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盤面支配の暗殺者  作者: 神木ユウ
第2章 頂点を取りに
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第55話 最速の拳

 クレイさんからの命令は4つ。


 命令1、全速力で真っすぐ突撃し、サラフ・シンティーが立っている場合、カレンと先に着いた方がサラフ・シンティーを落とすこと。


 命令2、サラフ・シンティーが落ちている場合、ディアン・プランズと戦闘、撃破を目指すこと。


 命令3、サラフ・シンティーを落とすことに失敗した場合、ディアン・プランズと戦闘、自分が落とされないことを最優先に、出来る限り時間を稼ぐこと。


 命令4、サラフ・シンティー、ディアン・プランズ両名を落とすことに成功した場合、他の敵と戦闘を開始すること。



 そして、基本的に行うことになるであろうディアン・プランズとの戦闘についての命令が3つ。


 命令1、自分より相手が遅いと感じた場合、全力で倒しにいくこと。


 命令2、自分より相手が速いと感じた場合、攻撃回避を最優先し、時間稼ぎに徹すること。


 命令3、自分より相手が速いが相手の負傷が重く動きが鈍い場合、攻撃回避を優先するが、時間稼ぎに徹するのではなく撃破を目指すこと。



 その他細かい状況変化についての命令が多数。

 状況を確認。サラフ・シンティーの撃破に失敗。ディアン・プランズの動きは自分より速いことを確認。ディアン・プランズの右腕が骨折している。程度は重く、戦闘行動に支障が出るものと予測。

 命令3-3、ディアン・プランズとの戦闘を回避優先で行い、撃破を目指す。



 よし、状況は整理出来ている。クレイさんの命令は流石で、体の動きに重さがない。命令と状況が完全に一致しているため、体が思った通りに動いてくれる。

 目の前には、サラフさんを背に庇うディアンさん。回避優先の命令に従い、まずは相手の出方を……



 瞬間、目の前に拳



 思考より先に体が回避を選択、紙一重で避け切ることに成功。撃破命令に従い、カウンターを


 挟む余地なく回避した左腕が薙ぎ払われる


 しゃがんで回避、した目の前に膝

 手で受ける。そのまま投げ飛ばそうと、

 体が勝手に跳び退く。直後、目の前に地面が抉れる左拳



 速すぎる。思考する前に体が動いているのに、それでも回避が精一杯。片腕が使えないというのに、この隙のなさ。練度が異常に高い。

 わたしだって速さなら上位レベルだという自負があるのに、それでも追いつくどころか、引き離されないようについて行くのが限界とは。


 一度退こうと跳び退く、が間合いが開かない。

 詰めてくる勢いそのままに突き出される拳を、退避で崩れた姿勢で何とか受け流す。

 が、受け流そうと手が触れた瞬間に拳が開かれ、そのまま掴まれる。


 マズイ……っ!


 そう思った時には遅く、鮮やかな払いで気がついたら空を見上げていた。



「ぶっ潰れろォ!!」



 そして追撃のかかと落としが降ってくる。瞬間、状況変化による命令で体が動く。


 補助命令、払いにより地面に倒れ、追撃を受ける可能性が高い状況になった場合、回避を放棄し反撃せよ。


 それにより、思考するより早く倒れた状態から最速で行える反撃行動、逆立ちしながらの蹴り上げに移行。

 結果、脚と脚が激突。押し負けはしたものの、危機からの脱出に成功した。


 再び繰り出される攻撃をギリギリ回避する体勢に戻る。受け流しも使えないらしいことを理解した。迂闊な接触は負けに直結する。これさえ理解していれば、自分が落とされないことを最優先する命令により、体が危険を勝手に避ける。先ほどと同じ状況にはならない。


 いつ直撃をもらってもおかしくない紙一重の回避を続ける。一撃、たった一撃を繰り出すことが出来れば逆転も可能なはずなのに。このままでは命令を達成出来ない。

 命令は絶対だ。守らなければ。


 撃破を目指す。命令。


 守らなければ。従わなければ。背くことは許されない。


 撃破、目の前の敵を、撃破、それが命令。命令は絶対。



 瞬間、目の前の敵の集中が、一瞬にも満たないわずかな時間、乱れる。



 補助命令、ディアン・プランズとの戦闘中、わずかでも相手の集中が乱れることがあれば、最速で攻撃を加えること。



 何が起きたのか、何故集中が乱れたのか、そんなことはどうでも良い。思考を挟む隙間もなく、その刹那を打ち抜くために、自動的に体が動く。



 最速で、折れている右腕を蹴り抜く。上がらない腕では防御も出来ない。


「ぐっ、こっのっ……!」


 このまま仕留める。よろめいた相手の顔を殴り、一歩下がったところを蹴りで追撃、腹に刺さった蹴りにより下がった頭を上から殴りつけ、地面に叩き付ける。

 止めにかかと落としを……



「馬鹿が、読めてんだよ」



 振り下ろすために足を上げた、その隙を突かれ、足を払われる。体が宙に浮き、視界が傾いていく中で見えたのは、



 拳が光を帯びるほどに力を込め、今にも打ち出そうとしている目の前の敵の姿と、



 その背後で、ナイフを構えた黒髪の男の姿だった。



『そこまで。勝者クレイ・ティクライズ班だ』






 通信でアイリス、ティールへの指示を出しながら気配を消して移動し、サラフ先輩を強襲。それによりわずかに動揺して集中が乱れたディアン先輩を落とす。

 やったことは単純だ。だが、その単純な作戦を成功させるのが難しかった。


 通信だけでアイリス、ティールの戦闘状況を把握し、指示を出すことが出来るか。

 俺がサラフ先輩のところに着くまで、クルがディアン先輩との戦闘を続けられるか。


 カレンにディアン先輩を任せられればもう少し楽だったんだがな。初手の魔法でサラフ先輩を落とせていない時点で、カレンには2人つけられて足止めされることが分かっていたから、クルに頼むしかなかった。

 もし初手の魔法でサラフ先輩が落とせていたら強化が入らない。それならクルでもディアン先輩とギリギリ互角にやれるだろうし、カレンが他の班員をさっさと落としてくれるはずなので、どうとでもなる。が、そう甘い相手ではなかったな。


「あークソ、負けたか。ッつー……。折れてる腕を思いっきり蹴りやがって」


「あ、すいません。大丈夫ですか?」


「ああ? 謝るこたねぇよ。試合でのことだからな」


「ゴメンね、ディアン君。わたしがやられちゃったから……」


「お前も謝んじゃねぇよ。あれで集中が乱れんのは俺がわりぃ。つっても、クレイが来てんのに気づけてなかった時点でどうにもならなかった気もするがな」


「ディアン先輩、サラフ先輩、お疲れ様です」


「おう、お前らもな。1年に負けてるようじゃあ、最優秀班は遠いな。ただでさえ同学年にフルームとかいう化けモンがいんのに」


「どうですかね。ディアン先輩たちなら、副会長たちと相性は悪くなさそうですけど」


 副会長の魔法は規模が武器だが、ディアン先輩の身体能力なら突破出来そうだ。そして、接近さえすればディアン先輩が負けることはないだろう。


「あの化けモンは、滅茶苦茶な規模の魔法を自在にコントロールしやがるからな。お前も見ただろ? 海みてぇになってるフィールド上の水を細かく操作しやがんだよ、あいつ。流石に水に触れずに接近すんのは骨だぜ」


 確かにあの規模の魔法を細かく操作出来るのは相当な腕だが、ディアン先輩の身体能力も大概だ。やれないことはないと思うがな。


「ま、いい。残りの試合、せいぜい頑張れや」


「クレイ君、応援してるからね」


 そう言って去っていくディアン先輩たちを見送る。


「あの、やはりお強かったです。わたしではとても敵わなくて。ありがとうございました」


 クルがその背中に声をかける。かなり押されていたからな。もし最後に俺が間に合っていなければ、ディアン先輩の渾身の一撃を食らって負けていただろう。

 特におかしいことを言っているとは思わなかったが、そのクルの言葉にディアン先輩が足を止める。



「本気も出せてねぇ奴に褒められたところで、煽られてるようにしか聞こえねぇよ」



 背中越しに顔だけこちらに向けてそう言ったディアン先輩の目は、酷く冷たいものだった。






 フィールドを出て、観戦席に戻る。仲間たちは勝利に沸いているが、クルの顔は暗い。それを見たアイリスが声をかけてくる。


「ちょっと、クルはどうしたのよ。何かあったの?」


「ディアン先輩に、少しな」


 ディアン先輩の言葉をアイリスにも教える。本気を出せていない。それは一体どういうことだろうか。クルの戦闘能力は高い。あれで本気ではないのか? だとしたらその能力の高さは学園でも最上位クラスだが。そうだとして、何故本気を出さないのだろうか。


「あー……なるほど。あの人も徒手空拳だし、相応の使い手にはやっぱりバレちゃうのね」


「そう言うということは、本当に本気ではないのか。理由を聞いても良いか?」


「んー、どうしようかしら。別に意地悪している訳ではなくて、これはクルの根幹に関わることだから……」



「お話します」



「クル。良いの?」


 どうやらクルにも聞こえていたようだ。俯いていた顔を上げ、こちらを見るその顔は、やはりまだ辛そうな表情を浮かべている。


「はい。この班は信頼出来る方たちばかりですから、大丈夫です。とはいえ誰に聞かれるか分からない場所で話すことではありませんから、寮に帰ってからでも良いですか?」


「ああ、分かった」






『では本日最終戦第四試合、ピラル・チェアード班とダイム・レスドガルン班は準備を』


 会長の試合だ。今度こそ、彼の能力を突き止めなくては。そう思い、他は全て視界から追い出して、会長の姿を追い続ける。


 しかし、見えない


 相手班長、ピラル・チェアードに接近する。ピラル先輩は槍使いだ。会長が使う剣より間合いが広い。その為、先手を取ったのはピラル先輩だった。


 そう見えた。


 しかし次の瞬間、いつの間にか槍の内に入り込んでいた会長の剣が、既に振り抜かれており、ピラル先輩が倒れた。

 本当に、いつの間にか、としか言い様がない。目で追い切れないほど速いとか、ブレて見えるとか、そんなレベルではない。本当に、瞬きするほどの間に剣が振り終わっていて、成すすべなく相手が倒れる。


 何が起きているんだ。何も分からない。対策のしようがない。



『勝者ダイム・レスドガルン班だ』



 どうやってあの人に勝てば良いんだ……。

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