第60話 実力
平原に進み出てくる2人の姿を確認。距離を空けて向かい合う。
「フォン、下がってなさい。あの2人はわたしがやるわ」
一歩前に出る。やっとだ。やっとこの状況になった。
「1人でやろうって訳? 何かわたしたち2人より王女の方が強いとか言われたけど、だからって手抜きされるのは流石にムカつくわね」
「マーチ・イーヴィッド。あなた、何も分かってないのね」
「……何がよ」
これまでの試合、わたしは常に本領を発揮出来ていなかった。クレイの作戦に文句がある訳じゃない。勝率が高い作戦を採用するのは当然のこと。わたしが牽制役になるのは理に適っている。
だからといって、満足している訳じゃない。作戦に文句はなくても、暴れられないことに不満はある。
わたしは本来、目立つのが好きなんだから。
「わたしはアイリス・ヴォルスグラン。あまり舐めないことね。ヴォルスグラン王家の力は、いつも身近に感じているでしょう?」
わたしは本来、魔法使い相手の時に実力を発揮する。それを教えてあげるわ。
腰に差していた細剣を抜き放つ。
「ハッ! 魔法使い相手だから、剣を使って近接に持ち込んでやろうって? 舐めてるのはどっちよ。そんな付け焼刃でどうにかなるほど、わたしたちは雑魚じゃないわ」
「ベラベラとやかましいことね。少しは隣のお友達を見習ったら?」
静かにこちらの出方を窺うルーを顎で示してやる。まあこんなのはただの煽り合いだ。マーチだって、こちらの動きに集中しているのは分かっている。ただ性格の違いが出ているだけだろう。
言い合いながら、少しずつ距離を詰めていく。ゆっくりと、弧を描くように歩を進める。
「ふん。そっちこそ、そんな重りは捨てて真面目にやれば? まあ真面目にやったところで、わたしたちの勝ちに決まってるけどね」
「あら、それなら、この剣がただの重りではないと教えてあげる、わっ!」
閃脚!
「っ! ルー!」
ゆっくりとした歩みから一転、雷を纏い、高速で接近する。もちろんレオンには遠く及ばないけれど、わたしだって昔はレオンと一緒に鍛練をしていた。似たようなことは出来る。
ルーとマーチが、それぞれの得意魔法で迎撃しようとする。飛んでくる水、風の魔法。レオンなら、これらを避けながら接近するんだろう。もしくは魔法が飛んでくる前に距離を詰め切っているかもしれない。だが、わたしは、
「速考の私針、連鎖の紫電」
思考を加速。そして魔法を放つ。剣を持とうがわたしの本職は魔法使い。通常の前衛と違い、魔法に対して魔法で防御しながらの接近が出来る。
「2人掛かりでやってるのに!」
「それが実力の差よ」
魔法をぶつけ合い、剣の間合いに入る直前
「雷光・一閃!」
雷を纏った高速の一突き。それは眼前に現れた水壁に防がれる。それを回り込み、
「ぶっ飛べ!」
放たれる風を回避、剣を構えて突貫。
「来!」
雷を落とす。と同時に、剣を突き出す。雷は水に、剣は風に防御された。良いコンビネーションね。とても犯罪の加害者被害者の関係とは思えない。
「近づいたわね? 風牢!」
風がわたしを覆う。これで閉じ込めたつもりなら、甘いと言わざるを得ない。
「雷……」
「水弾・針!」
「っ、はぁっ!」
風を貫いて、針のように細く鋭い水が目を突き刺そうと迫る。それを間一髪、剣で叩き落とす。
「締めろ!!」
「雷神衝!」
風の檻が収縮して締め付けにくるのを、輪状に広がる雷で押し返す。
「水針連破!!」
「くっ!」
水の針が連続して放たれる。それを剣で迎撃するが、的確に落としにくいところに撃ち込んでくるせいで、非常にやりにくい。風を押し返す雷を緩める訳にもいかないし、流石にこのままだと耐えきれないか……。
どうやって打開しようか、と思っていたその時、
ルーが放つ水針の狙いが逸れ、マーチの風による締め付けが緩くなる
「えっ?」
「消滅の魔弾!」
魔法で風の檻を破壊、解放される。
「やっと効いてきたみたいね」
「何……これ……? 震えが……」
「さ、寒い……」
まるで極寒の地にいるかのように、ルーとマーチが震えている。そのせいで魔法への集中が途切れ、狙いも甘くなった。
「わたし、フォンに下がれとは言ったけれど、手を出すななんて言った覚えはないわ」
フォンの方を見れば、魔力切れで座り込んでいる。わたしの役目は、この2人をこの場所から動かさないことだった。
「最初から……これが狙いで……?」
「くっ……風」
「遅いわ。破滅の閃光」
雷が降る。それを防ぐことは、もう出来ない。
わたしたちを倒したと判断した王女が離れていく。他の援護に行くんだろう。
悔しいけど、言われた通りだったわね。
(普通にやって勝てるならそれに越したことはないが、負けた時のためにこれを渡しておく)
痺れる体を無理矢理動かして、魔法陣が描かれた紙を取り出す。腹立つわね。お前たちは負けるだろうなんて言われて、その通りに負けるなんて。
でも、負けは負け。認めるしかない。そこに文句をつけることは出来ない。
だからって、このまま終わってあげるほど、わたしは潔くないわ。
去っていく王女の背に向けて、魔法陣を起動。石弾が飛び出し、王女に直撃する
直前、どこからか飛来した炎弾に弾かれる
「そん、な……」
「っ!? 倒せてなかった!? このっ!」
振り向いた王女が魔法を発動しようとしている。駄目だ。このまま負けては、王女が他の援護に間に合ってしまう。せめて、もっと、
「ルー、起きなさい……! 死ぬ気で時間を稼ぐ……っ!」
「……はいっ」
他の決着がつくまで、無理矢理にでもここに引き留める!
「何故わざわざ森へ? 私の魔法はご存知だと思いますが……」
木の枝に腰かけたアイビーさんが上から話しかけてくる。分かっている。森の中で最も力を発揮する、植物を操る魔法の使い手。そんな相手に対し、自分から森に入るなど愚策にしか見えないだろう。
だが、こうするしかない。アイビー・フェリアラントは間違いなく自分から森を出ない。出てくるのを待ってなどいたら、彼女が好き勝手他の援護をしてしまう。
命令、森へ全速力で進行し、アイビー・フェリアラントと戦闘を行う。目標は撃破だが、不可能ならば可能な限り時間を稼ぐこと。
だから、今回の主な命令はこれだけだ。追加として、
補助命令、森からアイビー・フェリアラントを追い出すことが可能ならば、最優先で行うこと
という命令がされている。
「お答えいただけませんか。よろしいでしょう。ならば、私たちの戦いを始めましょう」
そう宣言された瞬間、大量の葉が降り注ぐ。それを全て回避しながら、木を駆け上がろうと足をかけ、
しかし、木が逃げていく。
アイビーさんは木の上にいるのに、木に登ることが出来ない。そしてあちらは周囲の全てが武器であるのに対し、こちらが使えるのは己の体のみ。
何という無理難題か。
止まっている暇など与えないと言わんばかりに、根がこちらに伸びてくる。それを避け、降ってくる葉を避け、逃げていくアイビーさんを何とか追いかける。
このままでは何も出来ないままになぶり殺しにされるだけだ。どうすれば良い……。
「生根の楽」
周囲から一斉に根が伸びてくる。それらは暴れるようにわたしがいる地面を叩く。逃げ場を塞ぐように襲う大量の根を何とか回避していると、
「落葉の舞」
葉が舞い上がるようにわたしを斬り刻もうと迫る。もはや回避するスペースなど一切なく、受けざるを得ない。
体に力を入れ、防御体勢を取る。体中を葉が斬り刻み、動けなくなったところへ更に根が襲う。
根を受け、吹き飛ばされる。それによって一時的に葉からは解放されたものの、再び葉と根が襲ってくる。そうか、これだ。
根が地面から出ようとした瞬間を狙い、足を乗せる。
そのまま根が持ち上がる勢いを借り、跳ぶ。
「っ!? 逃げてください!」
慌てて木が逃げようと動き出すが、所詮は木だ。そう高速で移動出来るものではない。跳び上がる勢いそのままに、蹴り上げる。
「きゃあっ!!」
(アイビーは植物を愛している。恐らく植物を防御に使うことはないはずだ)
クレイさんが言っていたことは正しいようだ。枝から蹴り飛ばすことに成功。そのまま枝を足場に跳び、飛んでいくアイビーさんに追いつく。そして、蹴り落とす。
「こふっ!?」
地面に叩き付けられて息を吐き出すアイビーさん。落下の勢いを乗せて止めを刺すため、頭を下にして拳を握る。
「森のご加護を!」
落下するわたしへ向けて、枝が、葉が、根が殺到する。この状況、
補助命令、空中で身動きが取れない状態で植物による攻撃を受けそうになった場合、靴裏の魔法陣を使用せよ
完璧に一致する。命令によって思考する間もなく魔法陣を使用。足から風が放出され、その勢いで一気に落下していく。
襲い来る植物をすり抜け、落下の勢いを全て乗せて、地面に倒れるアイビーさんに拳を叩き込む。
葉が、倒れるアイビーさんを包んで隠す
そのまま拳を叩き付ける。だが、分厚い葉の壁が衝撃を吸収し、大きなダメージを与えられない。
確かにクレイさんが言っていたことは間違いではなかった。だが、落ち葉を防御に使うくらいなら植物を傷つけないから良いということか。
葉の壁に向かって何度も拳を叩き付ける。その全てが勢いを殺され、そうしている間に根の攻撃が襲ってきた。一旦攻撃を止め、回避せざるを得ない。
このままでは撃破が出来ない。実力的に撃破が不可能という訳ではない。だというのに、撃破が出来ないのは、命令違反だ。
命令は絶対。違反は許されない。
撃破。命令は撃破だ。それ以外は許可されていない。
何としても撃破しなければならない。命令に従い、体が思考より先に動き出す。
足に力を込め、地を踏みしめる。襲ってくる根を置き去りに、一瞬で接近。
「浸透・衝破」
葉の壁に対して、掌底を叩き込む。その衝撃が防御を無視し、内部へ届く。
アイビーさんを守っていた葉がバラバラと崩れ落ち、中から気絶したアイビーさんが出てくる。
それと同時に、正気が戻ってきた。
いけない、今の技は……!
「アイビーさん! ご無事ですか!?」
胸に手を当てる。動いている。良かった、生きている。危なかった。一歩間違えば殺していた。アイビーさんの防御能力が高くて助かった。
本当はもっとしっかり様子の確認をしたいが、ここでのんびりしている訳にはいかない。申し訳ないが、放置させてもらおう。本当に危険なら外部から人が来てくれるだろう。
他はどうなっているだろうか。ここからでは平原の皆さんの様子が分からない。既に遅いかもしれないが、援護には向かうべきだろう。
意識が戦闘に切り替わった瞬間、体が自由を失う。
命令、アイビー・フェリアラントの撃破に成功した場合、平原に戻り、未だ戦闘中の味方の援護をせよ。状況次第で追加命令を行う。
命令に従って、駆けだした。




