もっとガッシリ構えんだよ。せっかくデケェ武器持ってんだからよぉ」


「え?」


 アドバイスしてくれてる? これから戦う相手なのに。


 あまりにも意外な行動に、少し緊張が解れた。あたしだって今までハンマーの扱いを練習してきたんだ。強い人たちほどじゃなくても、それなりには使えるようになってる。

 しっかり足を踏みしめて、柄を握り直す。


「良いじゃねぇか。じゃ、行くぜぇ!!」


 大きい見た目に似合わず、鋭い踏み込みで一気に距離を詰めてくる。でも、いつもカレンさんの動きを見てきたんだ。これくらい……!


「おらぁ!!」


「やぁ!!」


 振り下ろされる大剣に、正面からハンマーをぶつける。


 凄い力……! でも、力なら、負けないっ!


「お? おおっと」


 更に力を込めて、大剣を押し返していく。よしっ! 力はあたしの方が強い!


「やるな。その体格で俺より力が強ぇとは。だが、甘ぇぜ!」


「え、ひゃあっ!?」


 一瞬押し込まれる力が弱まり、全力で力を込めていたせいでバランスを崩してしまう。

 それを見逃さず再び振り抜かれた大剣を、何とか柄で防御、弾き飛ばされて間合いが開く。


「まだまだ拙い感じだな。いくら力が強くたって、全力出すだけじゃあダメだ。入れて抜いてを自在に操んだよ。お前ほどの力でやりゃあ、それだけで必殺技だぜ」


「は、はい」


 どうしてこの人はこんなにアドバイスをくれるんだろう。あたしが弱いなら、それだけこの人が有利になるはずなのに。


「まあ、これくらいにしとくか。行くぞ?」



 覇道・昂進(こうしん)



 一歩、踏み込んだと思ったら、次の瞬間には目前で剣を振り上げている。反射的にハンマーで防御、重さに押されながらも何とか耐えきる。


「良い反応だな。さあ、上げていくぞ!!」



 覇道・激震!!



「ぐっうううううぅぅぅ!!」


 巨大な剣がまるで木の枝かなにかのように高速で振るわれる。何度も、何度も、何度も高速で叩き付けられるそれを受ける度、爆発したかのような轟音が鳴り響く。


 重い……!


 一つ弾く度、手に痺れが蓄積していく。少しずつ手の感覚がなくなっていく。



「気ぃ抜くんじゃねぇぞ。重いの行くぜ?」



 高速連打が一瞬、止まる。振り上げられた剣が光を帯び、



 覇道・会心!!!



 振り下ろされる。それが危険なことは分かっていた。だが、痺れた腕では防御が間に合わない。流石に無防備に受けるのはダメだ。何とかハンマーの柄を引き寄せ、体の前に構える。



 そんな軽い守りに、意味はなかった。



 防御の上から叩き付けられたその一撃は、重りで加重しているはずのあたしを軽々と吹き飛ばす。何度も地面に跳ねながらなおも飛ばされ続け、平原を横切り森の木に叩き付けられてやっと止まる。

 視界がチカチカと明滅し、上下も分からないほど目が回る。自分が倒れているのか立っているのかすら定かではない。


 でも、木に打ち付けた背中が痛む。痛みを感じることが出来ている。意識はある。


 だったら、まだやれる……!


 クレイさんは言っていた。勝てなくても良い、逃げても良いから出来る限り時間を稼いでくれ、と。実際、あたしではこの人に勝つのは難しいと思う。技術が足りていないし、まだまだ思い切り踏み込むことが出来ていない。無理矢理奮い立たせても、どうしても恐怖に竦んでしまう。

 クレイさんはそれでも良いと言ってくれる。班のみんなは、ゆっくり頑張っていこうって言ってくれる。出来るだけやれたら、後は何とかしてあげるからって。


 あたしは何だ。班のペットか何かか。


 いい加減、臆病を追い出せ。


 やれる。実力を発揮出来れば、あたしだってやれる……!


 あたしは……あたしは……!



 クレイ・ティクライズ班の一員だっ!







 へぇ、立ってくるのか。ハイラスの話じゃあ、ティールは臆病だから痛みを与えれば逃げ出すだろうってことだったが。

 立ったところで無意味だ、なんて、ハイラスの奴なら言うのかもな。


 だが、俺はそうは思わねぇ。


 ほら、目付きが変わった。これまでは臆病だった。ちゃんと戦えなかった。それは事実なんだろう。だからって、じゃあ今回も戦えません、とはならねぇんだよ。


 口だけ達者なやる気の欠片もねぇ奴はいくらでも見てきた。負けたら言い訳して仕方がなかったなんて言いやがる奴もいくらでも見てきた。

 そんな連中を見てるとイライラする。どうしても言ってやらないと気が済まない。意識を変えないと一生そのままだって。次どうすれば良いのか考えない奴に先はねぇって。


 そうすると、奴らは決まってこう言うんだ。


 自分はお前とは違うんだって。


 何が違う。同じ人間だ。同じ年齢だ。同じ学園に通って、同じ時間を生きている。そりゃあ才能ってやつはあるさ。全員が同じところまで行ける訳じゃねぇ。だが、それがどうした。だったらもっとやるだけだろうが。

 少なくとも、俺はレオンに勝てないのは仕方がないなんて思ったことはねぇし、いつか抜いてやるつもりで毎日鍛えてる。



 なあ、お前もそう思うだろう?



「来い! お前の全力を見せてみろ!!」


「らああああぁぁぁぁっ!!」


 ハンマーを構えて間合いを詰めてくる。その一歩一歩が地面を抉る踏み込み。蹴る毎に勢いを増し、3歩も進む頃には飛んでいるのではないかというほどに速度を上げてくる。

 だが、レオンほどじゃない。しっかり見えている。タイミングを合わせて、大剣を叩き付ける。



 ハンマーと正面からぶつかり、一瞬拮抗、次の瞬間には弾かれる。



 こいつ、力が上がってやがる……!



「はあああああぁぁぁぁ!!」


「くっはははははは! マジかよ! さっきまでとはまるで別人じゃねぇか!!」


 弾かれた剣を最小の動きで引き戻し、再び打ち合う。何度もハンマーを打ち込んでくるのを全て迎撃する。

 さっきまでなら、俺の方が速かった。力は負けていたとはいえ、そう大した差でもなく、何度か打ち合えば押し切ることが出来た。


 だが、今はどうだ。


 踏み込みに躊躇がなくなり、力が上がった。そのせいで、打ち合う度に剣を引き戻す時間がかかる。

 対してティールは、力任せにぶん回すことで、威力も速度も上がっている。常識外れのパワーだ。少しでも気を抜いたら、剣がどこかに吹っ飛んじまいそうだ。


 結果、その場に足を止めて互角の打ち合いになる。いや、やや俺が劣勢か。このまま続ければ、いつかは俺の手から剣が飛んでいくだろう。頑丈な剣を使っていて良かった。そうでなければ、とっくに剣が砕けていた。


 これが、こいつの本気か。


 ああ、スゲェよ。その力は紛れもなくトップレベルだろうさ。



 それで、さっき教えたことは覚えてるか?



 今まで正面から打ち合っていた大剣を、やや横にズラす。ハンマーを滑らせるように受け流し、即座に斬り返す。



「っあああああぁぁぁぁぁ!!」



「っ!? てめぇ、ホントにマジかよ!?」


 完全に受け流した。いくら心構えによって力が増そうと、技術は気持ちだけではついてこない。いきなり完璧に受け流しに対応出来るようになったりはしない。

 だというのに。完全に受け流されて体勢が崩れたのに、力だけで無理矢理持ち直して来やがった。受け流されて地面を叩きそうだったハンマーが跳ね上がり、俺の大剣を受け止めてくる。

 そんな不完全な打ち合いでも、まだ俺よりパワーで上回ってくると来たもんだ。マジでどうなってやがんだ、こいつの力は。


 再び打ち合いが続く。何合打ち合ったのか、手の感覚がほとんどない。このままでは大剣の細かい制御が出来なくなる。早めに決めないとマズイ。


 すっぽ抜けないように、剣を握り直す。その瞬間、ハンマーに弾かれた剣が、大きく上に持ち上がる。細かく取り回して打ち合っていた中で現れた、明確な隙。



「はああああああぁぁぁぁぁっ!!」



 それを見逃さず、ここで決めるしかないという気迫が込められたハンマーが振り下ろされる。渾身の一撃。さっきまでよりも更に力が込められているのが分かる。こんな物を受ければ、一撃で骨まで粉々になるだろう。



「精進しろよ」



「っ!?」



 分かっていた。今まで見つからなかった隙が目の前に現れれば食らいついてしまうものだ。ギリギリの打ち合いの中で、お互いに全力を振り絞った戦いの中で、やっと見つけた千載一遇の好機。そこを突いて全力の攻撃が来るのは読めていた。



 振り下ろされるハンマーを半身になって避ける。



 そして、振り上げた大剣にこちらも全力を込めて、



 込めた魔力が輝きを放つ。



「覇王・君臨っ!!!」



 振り下ろす。咄嗟に挟まれたハンマーの柄ごとぶった斬る。ティールを吹き飛ばし、その勢いのままに地面を両断。平原を真っ二つにして、森まで続く地割れが発生する。


「良い戦いだった。またやろう」


 地割れの先で木に叩き付けられて気を失ったティールに、宣言する。あいつはまだまだ強くなる。俺もうかうかしてられねぇな。

 さて、他の援護に行かねぇと。苦戦してるところは……っ!


「うおっとぉ!!? っぶねぇな」


 周囲を見渡しながら振り向いたところに、ちょうど足が飛んできていた。ギリギリで剣の腹で受け止める。


「っつー……結構重いな……」


 さんざんティールの剛撃を受け止めた後だ。もうほとんど腕に力が入らねぇ。だってのに、休む間もなく連戦かよ。

 こいつがここにいるってことは、アイビーはやられちまったか。


「やってやらぁ! 来いやぁ!!」


 両手を胸の前に構え、軽くステップを踏んでこちらを窺うクル・サーヴに対し、俺も大剣を構えた。

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